ツイステッドワンダーランド 短編
馬鹿どもを操るのはちょっとコツがあるのだが、それはそう難しいことではない。やつらは有名人の根も葉もない噂を好む。真実だと確かめもしないままそれがさもその人間の秘密であるかのように知った顔をして語る。そうして誤った情報が拡散されていくのだ。広めてほしい話は特に、ここだけの話だが……と前置きをしてやれば際限なく広がる。
そして馬鹿というのは多人数の声を、そして声の大きいものをいつだって信じるものだ。その習性を知っていれば人を操るのは俺の力を使うまでもない。勝手に何をせずとも彼女を見る目を嫌悪と奇異のものへ変えていく。彼女の人柄を良く知りもしなければ、その境遇に嫉妬する者も多い。俺が手を下すまでもなく彼女は段々と孤立していく。
そこにちょっと俺が手を加えてやれば。まぁ、今はまだ仕上げには早いのだが……、俺の目標は達成されるだろう。
人気のない教室で蹲る君の姿を見る。最近この場所で時間を潰している、というよりも逃げ込んできたというのがきっと正しいのだろう。友人たちの傍にもそろそろ居づらいか。君と特に仲の良い友人のエースは俺と同じ部活に属しているから、色々と君に纏わる話が手に入って重宝したよ。
「どうしたんだ、こんなところで」
「ジャミル、先輩」
俺を見て泣きぬれた瞳が少し安堵を浮かべる。その瞳を見るたび俺の心は満たされるのだ。頼り切って俺に縋ろうとする、俺だけが自分を助けてくれるのだと信じている。滑稽なほどの愚かしさ。
俺を信じ切って心を許し、そして開くべきではない心を語る。そうやって君を手中に収めるために次に何が必要か、自分の口で君は教えてくれる。こうやって涙を救い取ってやる俺の手を拒みもしないだろう。
「何かあったのか、ひとりで泣いているなんて」
「いいえ、ただ最近ちょっとどこにも居場所がないみたいに感じて……」
可哀そうに、君自身にはどこにも非なんてないのにな。そう言って君はまた瞳を潤ませる。唇は涙を堪えようとキュッと引き締める健気さ。あと一押しが足りないか、まだすべてを曝け出してはくれない。
それにしても愚かなヤツらだ、虫も殺せないこの子に一体何ができると思っているのか。誠実さにおいては、忌々しいカリムに匹敵するほどに清廉な彼女だ。本当にあの強欲傲慢な学園長を唆して力をほしいままにしているとでも?
触れて確かめられないものばかり信じ、それを自分の行動原理とする。目に見えたものが嘘である可能性を疑わない。
「居場所がない? 何を言ってるんだ」
「でも……」
しかしそれは君も同じか。君をこんな状況に追いやった張本人である俺を信じ切って自分を曝け出してしまうのだから。俺が想定内の言葉にあからさまに顔を顰めてやれば、君は拠り所無く目を伏せた。
「泣くんじゃない。ほら、こうすれば少しは落ち着くか?」
今となっては誰もが忌む君のことを抱きしめてやる。俺の腕の中で少しだけ強張った身体の緊張はほどなくして緩んでいく。ああ、もう少しだろうか。君が俺にすべてを許すのは。
「俺が君の話を聞こう。どうすればいいか、俺が一緒に考えてやるさ」
蟻地獄に捕らえたも同然。甘言を囁きかければ君は深く俺に沈み、捕らわれていく。誰に心を寄せるべきかを君自身が理解することだろう。君を分かりもしない。無能は去り、真に君を理解できる俺だけが君の傍にいるシチュエーションが手に入る。
君を見るものなど、俺のほかには存在しなくていい。俺は君を手に入れるためにどんな汚い手段も用いよう。
「大丈夫、絶対にすべてうまくいく」
時々、これしか方法がなかったのかと考えることがある。だがそのたびに思い出す。君が卑しいドブネズミのような奴らにも等しく笑いかける姿を。気安く手を触れさせていたその時の光景を。思い出すだけでも反吐が出る。
君があのとき、アイツを好きだなんて言わなければ。