恋風 IFストーリー短編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
花織と共に在らない未来が正しい。
そんな現実味のない事実に打ちのめされて俺は息の仕方を忘れてしまったようだ。酸素を取り込んでも取り込んでも、血液が上手く回っていない。チカチカと目眩がする。
知りたくもなかった、それが正しいだなんて。この今の幸せが偽りなどと。
鬼道花織。旧姓、月島花織は鬼道有人が帝国学園に在籍していた時に出会った少女であった。彼女の走る姿はまさに風。誰をも寄せつけない自由で美しい躍動に、鬼道は一瞬のうちに心を奪われた。
底のない恋に落ち、師の命令に抗ってまで花織を求めた。そして真摯な付き合いを経て、晴れて二人は結ばれた。そのはずだった。
だが、今日鬼道の前に現れた”正しい未来”から来た少年によれば、鬼道花織は存在しない。そもそも鬼道と花織が結ばれた事実さえも。
曰く、花織は他の男と結ばれて幸せな家庭を築くのだそうだ。他にもごちゃごちゃと少年は何か言っていた。だがそれ以上、鬼道の脳は彼の言葉を受け付けなかった。
それどころか、平静を取り繕うこともできず用があるふりをして会話から抜け出した。呼吸の仕方を忘れてしまったから。
彼女は鬼道の全てであった。花織よりもこの世界で尊いものはないと思っている。仮に、と花織を失うことを想像するだけで味わったことの無い恐怖が足元から登ってくる。歯の根が合わないほどに身体が震え、どうしようもない焦燥。
花織を失う世界を示唆されただけで自分はここまで狂ってしまうのか。本当に失った時、きっと俺は死んでしまうだろう。
荒く息を吐いて喉を抑える。身体に必要な何かが欠落してしまったようだ。呼吸すらできなくなるなんて。
容易く瞼の裏に浮かぶ黒髪。愛しい姿に涙が浮かぶ。こんなにもお前を愛しているのに、応えてくれない世界を呪う。
それがせめて、花織の心に俺を残してくれるように。
5/5ページ