FF編 第七章
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影山零治の策略は試合開始のホイッスルと共に姿を現した。何とスタジアムの天井を支えている鉄骨が雷門イレブン側のフィールドに鋭く突き刺さったのだ。粉塵が舞った後、無残な姿に抉れたグラウンドがあらわになった時。観客の誰もが雷門の選手たちは無事では済まないと思ったあろう。
だが、この事態を予見し事前に動いていたのが他ならない鬼道有人だった。彼の活躍によって影山の卑劣な策の犠牲者はなく、悪事が露見した影山は警察に逮捕された。
混乱のあと、選手たちは三十分後に試合の仕切り直しを控えて待機していた。天井から鉄骨が落ちてくるという命の危機に瀕した事態に、少なからず動揺は避けられなかった。それでも誰も怪我一つ負わずに済んだ今、帝国学園との試合に向けて士気を高めていた。
「一郎太くん、怪我は……?」
ベンチに腰掛けた風丸に寄り添い、花織は心配を表情に浮かべていた。彼女の視線は忙しく擦り傷一つ見逃したくないという気迫で風丸の手足を辿っている。花織の動揺は不自然ではない、怪我人がいなかったとはいえ大事故だったのだ。言葉一つで大丈夫だと言われても到底安心できるわけではない。
「そんな顔するなよ。大丈夫だ、怪我してないから」
「でも……」
「花織」
心配しすぎだ、と風丸が花織の肩を叩こうとしたその時だった。
「花織。……風丸」
「鬼道」
ふたりの前に現れたのは波乱の種とも呼べる人物の声だった。花織の瞳は風丸から視線を逸らす。そしてゆっくりと鬼道を見上げた。彼の静かな呼吸に合わせて落ち着いた深緑色のユニフォームに赤いマントが揺れる。帝国学園のキャプテン、鬼道有人の姿がそこにあった。彼の姿を視界に捉え、風丸はその場に立ち上がった。そして鬼道に軽く頭を下げる。
「すまない。色々と面倒を掛けたな」
「いや……。謝罪すべきは俺たちの方だ。すまなかった。だがお前が俺を信じてくれたおかげで何一つとして被害はない。……グラウンドはあの有様だがな」
鬼道は肩をすくませて笑う。
「こうして正々堂々と試合ができることを嬉しく思う」
不思議な空気が漂っているのを花織は肌で感じ取っていた。以前にこうして二人が対面したことがある。冬海の件が白日の下に晒された数日後の河川敷でのことだ。あの時は身の凍るほどの殺伐とした空気が流れていたのに、今はそういうものは一切感じられない。花織は動向を見守りつつ、余計な水を差さずに口を噤んでいた。ちら、と鬼道の視線が花織に向けられる。視線がかち合って花織はとっさに視線を落とした。
「風丸、花織を借りてもいいか。彼女と話したいことがある」
「……俺が口を出すことじゃないさ」
鬼道の申し出にほんのわずかに風丸の目元が痙攣した。だが、風丸はほとんど表情を変えずに一言だけ返す。花織は表情の読めない彼の横顔を見つめ、その名前を絞り出す。
「一郎太くん……」
「花織、行くぞ」
赤いマントが翻り、鬼道が先を歩き始めた。花織はその場から動かなかったが、風丸がその背中を押した。
「行って来いよ。俺のことは本当に気にしなくていいんだ」
「だけど……」
「ほら早く、試合が始まる前に済ませてやってくれ」
宥めているとも突き放しているとも言い難い口ぶりで風丸が花織を急かす。花織は後ろ髪を引かれる思いだったが、渋々鬼道のあとを追いかけることを決めた。鬼道と花織の姿が見えなくなって数秒、おずおずと風丸の後ろ姿に声が掛かる。
「あの、風丸先輩。少しだけお話したいことがあるんですけど……」
それは険しい表情をした音無春奈だった。