ツイステッドワンダーランド 短編


 
 新作流行りのスイーツや珍しい色で飾られたモノ。世間一般的に、目を惹くなにか。そしてすべてを明るくする、ハジけるキラキラとした笑顔。彼はそれらを捕らえて、思考の前にシャッターを切る。
 
 今日も今日とてそのように。今日は……、そうだ。窓から差し込む光に揺らめく黒髪が、これまで培われた物差しでちょっとばかし綺麗に見えたから。たったそれだけの理由で指を動かした。
 
 画面の中で動かなくなった景色、それを見て彼は満足げにオレンジ色の髪を指に巻き付けた。こうやって彼は数えきれないほどのものを一瞬の絵にして閉じ込めた。これはもう体に覚え込ませたクセ。
 
「どうして、ケイト先輩は私を撮るんです?」
 
 何の面白みもないでしょう。そうやって呆れたように肩を竦める彼女は先刻の彼の被写体だ。その問いかけに答える前に、眉間に皺を寄せた彼女にレンズを向けて。彼、ケイト・ダイヤモンドは再びスマホの画面に浮かぶカメラのマークをタップする。
 
 カシャッと軽快な音が響いて困り顔で彼女が制止する。こうやっていくつもの彼女をこの中に閉じ込めてあった。こんなことをして何になるのだろう。浮かんだ疑問はかき消し今日もまた、スマホの中で静止した彼女をポケットに仕舞う。
 
「え~? 監督生ちゃんって見てて飽きないし。それに異世界人なんてバズり間違いなしじゃん! 監督生ちゃんが有名になったらオレのフォロワーも増えちゃうかも♪」
「……そうですか」
 
 自分が聞いたくせに彼女は興味なさそうに視線を逸らした。正直、この問いかけがなされるのは何度目なのかは分からない。実に不毛だ、ケイトは真実を語らず、彼女はケイトの答えを言葉通りに受け取りはしないのだから。
 
 彼女はケイトに答えを求めておいて愛想のひとつでも見せるどころか。むしろ面倒くさそうに窓の桟に頬杖をつくのだ。
 
 こうやって彼女が捉えどころなさを見せるとき、窓辺から目的無く外を眺めるときに。彼女はまさにケイトとは違う世界に住む人間であるように思えた。
 
「そうだよ~!」
 
 彼女はそうしたいからそうしているのだ。いつだってどんなときだって自分の意志に基づいた行動をする。自分の心を偽るようなことはしないのだろう。でなければハーツラビュルの王に楯突いたり、マジカルシフトの大会での狡猾な不正を暴こうとなどしないはずだ。今日こうやってケイトがウザく絡むのを拒絶しないのも、彼女の心がそれを許すからだろう。嫌なものをわざわざ受け入れたりしない。彼とは違う。
 
「どうせならもっとウケよくしよーよ! けーくん的に監督生ちゃんイメチェンしたら、もっとマジカメ映えするよ?」
 
 花も恥じらう年頃の少女であるくせに色気のないショートヘア。一口にショートヘアといったって切り方でいくらでも雰囲気は変わるはずだ。それなのに見眼を飾ろうとしようとしない。見つめ返す瞳はあれだけの光を放っておいて、それに相応しい姿であろうとしない。
 
 いいやそれであるから彼女は彼女であるのだろう。この男子校という環境にいて性すら偽らずに背筋を伸ばす。彼女は違う世界の地に足をつけてもありのままに生きているのだ。まるで彼とは違う。
 
「あとさ監督生ちゃん。本当は可愛い顔してるんだからもっと笑ってくれたらいいのに」
「……私は、いつも笑っているつもりですが?」
 
 理解不能とばかりに彼女はケイトを見る。その瞳には透き通るほどの真実があるから、今度は彼が目を逸らしたくなってしまった。
 
 本当に、そうなのだ。ケイトの前ではそうでなくても彼女はいつも笑っている。今の醒めた態度とは打って変わって明るく無邪気に。自分が望むタイミングで彼女はケイト・ダイヤモンドが憧れてやまない、屈託のない笑顔で笑った。
 
 彼女が笑う場面は決まっている。同じクラスの一年生、ケイトもよく知るエース・トラッポラやデュース・スペード、そして魔物のグリムと一緒に居るときに。翳りのない友情に囲まれては彼女はそうやって笑うのだ。馬鹿みたいに空気を読んだ愛想笑いなんかしてみせたりしない。無理やり表情筋を吊り上げてそれを板につかせることなどしない。全然彼とは違う。
 
「そのお言葉は、そのままそっくり先輩にお返ししたいところです」
 
 さらりと思ったことを考えなしに口にできる。ケイトとは相対する赤い瞳の彼女は見つめた者の底を覗き込もうとするから心臓に悪い。少なくともケイトはそんな気分にさせられる。ケイトの血の滲むような努力を簡単に打ち消そうとするのだ、彼女の目は。
 
 ぼかした事実を白日に晒し、彩度を下げて馴染ませた黒を炙りだして。ゴテゴテに盛った加工もすべて無に帰す。ケイトは表情をそのままにスマホを取り出した。
 
「変なコト言うね? けーくんはいつでも笑顔じゃん?」
 
 そう言ってまたシャッターを下ろした。だから君を写真に収める。苦手で堪らない君に張り付いて困り顔を呆れ顔を、窓べりを見つめる儚さや嘘のない笑顔を撮り続ける。なんでなんだろ、正直君はそこまでマジカメ映えしないのに。
 
 だけど、どこを切り取っても絵になる君。オレとは違って何も加工なんか無しで生きていられる君。憧れちゃうな、ホント悔しいくらいにね。誰の色を塗り付けられても染まらない、流行りも廃りもない君はとにかくオレを夢中にさせるじゃん。
 
 だからさ、いつかそこに。
 
 美しい君の醜い真実が映れば面白いかも。…………なんてね。
 
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