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黒の聖域

エドワードが操舵するボートは、波を蹴立ててまさに跳ぶように水面を走っていた。
細かく砕かれた白波が、ちらちらと宙を舞いながら頬を掠め、散る。
エドワードは仁王立ちで舵を取り、目的地まで速度を落とすつもりはなさそうだった。
「おい、エリザベス!」
エドワードが、横で必死にボートにしがみつくエリザベスに声をかけた。
声があっという間に流されてしまうので、必然的に声は大きなものになる。
「なーに!?」
飛沫を浴びたエリザベスは髪を湿らしていて、それを欝陶しそうに撫で付ける。
黒髪が滑らかで漆黒の闇夜のようだった。
「お前、本当はサラって言うんだろう!?
ロイ・マスタング大佐…いや、元帥の娘の!」
エリザベス=サラは驚きと恐怖の入り交じった表情を浮かべた。
「どうしてそれを…!」
しかし、そんなサラにエドワードは意地悪そうな、鋼の錬金術師然とした笑いを浮かべた。
「俺は大佐とは、ふっるーい知り合いなんだ!

…腐れ縁って奴?

ケッケッケ、カンドーの再会の後は積年の恨みつらみ、耳ぃ揃えてきっちり返してもらうぜ!!」

エドワードの何かとても意味深な、悪魔の様な笑いに、サラは自分にとってのお父さんの存在が危うくなった気がしたのだった。


銀色の光が目的の島を幻想的に照らしだしている。
それだけならばその島はとても美しく、神秘的にさえ見えた。
「あの島だ。
気ぃ引き締めていくぜ」
エドワードに目配せされ、サラとチャートは神妙にうなづいた。

エドワードはエンジンの出力を落とし、静かにゆっくりと島にボートを近づけていく。
「さぁて、これからなんだが…」
「何か作戦があるんですか?」
チャートがエドワードを尊敬の眼差しで見詰めた。
「当たり前だろ!
何も考え無しに敵の基地に忍び込めるかっての」
ふふんっと、得意そうにエドワードは胸を張る。
「流石、エルリック研究長!
それでどうするんですか?」
「いいか?
まず、最初に今度こそ火薬を入れたロケットランチャーを相手の港にぶち込んでだな…」
エドワードはデスチャーで表そうと拳を突き出した。
「成る程、陽動と混乱を誘うんですね?」
エドワードはチャートが言い出した事にキョトンとしてしまったが、思い直したようにチッチッチと指を振っる。
「甘い甘い!奴らは国のエリート集団なんだぜ?
そんな訓練なんて腐るぐらい熟してるさ。」
エドワードは自信満々でチャートを諭した。
チャートはそれ以上に優れた作戦があるのかと、興味津々で身を乗り出す。
「それではどうやって!」
チャートの言葉に、待ってましたとエドワードが(遠い昔にみた策士の笑い方で)笑った。

「無駄な小細工は無用!
堂々と正面突破だぁっ!!!」

握りこぶしで力説するエドワードを見上げ、サラは英語が解らないながらも

-お父さん…。
…駄目かもしれない。

と絶望的になってしまってみたりしながら、それでもボートは島の目前まで迫ってしまっているのであった。

★★★

「どう?メイデン。
あの男、何か吐いたかしら?」
茶髪のすらりとしたもの優しげな美人(アニメ・スロウス似)の同僚が拷問室から出てきたメイデンに声をかけてきた。
「おうよ。
流石の元帥閣下も、俺の鞭捌きには敵わなかったぜ。」
ケッケッケと、メイデンは生えそろった牙を見せて肩を震わせる。
「だといいのだけれど…」
そういって女拷問士は、ものうげなため息をついた。そんな彼女の態度にカチンときたのか、メイデンは目を吊り上げて詰め寄った。
「おい、トーチャ-拷問士よぉ。俺様の腕にケチ付ける気かぁ?」
しかし、マリアンヌ・トーチャ-拷問士はさして臆する事もなくメイデンを見詰める返してきた。
「いいえ。
ただ、彼のような上に立つ者がそう簡単に大事な情報を吐く訳がないと知っているだけで…。
貴方がヌルイと言ったわけじゃぁないのよ。」
ふんっとメイデンがそっぽを向いた。
「堪え性のない奴なんじゃないのか?
あの軍事国家をなよっちくした張本人じやねぇか。」
メイデンの言葉にトーチャーは、ふふっと笑い声を零した。
「何がおかしい!」
「そう思わせとくのが、あのお爺様の策略かも知れなくてよ。」
笑いながらトーチャーは髪を書き上げる。
その瞳に妖しげな光を宿らせて…


あの男より上手の女性拷問士がいるようだな…

拷問室の内部で吊されたまま、だらりと四肢を力なく垂れ下げているロイは、目だけはまだ依然爛々と輝かせたままでいた。
確かに、ロイがあのメイデンなる拷問士に漏らした情報は多少の真実を嘘で固めた代物だった。

-あれを真実と取ってくれれば楽だったのだがな…
流石に上手くはいかないか

駄目元でやった事であったが少々残念であった。
もちろん、ロイには外部に重大情報を漏洩するつもりは更々ない。しかし、こうしている限り殺される可能性は少なくなる。
チャンスがくるのをロイは待っていた。

もしも、彼が帰って来たというのであれば、必ず、助けは来る。

ロイには確信があった。
でなければ自分はここにいないはずなのだから。
(ロイ・マスタングと言う男は筆者さえも逆手にとるらしい/笑)

そう、そろそろだ…

(その通り)だった。

激しい揺れと爆音が拷問室を揺るがしたのだ!

★★★

「どあぁぁああっ!」
「きゃああぁあっ!!」
「だーはっはっはぁ!!
まだまだぁあ!!!」
エドワードが景気よく、港に一発かますと、案の定猛反撃が待っていた。
だがそれでも、エドワードは
ボートを酷使して真っ正面から港に突っ込んで行く!
「し、死ぬ!殺される!!」
「人間そんな簡単には死なないもんさ!
正面突破だぁあ!」
さらにもう一度ロケットランチャーをかっ飛ばし、大爆発の中を横切る。
「エルリック研究長!
前!ぶつかるーっ!!」
チャートがもはや半泣きで、前方を指差す。
彼らのボートは波止場になんの躊躇もなくスピード全開で迫っていた。

「いいか!
二人とも頭引っ込めてろよ!」

「頭引っ込めりゃあ大丈夫ってレベルじゃないっすよおぉ!!」

「お父さん!
先立つ不幸をお許しくださいーっ!」


数秒後、三人を乗せたボートはものの見事に波止場に突っ込んで、大破したのであった。

11を待て!


あそこまで派手な35歳もそうそういないでしょうね。(笑)
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