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勝気な彼女

やい鬼灯、鬼神様よ。そう声を張ると、目の前に座る鬼は顔を上げてぎろりとこちらを睨んできた。おぉ怖い怖い。でもそれ以前に、問題があるのである。

「何です、こちらは忙しいんです」
「4徹目だろ、閻魔様から聞いてる」

目の下の隈がそれを象徴している。人相と相まってまるで修羅の様な面持ちだけど見慣れてるから平気だ。あのじじぃ余計なこと言いやがって、と呟く声は地を這う様で流石にびびるけれど。

「少し休めよ」
「ダメです、仕事が溜まってます」
「上が休まなければ下も休めない事くらい分かってんだろ!外で見た他の奴らも皆、死にそうな顔してたぞ」

つい語気が強くなる。自分は彼の手伝いをする事は出来ないが、気遣う事くらいはできる、つもりだ。

「…そうですか」
「ほら、おにぎりだよ。あと味噌汁」

とりあえず手を止めた幼馴染へラップに包んだ握り飯と水筒に入った味噌汁を渡すと、タイミング良く彼の腹の虫が鳴いた。てか泣いた。どんだけまともな食事をしていないんだかと不安になる。

「…おかかですか?」
「梅干しだよ!早よ食え」

お椀に味噌汁を注いでどんと置く。まるで母親だ。そう思うと、ちくんと胸が痛む。

「まるで妻ですね」
「…」

こいつは、相手の考えている事が分かるのか。こっぱずかしい発想しやがって。

「妻っていうより母親だろ」
「まぁ、貴方はネクタイで首締めてきそうですけど」

お椀を傾けてずず、と啜ると奴は静かになった。お前ネクタイなんて締めないだろう、と言ってやろうかと思ったが止めておいた。気付けば大きめに結んだ握り飯はもう一つ目がなくなっていて、二つ目を手にしている事に気付いたから驚いた。

「早いな」
「腹減ってたんですよ、あ、昆布」

あぐ、と二つ目を頬張る姿が少し笑えて、喉の奥で笑うとこちらをまた睨んでくる。慌てて緩めた口元を引き締めた。

「何がおかしいんです」
「別に」

後はだんまり決め込んで。もぐもぐと腹に握り飯を収めつつ、それでも資料からほとんど目を離さない彼の横顔を眺めていた。自分はここの植物園の管理を任されていて、内部の仕事とかはほとんど分かっていない状態で。烏頭や蓬、お香と馴染み故飲みに行く回数は少なくないものの、それでも内部の鬼に対して遠く感じているのも事実だ。

「ご馳走様です」
「はいよ、お粗末様です」

手早く片付け、荷物をまとめた。長居は無用だ。あまり根を詰めすぎるなよ、と軽く忠告して椅子から立ち上がると、くいっと服の袖を引かれた。

「何」
「夕飯はおかかと鮭が良いです」

持ってこいってか。はぁ、と軽くため息をついた。条件は1つだ。

「食べた後寝るなら良いよ」
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