恋風番外編 短編


 
 体内に深く食い込み、精を吐き出して彼は息をついた。彼の動きが穏やかになって、ようやく[#dn=1#]は呼吸を整えることができるようになった。ただ打ち付けられていた快感の余韻が抜けず、気を抜くと声が漏れてしまいそうになる。
 
「ふ……、ぅ」
 
 愛を紡ぐこの行為を[#dn=1#]は決して嫌ってはいない。少なくとも、目の前にいる彼とのそれには至福の喜びを感じている。それは世間的にみるとはしたないことなのだろうか。快楽の頂点に達した後にはそんなことを考えてしまう。
 
 覆いかぶさってくる愛しい人の身体を強く抱きしめる。腰が揺れて、私の中から彼が去ってゆく。切ない瞬間だ。ふるりと身体が震える。
 
「[#dn=1#]、大丈夫か?」
 
 彼、風丸一郎太が息の整わないまま問いかけた。茶色の瞳は至極心配そうに[#dn=1#]を覗き込んでいる。あまりの愛しさに[#dn=1#]は微笑んで風丸の頬に手を添える。大丈夫、と彼の言葉を肯定すればやっと安堵したように彼は笑うのだ。
 
 そうしてやっと、風丸はそそくさと起き上がって背を向ける。欲を吐き出したそれを外してティッシュとともにゴミ箱に放り、そこまでして風丸は[#dn=1#]を振り返った。
 
「[#dn=1#]」
 
 [#dn=1#]の隣に体を横たえて腕の中に彼女の体を抱きしめた。丁寧に[#dn=1#]のケアをしながら、時折頬や唇にキスを落とす。
 
「身体しんどくないか?」
 
「ふふ。……ありがと、大丈夫だよ」
 
 こうして何度身体を重ねたかなんて、覚えてないくらいなのに。今でも彼は最初の頃から変わらず、行為の終わりには[#dn=1#]の身体を気遣い労る。優しく見つめる瞳に、髪を撫でる手には惜しみない愛情が滲む。
 
 離れがたく、お互いの体温を感じながら寄り添う。二言三言、交わした後に風丸がふと切り出した。
 
「もうすぐ[#dn=1#]の誕生日だろ。何か欲しいものはないか?」
 
 風丸が[#dn=1#]の黒髪を梳いて整えながら問う。サプライズプレゼントなんてものを度々彼だが、いつもプレゼント選びには苦戦してしまうところから学んだのか、近頃はこうして[#dn=1#]に欲しいものを聞くことが増えた。それを聞いた上で一緒に買いに行こう、と忙しい日々の中でデートの口実を作る最近の彼らだ。
 
「なんでもいいの?」
 
 [#dn=1#]の言葉ひとつで、彼女が求めている何かがあることを風丸は悟る。[#dn=1#]が求めるものならなんでも用意する気概だけはあると、頼もしく彼は笑いかけた。
 
「俺が用意できるものならな。……何が欲しいんだ?」
 
 風丸の追求に[#dn=1#]は真面目な顔をした。小さく息を吸って吐き、そして彼の瞳を見つめ返す。
 
「私、一郎太くんとの赤ちゃんが欲しい」
 
「……えっ……⁉」
 
 そんな返答を想像してなかったのだろう。[#dn=1#]の髪に触れていた風丸の手がピタリ止まった。顔が見る見るうちに赤くなっていく風丸を見て、[#dn=1#]は微笑みながら風丸の頬に触れた。
 
「最近よく考えるの」
 
 結婚してもう二年も経つ、早いものだ。彼との日々は今でも優しく愛おしい。間違いなく幸福に満ちた日々を過ごしている。いつまでもふたりで、こうしていたい。でも最近は、その先の幸せも知りたいと思うのだ。強欲なのかもしれない。けれど想像する。彼との間に子供ができたらと。
 
「その子が……、一郎太くんに似たら。青髪で茶色い目をして、仲間思いの優しい子になるのかな」
 
 慈しみに満ちた瞳で[#dn=1#]が風丸を見つめる。彼女の指が青い前髪に触れ、目元に指を添えて撫で付ける。
 
「……だったら」
 
 風丸は[#dn=1#]を自分の胸へ抱き寄せ、彼女の前髪にキスを落とす。
 
「[#dn=1#]に似たらこの黒髪を持って生まれるんだな。努力家でさ、ちょっと頑固なとこもあって」
「うん。……でもきっとどっちに似ても」
 
 [#dn=1#]が面を上げ風丸と見つめ合う。考えることは間違いなく一つだ。風丸と[#dn=1#]の声が重なる。
 
「足が速くて、きっとサッカーを好きになる」
 
 間違いないと思う、きっと。[#dn=1#]は風丸に抱き着いて目を伏せる。私たちの子だもの。
 
「でもね。そうじゃなくたって、きっと素敵だなって思うよ」
 
 風丸がそれに応えるようにぎゅっと[#dn=1#]の身体を抱きしめた。
 
「ああ。……俺と[#dn=1#]の子だからな」
 
 むしろ可能性は無限かもしれない。自分たちには想像もできない未来を描くかも。それを想像すると、まだまだ幸せには先が見えないことを感じる。
 
「今度さ、[#dn=1#]の誕生日……」
 
 風丸が[#dn=1#]の髪に顔を埋めながら囁く。[#dn=1#]は瞳を閉じて彼の提案に首を縦に振った。
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