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黒の聖域

エドワードはもとのアメリカ戦艦がいるアメストリス国軍基地に戻れず、最初に尋ねた陸の本陣の方へ連れて来られていた。

手当てしてもらった肩は包帯がまかれ、動かしにくい事この上ない。

エドワードは大欠伸をこきながら、硬い簡易ベッドで体を伸ばした。

「うぅ、しまった。大分寝過ごした!」
エドワードがいるのは貸して貰った仮設テントの中だった。
ロイは今頃病院テントの中で絶対安静だろうからサラもそこにいるはずである。

「大佐に話聞こうと思ったのに…。」

エドワードは、ベッドの中でため息をついた。
聞き出したいのは、サラの事だ。

エドワードはロイとリザ・ホークアイの間柄はよく知ってるつもりだった。昔の事だとしても人間の本質はなかなか変わる訳がないとエドワードは思っている。

「大佐と中尉がくっつくのは解る。

でも、なんで大佐と中尉は子供だけ作って逃げる?
サラがかわいそうだ。」

エドワードは卑怯だと思ったのだ。昔の二人を知ってるからこそ、エドワードは納得いかない。

「親いない人間代表で大佐ぶん殴ってやる。」
やさぐれた気持ちでエドワードは毛布を跳ね退けた。

「中尉が悪いわけないんだから。」

★★★

「それはマザコンと言うのだぞ鋼の。」

やっと面会の許可がおりたロイは、エドワードの質問にため息混じりでそう答えた。
「何がマザコンだっ!」
エドワードは声を大にして叫んでいた。

「君ね。35にもなってムキになるな。おとなげない…。外の者にも迷惑だろう。」
ロイはつとめて冷静にエドワードを窘めた。

今、エドワードとロイがいるのは病院テントと呼ばれる仮設病院の一室だった。例えテントであっても中身はなかなか整っている。

ロイは大きめのテントの一つを個室として使っており、普通に話した程度ならば外に漏れる事はないのだが…。

「君ねぇ。いつまで十代のつもりでいるんだね?
少しはまともな社会人になったかと思えば、さして変わってはいないんだねぇ。」
と大仰にため息をつかれてしまっては、エドワードの自尊心が黙っていない。

「言ってくれるな大佐様は!人に助けて貰っといてそいつはないだろうが!誰がマザコンだ!俺は中尉とサラの心配してるだけだ!
この責任逃れの最高責任者!」

エドワードがロイにくってかかろうとしたちょうどその時にハボックが入って来なかったらどうなっていただろうか?まったくロイに呆れられてもしかたがないその行動に、止めに入ったハボックも頭を抱えてしまった。

「大将!何病室で暴れてんだよ!!落ち着けって!」

ハボックがエドワードを羽交い締めにしてやっと騒動は治まった。
「大佐ぁ一回ぶん殴らせろ!」
が、エドワードの怒りの方はまだ治まる気配はなかった。

「大将。そんなに元帥に危害加えようとするんじゃ、また牢屋に入って貰うぜ?」
流石にエドワードもハボックに言われて静かになる。

「さて、鋼が落ち着いたところで…。
話しをあらためて確認しようか?ハボックも来た事だしな。」

ロイも安心したようにベッドに沈んだ。

「だから、何で大佐と中尉が結婚してねぇのかって事!サラと中尉がかわいそうだろが!」

「あ?何?大将、ホークアイ将軍に惚れてたの?」

「ち、が、う!
確かに頼りになるお姉さんだったかもしれないけど、そういう事じゃねぇっ!」

「鋼の。もう少し音量を下げてくれ。傷に響く。」
ロイがベッドの上で諦めた様につぶやいた。

「そう、怒鳴らなくとも答えるよ。」
「!
元帥…!」
ハボックは悲愴な顔でロイを見た。

「良いのだ、ハボック。
鋼のの問に答えよう。
もうそろそろ…はっきりさせるべきだ。」

ロイは胸の上で指を組み、天井を見上げている。

「中尉か…。
そういえば、君はそうやって呼んでいたな。
ホークアイ将軍、リザは、今セントラルにはおらぬ。
イーストの方で静養していてな。」

「静養?
病気か?」
エドワードが心なしか不安げに言った。

「……いいや。
酷い怪我をしてね。
意識不明なんだ…。」
ロイは寂しそうに、遠くを見た。

「もう、8年近く目覚めておらん。」

「8年も!?何故だ!!」

エドワードは食ってかかる様に前に出たが、ハボックに押さえられた。
ロイはゆっくりと目を閉じて開く。


「あちらの世界から持ち込まれた機翼艦に装備されていた銃器の暴発だ。

彼女は機翼艦が格納してあった場所の視察に行って、事故にあった。

それから一度も目覚めていない。」

エドワードの体から力が抜け、ガクリと膝をついた。

「大将…。」
ハボックが心配そうにエドワードをのぞきこんだ。

「確かに、私はサラとリザに寂しい思いをしいている。

最初から、説明しよう。
私達が、君達のいない間にどうなっていたのかを…


私達は君達がこの世界からいなくなった後、国の再建の為に翻弄していた。

君はいくらか聞いたかね?その当時の権力闘争を。
兵達は新政府より私を選んだ。
国民も、何もしてくれない政府よりは私の方がいくらかマシと判断した。
一方で新政府の方は賄賂やら何やらで力を付けようと躍起になってねぇ。

思い出すのも恐ろしい、怒涛の日々だったよ。

そんな日が続いて、まぁ、最初は互いに気分転換だったのかもしれんが、私はリザと肉体的な関係になった。
ただ、誤解して欲しく無いのは、私達は騒動が片付けば結婚する気のある了承の上の関係だったのであって、私が無理矢理彼女をどうこうした訳ではないと言う事だ。

しかし、騒動はなかなか収拾が尽かず、そうこうしているうちにサラをリザが身篭った事が解った。

その事を新政府の輩どもが逆手に取ってな。
無事に産ませたいのであれば、自分達に力を貸せと言ってきおった。

私は、自分の事はどうなっても構わんが、他人が犠牲になるのは耐えられんのだよ。

私はいかしかたなく、奴らに従った。まぁ、そいつらは今は掃除したおかげで一人も生き残りはいないがね

しかし、私はますます多忙になってしまってね。
サラが生まれた時も側にいてやれんかったし、籍を入れる暇もなかった。
だから、今も私と彼女は夫婦ではないのだよ。

サラが生まれて二年程たった頃、例の機翼艦の話が佳境に差し掛かって、とても気を使う状態になってしまった。
他国に流出するわけにはいかないからな。
だから最も信頼のたる側近の中からリザを行かせたのだ。


ザは機翼艦が収めされている秘密格納庫に視察に一人で出立した。サラを私に預けてな。

その視察中、機翼艦に取り付けられていた銃器が暴発。
近くにいたリザが被害者になった。…と言うのは表の話。
実はその暴発は事故ではなく、事件だったのだ。

我が国に侵入した、何者かの手によって起こされた…な。

結局、機翼艦の情報は漏洩しておったのだよ。」

ロイはそこで言葉を一旦区切り、ため息をついた。

「リザは重傷を負い、入院を余儀なくされた。
私はリザとサラを守る為に籍は入れない事にした。
籍を入れれば元帥の家族として狙われる事になるからな。

私はサラに母親は『エリザベス・グラマン』だと教えた。
サラが母親の名前を言っても、リザに被害が行かぬ様にな。

知っとるかな?

リザはグラマン中将(マスタング大佐とチェスしてたおじいちゃん将軍)のお孫さんなんだよ。

『エリザベス・グラマン』は、リザのご両親が駆け落ちしなければ、本来彼女の名になるはずだった名前だ。
今、リザはグラマン家に守られている。
その名の方が都合がよかったのだ。
それに、リザが目覚めるまで、サラを彼女に会わせる勇気は私にはない。

いつか、彼女が目覚めるまで、私はサラと待ち続ける。

国も家族も、守るのは失敗続きだがな。」


ロイは自虐的に笑って口を閉じた。
エドワードは黙ってロイの話を聞いていたが、ロイが口を閉じて暫く沈黙が続くと、彼の話が終わったと判断したのか口を開いた。

「また、俺のせいで大変な事になってたんだな。」
エドワードは俯いて眉間に皺を寄せた。

「…大佐。」

「何だね?」
ぽつりと零れたエドワードの言葉に釣られて、ロイがそちらに顔を向けると、ぎょっとしたハボックの顔が見えた。
「どうした?」

ロイがハボックの目線をたどって下を見遣ると、なんとあのエドワードがロイに向かって頭を下げているではないか!
「は、鋼の!?」


「大佐、すまなかった!」


エドワードの行動に、ロイは一瞬唖然としたが、次の瞬間には頭を上げるように頼んでいた。

「謝るな。鋼の。
すんだ事だ。」


「済んでなんかいない!」

エドワードは強い口調でロイに詰めよった。

「俺は、あの時以来、こっちの世界に持ち込んじまった厄介事は出来る限り、俺達でどうにかするって決めたんだよ!

ハイデリヒもそんな事望んじやいなかった!
あいつの遺品を、人殺しにこれ以上使わせられねぇんだよ!」

エドワードは勢いよく掌に拳を叩きつけた。

「あいつへの、俺のけじめなんだ。」

凜と胸を張るエドワードを見て、ロイとハボックもただならぬ決意を感じたのか、それ以上何も口は出さなかった。
「そうだな。
ならばー…。
君達にも協力して貰おう。関係のない話ではないのだしな…。」


16へ、諸君緊急指令だ。


黒の聖域見せた友人に35歳エドや歳食った皆様が想像できないと言われました。僕も出来てません!!(笑)
あしからず。
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