FF編 第七章
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鬼道有人は険しい面持ちで総統指令室へと向かっていた。翻ったマントから覗く拳は静かに震えている。ゴーグルの奥にある眼差しは冷静に現実を見据えていた。今日の試合が公正な勝負になるのか、それとも。すべては鬼道の師である影山総帥の手のひらの上にある。
雷門サッカー部の遠征バスへの細工、そして昨日の花織の身に起こった出来事。ここまで仕組んで試合を妨害しようとしていた総帥のことだ。それらが失敗に終わった今、このまま黙って試合開始を待つとは思えない。鬼道には分かる。総帥は勝利のためには徹底的に手段を選ばない。
勝つことこそがすべて、敗者に価値などない。鬼道は影山総帥のその考えに強く惹かれていた。この人に着いていけばサッカーを極められる、そう確信さえしていた。だが、総帥はフィールドの上で戦うのではなく、盤外で対戦相手を潰そうとしている。偽りの勝利で帝国を飾ろうとしているのだ。……信用を失うには十分だ。鬼道はもう、誰よりも信じていた影山総帥を信じられずにいる。
自動ドアが開き、鬼道は指令室の中に足を踏み入れる。厳格な空気をものともせずに鬼道は歩を進めた。無表情にモニターを眺める彼の師を鬼道は強く睨みつけた。
「何の用だ、鬼道」
影山は感情の無い声で鬼道に問う。
「俺は堂々と戦いたいのです」
声を張り上げて鬼道はただ一言、望みを述べた。雷門との試合、全力でぶつかり合うことを楽しみにしていた。裏から手を回さなくとも、小細工などしなくとも。絶対に帝国は雷門に勝利する。だから鬼道の、帝国のフェアな勝利を信じて試合を託してほしい。この期に及んで鬼道は影山に期待に似た言葉を掛ける。
「何も仕組んでいませんよね」
だが、影山の言葉は鬼道の想いを簡単に裏切った。
「今まで通り、私に従えばいい」
その返答は何か仕組んでいることを肯定していた。鬼道はますます眉間に皺をよせ、嫌悪すら浮かべて総帥を睨む。鬼道自身も勝利を掴まなければならない理由がある。妹である春奈の為に、自分のために……。だが、薄汚れた勝利でいったい何を得られる?
この人は勝ちにこだわる。どんな汚い手を使っても勝ちさえすればいいと思っている。誰をどれだけ傷つけたのだとしても。……もはや、道は分かたれた。ついていくことはできない。
「失礼します」
「天に唾しても自分に掛かるだけだ」
鬼道は影山に背を向けて歩き出した。投げかけられた言葉にも振り返ることはなかった。静寂の蔓延る指令室で影山総帥は鬼道の後ろ姿をひたすら冷徹に見下ろしていた。彼の姿が扉の外に消えても、その目は鬼道を捕捉したままだ。
「ここまでだな、必要とするのは逆らわぬ忠実なしもべ……」