FF編 第五章
[#dn=1#]との電話を終え、鬼道有人は仄暗い自室でため息を零した。
闇の中で携帯電話の画面だけが煌々と明かりを灯している。その画面には、土門から送られてきた[#dn=2#][#dn=1#]の今日の姿が写っていた。
心を許し、咲き誇る花のように笑う彼女の笑顔に画面越しに触れる。あまりの愛おしさに息が零れた。
だが一緒に写りこんでいる彼女の肩を抱きしめる男の腕には、電話をする前と同じように忌々しげに視線を向ける。
……干渉せずにはいられなかった。この写真を見てしまったからには。
自分自身の決意を曲げてしまったことへの自己嫌悪はある。だが、後悔はしていなかった。今手を打っておかなければ、きっとこのまま彼女を取り戻す手立てを失ってしまう。
[#dn=1#]との接触は自分にとって禁忌だ。それでも、彼女を失う事は看過できない。
――――目的を見誤るな。
鬼道は携帯を握り締め、何度も強く自分に言い聞かせる。
かつて[#dn=1#]を遠ざけることを選択したのは俺だ。俺は何よりも大事な家族と、鬼道有人であるためにサッカーを選んだ。その決断に間違いはない。
鬼道には、何をおいても達成せねばならない悲願がある。それを遂げるためには[#dn=2#][#dn=1#]の存在は不要だった。会いたいと願う事、電話をかけることさえ”鬼道有人”への期待に対する背信行為だ。
しかし、それを分かっていながら鬼道は衝動を抑えられなくなっていた。……いや、[#dn=2#][#dn=1#]は初めて出会ったその日から鬼道の心の制御を失わせた。
――――あれは、春疾風のような女だった。
風に舞う艶やかな髪と、誰をも寄せ付けない美しい走り。
どこまでも自由なその姿は、目の前に現れた瞬間から、彼女の存在は鬼道の心をめちゃくちゃに搔き乱していった。
過ごす時間を重ねれば重ねるほど、彼女の存在は鬼道の心の一部になっていた。鬼道だけに許していた魅力的な笑顔、そして彼のためだけに注がれる努力と想いは鬼道の心を支えていた。
――――お前の心が、まだ俺のもとにあるのなら。……[#dn=1#]、お前を諦めるつもりは無い。
痛みを覚えるほど固く手を握り締める。たとえ許されなくても諦めることはできない。[#dn=1#]が鬼道の前から姿を消した時……、あの時どんなに彼女の重要性を思い知らされたか分からない。
鬼道にとって[#dn=1#]は色彩だった。
彼女を失ったとき、鬼道の世界は色と温感を失った。輪郭も質量も損なわれなかった、生きるための機能は保たれていた。それでも景色はとてつもなく無味乾燥なものに変わり果てた。
もう二度と手は離さない。勝利も家族も得たうえで、俺は[#dn=2#][#dn=1#]を取り戻す。鬼道は思いを研ぎ澄ましながら光の無い部屋を睨む。
彼の抱く感情に名をつけるのなら、それは紛れもなく恋だった。