黒の聖域
ロイが囚われている拷問室の外が俄かに騒がしくなった。
ロイはそれに耳を傾ける、出来るだけ多くの情報を得る事をひそかに期待しながら。
『何だってんだ?
侵入者か?』(メイデンとか言う拷問士の声)
『…のようねぇ…。
仕方ない手伝ってブレーカー中佐に恩でも売っておきましょうか。』(トーチャー)
『いいねぇ。
あんなオッサンよりかは生きのいい獲物が手に入るんじゃねぇかい?』
『おあいにく。メイデンはあの元帥閣下のお相手よ。』『あんだと!?』
『じゃあね。お爺様の事、よろしく。』
どうやら見張りはあの男一人になったらしい。
「私も甘く見られたものだ。」
思わずロイから笑いが漏れる。
ガチャンと鉄の扉が開き、メイデンが毒づきながら現れた。
「ちっ!あの年増め…。
自分だけいい獲物なんてふてぇ野郎だ。」
ぶつぶつ言いながら、メイデンはロイに近いた。
「何かあった様だな。」
ロイは擦れて血が滲んだ手首を摩りながら、メイデンを見た。
「まぁ、ちょいと鼠がな。
なぁに。心配すんなよ。
あんたに助けなんか-…」言いかけたメイデンが、ふと顔を上げてぎょっとした。
「お、おいっ!てめっ!!」
ロイは余裕にみちみちた顔をメイデンに向けている。
「まぁ何。今まで散々痛め付けてくれた礼だよ。」
ロイが立っていた場所でサラマンダーの火焔陣が緋く輝く。
壁に掛かっていた篝火が天井を嘗めるように燃え上がった。
「有り難く受け取りたまえ!!」
狭い拷問室を火焔龍が横切った。
手加減無しの業火がメイデンに牙を向く。
「がぁぁああぁああっ!!!!」
メイデンの躯が弓の様に曲がる。必死に焔を振りほどこうとするが、容赦ない熱はメイデンに食らい付いたままであった。
やがて彼は膝から崩れ落ちてしまった、真っ黒に炭化した、ただの塊になって…。
煙る室内のなか、ロイが足を踏み鳴らすと宙を錬成光が走り、視界はすぐにきくようになった。
「さてと…」
アメストリス国軍事最高責任者。ロイ・マスタング元帥は、ゆっくりと扉に向かっていったのだった。
★★★
「わーっ!!
エルリック研究長の馬鹿ーっ!!」「だぁー!うっせぇやい!!
叫ぶ余力があんならとっとと走れーっ!!」
例の特攻をエドワードの錬成でからくも生き延びた三人は、アエルゴ兵のうじゃうじゃいる島の中を出鱈目に走っていた。
いきなり銃弾が傍を掠めたり、バッタリ兵と行き会ってしまうのも数回体験した。「サラぁ!
お前どっちから逃げて来たのかわかんねぇのか!?」
「もう訳解んないよぉっ!」
サラもすでに腹を決めたのか、エドワードに返す返事はノリツッコミに近い。
ジャングルのように鬱蒼とした島は起伏が多く、それ自体が天然の砦だった。
いきなり視界が開けたかと思えば断崖だったりするので始末が悪かった。
「!
止まれ!」
エドワードが腕を広げて、サラを抱えたチャートを制す。
慌てて立ち止まったチャートの足元に黒く輝くクナイが突き立ったのは、その直後だった。
「ちっ。見つかっちまったか…。」
エドワードがクナイが飛んできた方向に目をこらす。
すると…
「あぁ~ん[D:63915]
しっぱぁ~い[D:63895]んもぅ[D:63894]!
なんで当たってくれないのよぅ![D:63906]」
場に不似合いな、媚びた甘ったるい声が三人に降り懸かった。
ゾワッとエドワードの背中を寒気が這い纏わる!
明らかに男の声なのだ!
「んふっ[D:63889]
次はぁ、ぜぇったい、は・ず・さ・な・い[D:63892]ぞぉ~[D:63903]」
エドワードは耐え切れなくなって思わず足元に大砲を錬成して、声の方へ思いきり発射していた。
弾は声が聞こえてきていた木を、もののみごとに吹っ飛ばす。
「だはぁっ!気持ち悪かったっ!」
エドワードが悍ましいとばかりに吐き捨てた。
が
「んっもー[D:63911]
ひどくなぁ~い[D:63912]
いきまり、吹っ飛ばすなんてぇ[D:63913]
そんな悪いオッサンはぁ、このシディウス・ロッソ・サレントがお仕置きしちゃうよ[D:63889][D:63903]」
生きた!!
…………では無くて…
エドワードが焼け焦がした木から、ひらりと細いシルエットの人物が舞い降りてきた。それはー…
「エンヴィー!?」
小柄な躯にバンダナでまとめた長髪。悪戯好きの笑みを浮かべた彼はまさにエンヴィーと瓜二つだった。
しかし…
「エンヴィーって誰~[DX:E757]
僕はシディウス・ロッソ・サレントって今名乗ったばっかりじゃん[D:63894]オッサンあったま悪~[DX:E72C]」
…
「なんかすっげえ腹立つ。」
「エルリック研究長から、なんか殺気が…!」
エドワードから燃え上がる殺気が陽炎の様に揺らめく。「落ち着いて下さい!
ここであいつと戦えば、兵を集める事になります!」
「ぐぬぬぬっ!」
エドワードはぶるぶる震わせた拳をなんとか押し止める。
「全く~、せぇっかく先に名乗ったのに聞いてないなんてサイテーじゃなぁ~い[D:63894][D:63917]
もー怒ったぁ[D:63911]
皆まとめてお仕置きだぁ[D:63913]」
「…声聞いてるだけで腹立ちますね。」
「…内容で拍車が掛かってるぜ。」
(…筆者もなんかやっててイラッとくる)
二人がシディウスを黙らせる為に構えようとした時、二人の後ろにいたサラがエドワードの上着を引っ張った。
「!」
エドワードが振り返ると、アエルゴ兵が銃を構えるところだった。
「チャート!」
「ー!」
エドワードがサラを抱き上げ、二人は左右の木の陰に飛び込んだ。
「なぁんだ[D:63896]
バレバレ~[DX:E725]?」
シディウスがケラケラと笑う。
一応期待はしていなかったらしい。
「残念だなぁ[D:63909]
今ので片付けば楽だったのにぃ[DX:E72F]」
シディウスが懐からジャック・ナイフを取り出して、味わいながら刃を嘗める。
「逃がさないよ」
シディウスが投げたナイフが、月明かりを弾く!
「ちっ!」
チャートの右手が懐から銀色の残像を煌めかせた。
チャートがそれを投げメスで迎撃したのだ。
金属同士がぶつかりあい、余韻を残して闇に消える。「へぇ~。やるじゃん[DX:E73B]」
腰に手を当てて、シディウスは感心した声を出す。
「エルリック研究長!
ここは引き受けます!
行って下さい!」
チャートの手には指の間に一本づつメスが構えられている。「死ぬなよ!
艦長に怒られるから!」
エドワードはサラを腕の中に抱き込むと、勢いよく走りだした。
「了解。」
チャートは聞こえないだろうとしるつつも、笑いながら答える。
ゆっくりと立ち上がり、左手を閃かす。
鈍い音と共にアエルゴ兵の数人が倒れた。
「いくぜ?
オカマ野郎。」
チャートの殺気が辺りを占めた。
12へ行っチャイナ!