黒の聖域
ヘール・ブレーカー(ヒューズ似の人)アエルゴ国軍中佐は、地底湖に隠されている秘密開発軍艦を訪れていた。
この湖は外と繋がっているが、外からは入口が解らないという機密性の高い場所であった。
秘密開発軍艦はそこに隠され、機翼艦(エッカルト戦闘機)の研究、作製、改造、整備などが行われていた。ブレーカーがここでの指揮を握っている。
彼の目の前には、エドワードがアエルゴ戦艦に撃ち込んだロケットランチャーの出力部分があった。…だが…
「…まだ足らないのか…」
ブレーカーは悔しそうに呟いた。
たしかに、ロケットランチャーの瞬間的出力は充分なものであった。しかし、機体を持ち上げるエンジンとなると話しは全く異なる。
「これを素として、作れない事もない…が…。」
いかんせん時間がかかり過ぎる。
「やっぱり、聞き出すしかねぇな。」
ブレーカーは舌打ちをして、厳めしい軍服の前で腕を組む。
…ずずんっと翠色の湖面が揺れた。はらはらと上から甲板に土埃が舞い落ちる。
「なんだぁ?地震か?」
ブレーカーが立ち上がってドッグを見渡す。向こうから伝令が駆けてくるようだった。
「俺は上見てくる。お前達は研究進めとけ。
…どうした?」
たどり着いた伝令にブレーカーはきつい口調で尋ねた。
伝令は勢い良く敬礼し、報告を伝えた。
見るみるうちにブレーカーの表情が険しくなった。
「…何だと…?」
◇◇◇
エドワードはサラを抱いたまま、ジャングルの中を疾走していた。
とりあえず近くにアエルゴ兵の姿はない。
「振り切ったみてぇだな。」息が切れたエドワードはサラを下ろして、一息ついた。
「とにもかくにも、大佐見つけないとなんともならないからなぁ。」
流石に意気がってもやはり35歳は35歳だった。
汗が頬を流れる。
「おぉい、サラ。遠く行かないでくれ。いつアエルゴ兵が廻ってくるかわかんねぇぞ!」
辺りを見渡しているサラにエドワードは慌てて声をかけた。
サラは真剣な面持ちでエドワードを振り返る。
「エドおじさん。
私、ここ通ったわ!」
「何!本当かそれ!」
「うん。
走って来て、ここの根っこで躓いたの。」
サラが地面からはみ出した根っこを指差した。たしかに獣道に突き出ていて、えぐられた土とぶつかってできた傷があった。
「つー事はこの獣道を辿れば…」
「お父さんのいた所に行ける!」
二人は顔を合わせ、どちらともなく笑みを零した。
「そうは行かぬぞ」
『!!』
エドワードの躯を熱い物が通り抜けた
★★★
ロイは傷ついた躯を引きずって、基地の中を進んでいた。
多少基地内にいた兵も、傷ついているとは言え、歴戦の戦士(もののふ)であるロイに床の味を覚えさせられる事になった。
そして、目的地を見つけ、策士の瞳が輝く。
「借りは…返す主義でなぁ」
ロイの錬成陣が錬成光を盛大に上げるまでには、さして時間はかからなかった。
…激しい錬成光の中、ロイはその場に崩れ堕ちる…
★★★
「ヤッホー[D:63913]」
「このクソガキが!」
シディウスとチャートがジャングルの中で火花を散らしてした。チャートはメスでシディウスの急所を狙ったが、敵もさるものながらそんなスキは見せなかった。
シディウスがジャックナイフを逆手に構えて身を低く突進してきた。
チャートが牽制のメスを放つが、シディウスは軽いフットワークで避け、チャートの目の前で離脱しナイフを放つ。
チャートは冷静に身を横に流してナイフを避ける。
「甘い…よ[D:63903]」
シディウスが右手を勢い良く引いた。
「…!」
しゅっと鋭い音が微かにチャートの耳に届いた。
咄嗟に横に飛んだが、何かが脇腹をかすめていく。
「くふふっ[D:63889]」
シディウスが嬉しそうに笑いながら右手をチャートに見せた。そこには先程のジャックナイフが握られている。
「貴方はもう動けないよ…[DX:E728]」
シディウスの手元を確認したチャートは眉間に皺を寄せた。
「…。
鎖鎌みたいなものか。」
ジャックナイフには細い鎖分銅がついていて、先程はその鎖で素早く引き寄せたらしい。作りは原始的だがそれゆえに効果的な武器である。
ー距離を置いた方が良さそうだな。
チャートが身じろぐと、シディウスが言った。
「もう動けないよ[D:63898][D:63898]
このナイフにはねぇ[D:63696]痺れ薬がたぁっぷり塗ってあるのさ[DX:E734]
さっきので充分なくらいの毒がねぇ[D:63908]」
チャートはがくんと膝が抜けるのを感じた。体に力が入らない。自分の体に分厚いカバーを無理矢理被せられたようだ。
「あっはははは[DX:E72A][D:63898]
君はもう、僕の玩具だよ[D:63706]」
シディウスの足がチャートの腹を蹴り飛ばす。
チャートはシディウスを恨めしげに睨むしか術は残されていなかった。
▼▼▼
「ーっ!」
エドワードはサラを咄嗟に庇っていた。
対刃繊維が刃を阻んだが、それでも肩に痺れるような痛みが走った。
しかし、刃より鋭い殺気がエドワードを貫いていた。
「おじさん!」
「平気だ!」
サラの悲鳴を打ち消すように答えると、エドワードは太い木を背にしてサラの前に立ちはだかった。
「ふむ…。
武術の心得はあるらしいな若造。」
一つの影が殺気もあらわに、二人の前に進み出た。
「…っは!
そっくりさん祭かよ…!!
キング・ブラッドレイ!!!」
アエルゴ兵の軍服だが、見目形そのままのブラッドレイ大総統が立っていた。
眼帯もレイピアも、昔、ホムンクルスとしてロイが対決したときのままであった。
「ぬぅ、アメストリス国の手の者であるならば、(私)を知っていてもおかしくあるまいな。」
「生きて…いたのかっ!」
エドワードは両手を合わせ、地面から槍を錬成して構えた。
いつかの試験の時がエドワードの頭をよぎる。
ーせめてサラは大佐に渡さねぇと、かっこつかねぇからな。
エドワードは槍の柄を緊張しながら握り直した。流石にサラを庇いながらでは勝てる気がしない。
「…ふ…」
「?」
「ふはははっ!!
そうか、そんなに私は似ているのか!」
「は!?」
豪快に笑い出したブラッドレイにエドワードは呆気に取られてしまった。
「私はもちろん、本物ではない。以前、アメストリスの大総統を暗殺し、私と入れ替える作戦があったときに用意された顔でな。
結局、出番はなかったが。
奴の死後、そんなに欺けるとは思わなんだ。
ふっふっふ、愉快愉快。」
「べ、別人?」
「だが油断するでないぞ。
入れ代わって支障がきたさぬ様、剣技は磨いたからな。」
音がした。
「!」
剣戟がエドワードの槍を揺らす。
ブラッドレイ(偽)がエドワードに肉薄していた。
「生きては帰さぬぞ。」
エドワードの槍はレイピアを鍔で受け止めていた。
エドワードの両手が衝撃で震える。
エドワードはそれを一瞥のうちに確認した。
「やっぱりあんた、本物じやねぇや。」
「ぬ!?何を根拠に!」
エドワードは手首を返してブラッドレイ(偽)のレイピアを弾いた。
「あんた本物よりだいぶ弱いもんな!」
「ーっ!!
何を、若造が!
もう容赦せぬぞ!」
顔を真っ赤にするブラッドレイ(偽)をエドワードは鼻で笑った。
「あぁ!
掛かってこいよ、ど三流!格の違いを見せてやる!!」
白銀の斬激が闇夜を切り裂くー…!
13へ駆け抜けろ!