ツイステッドワンダーランド 短編
初めて声を掛けた時からなんだかよく分からない奴だとは思っていた。
眠気を誘うゴブリンの反乱の歴史は耳に入ってこない。センセーの声聞いて起きてるのってマジでムリ。ペンを回すのにも飽きて、書きかけのノートから目を逸らす。視線の先、隣に座ったコイツは真面目腐った表情で、その面白くもない話をじっと聞いていた。しゃんと伸ばし切った背筋、前髪の下から覗くコイツの目はオレとよく似た色をしていた。
オンボロ寮の監督生、魔法の使えないコイツはグレートセブンもくそもない寮に割り当てられた。魔法が使えないことを馬鹿にしたようなこともあった気がするけど、なんやかんやほっとけなくて一緒に居る。入学して割とすぐに出会って、寮も違うってのに面倒見てやってさ。腐れ縁ってやつ? こういうの。話してみたらコイツはいいやつだと思ったし、傍に連れてるグリムだって面白い奴だと思った。
でも未だに、俺はコイツが分からない。
入学してから結構な大事件を乗り越えてきた。健全なガッコーとしてあるまじきことも、あったと思う。だからコイツの弱みの一つや二つ握ってもいいと思うんだけど。少なくとも俺は握られてるだろうし。なんつーか、コイツは大事件に巻き込まれまくるくせに隙がなかった。
デュースはコイツをマブだという。オレもまぁ、他の奴らよりはつるんでる時間が長いんじゃねえの? とは思ったりする。監督生は魔法以外なら頼りになるし、オレらのピンチをおかしな自己犠牲でどうにかしようとする。NRC生やってらんないんじゃないかって思うくらいのお人好し。そのせいで何だかヤベー知り合いばっか作っちゃってさ。……けど。
監督生の顔を見る。きっちり授業をノートに落とし込んでる、馬鹿みたいに真面目ちゃんな奴。でもオレはツンと澄ました監督生は、たぶん本当の顔を見せてないだけなんだと思ってる。こうやって視線を辿っても、うち寮の薔薇と同じ色をした目が正直どこ向いてんのかなって思う時がある。
結局のところ、オレは監督生を分かってない。つか、他に分かってるやつがいるわけ? オレとかデュースとか、グリムといるときはそりゃフツーに笑うし喋るけどさ。
お人好しすぎだって思うくらいのヤツなのに、時々オレでもビビるような企みを考えてたりとか。なんでそこまでするんだか、オレに分からない理由が多分ある。きっと最初っからずっと監督生はずっと何かを隠してる。よく考えてみると、俺は監督生が何が好きで何が好きかこれだけ一緒に居ても答えらんないかも。
「……エース」
「うわっ」
突然肩を叩かれて飛び上がる。気が付くと授業は終わっていたようで、既にぱらぱらと他の奴らは席を立ち始めていた。オレの肩を叩いた監督生は、飛びのいたオレを見てふっと口元を緩めて笑う。いっつもの無表情じゃない、ちょっと人懐っこい顔。
「珍しいね、考え事?」
「あー、まぁそんなとこ」
お前のこと考えてたとか、気色悪いことは口が裂けても言えないから適当に誤魔化した。監督生はそう、と短くそれだけ言って丁寧に教科書とかノートを片付け始める。……なんか、いつもよりちょっとペース早くね? 部活やってるわけでもあるまいし。疑問を浮かべるも監督生はテキパキと片付けを終え、そしてすっくと立ちあがってオレを見る。
「エース、デュース。自分は先に戻るよ。……グリム、今日は先にご飯を食べてていいから」
「あれ、何か用があるのか?」
デュースもきょとんとした顔で監督生を見ている。監督生は荷物を詰め込んだリュックを背負いながら、さらりとその問いに答えた。
「今日からバイトなんだ。出勤初日から遅刻できないしね」
え、何それ。知らなかったんですけど。
思わずペンを取り落とすオレを尻目に、監督生は目を細めてグリムをよろしく、とそれだけ言ってサッサと教室を出て行ってしまった。ちらっと監督生を挟んで奥にいたデュースを見るけど、どうやらデュースも知らなかったらしく、ぽかんと間抜けな顔をしている。グリムが「モストロ・ラウンジで働くなんて、アイツも物好きな奴なんだゾ!」とか追い討ち言ったから、さっき以上にびっくりして正直アイツの考えはマジで理解できないと思った。
……つーか、そんくらい教えてくれたっていいじゃん! オレら友達じゃないわけ?
デュースとグリムがなんか話してるのを適当に聞き流しながら、胸の中に残ったよく分かんないモヤモヤに顔を顰めた。こういうトコなんだよな。オレもデュースも、監督生に色んなことを話すけど、アイツは自分の話をしたがらない。つーかあからさまに隠してる。じゃなきゃ鈍いデュースはともかく、結構な時間一緒に居るオレが気づかないとかないでしょ。
訳わかんなくて、力が抜けきって思わずため息をつく。これだけ一緒にいるくせにアイツは何にも話そうとしない。
「はーぁ、友達甲斐のねーヤツ」
もうちょい、歩み寄りってもんを見せてもよくね? 俺ら友達なんだからさ。柄にもなくそんなことを考えて馬鹿馬鹿しいと鼻で笑った。