FF編 第五章



 風丸が[#dn=1#]を連れて通路に消えた後、残された面々は嵐のような衝撃の余韻を残したままだった。

「[#dn=1#]ってば、本当に大胆だよね。っていうか、半田も見惚れて固まってたし」
「う……、うるさいな」

 主にふたりのやり取りを面白がっていたのはマックスだった。彼は顔を赤らめたままの半田の肩を叩きながら愉快そうににやにやと笑みを浮かべている。

「ふふん、まあこれでやっと風丸も報われるよね」
「え……? それってどういう意味?」

 そこで口を挟んだのは土門だった。彼も先ほどの現場にいて、成り行きを見守るに徹していた。

 [#dn=2#][#dn=1#]の動向、それは未だに彼の調査事項になっている。今のマックスの呟きも聞き逃せないものだった。

 風丸も報われる、とはいったいどういう意味だ。

「ああ、土門は知らないんだよね」
「転校生だからねー」

 肩を竦めながらへらへらと土門は笑う。調子を取り戻した半田が腕を組み深く頷きながら呟いた。 

「アイツらは誰が見ても普通のバカップルだもんなあ」

 半田の言い方が少し引っかかった。土門は首を傾げて事情の追求を試みる。

「普通じゃねえの?」
「まあね、人に言う話じゃないし、ボクは何も言わないけど」
「おいおい……、ここまで話しといてお預けかよ」

 このまま喋ってくれれば話は早かったのだが、そう上手くは行かないか。

 とはいえ、お預けとは言いつつも土門はこれまでの出来事から薄らと[#dn=2#][#dn=1#]と鬼道、そして風丸の関係を推測できつつあった。

 ――――まず、[#dn=2#]と鬼道さんの間には何かしらの繋がりがあった。そして鬼道さんは理由は分からないが[#dn=2#]を傷つけ、関係を終わらせた。

 ただ、[#dn=2#]はずっと鬼道さんに未練があるんだろう。それはこの間話した時にも何となく感じた。

 そんな[#dn=2#]に恋心を抱いた風丸がアプローチを掛けて今……、ってわけか。

 当て嵌めて考えればこれ以上ないほどの解だった。これなら風丸がやっと風丸が報われるというマックスの言葉も、この間の[#dn=1#]の言葉も、鬼道の不可解な命令や行動にもすべて説明ができる。

 しかしだとしたら、なんて複雑な関係を築いているんだ……。そして。

「……鬼道さんはいったい」
「ん? 何か言ったか?」

 ふと土門の漏らした声に半田が反応する。土門はいや、と手を振ると身体を通路の方へ向けた。

「……んや。俺、ちょっとトイレ行ってくるわ。まだ試合始まらないっしょ。あのふたりが戻ってくるまでまだ時間ありそうだし」

 それだけ言い残してそそくさと土門も彼らの消えていった通路を掛ける。そして人目に付かない場所を探し、携帯電話をポケットから取り出した。

 一応、これで風丸一郎太と[#dn=2#][#dn=1#]の関係性に対する情報は手に入れたし、[#dn=1#]が鬼道に未練を抱いているという事実もおおよそ確認できたといえる。

 ……これは報告すべきなのか?

 正直言って、鬼道の命令する調査項目の内、[#dn=2#][#dn=1#]に関することは明らかに私情を含んでいる。それでも帝国サッカー部の人間として、元々は鬼道の恋を応援しているつもりでいた。

 あの鬼道が惚れた女を落としたくてここまでしているのなら、協力してやりたいと思わないでもない。

「……一郎太様」

 聞こえてきた声にびくっと土門は肩を揺らす。誰かいるのか、というかこの声は……。

 身を顰めながら土門は壁の影からそっと声のした方を覗く。やはり……、そこにいるのは[#dn=1#]と風丸のようだ。

「……あいつら」

 息を殺しながら土門はふたりの動向を見守る。チームメイトの前では絶対に見せない、蕩けた笑顔で風丸を見つめる[#dn=1#]を見て土門は生唾を飲む。

 ――――っと、ありゃ……、魔性だな。鬼道さんがアイツを囲い込んでだって噂、もしかしてマジのやつか……。

 頬を染め、風丸だけを一心に見つめる彼女は確かに二人、いやそれ以上の男を虜にしてもおかしくないと思った。アレが鬼道が見続けていた彼女の顔なのだとしたら……、強い執着も頷けるかもしれない。

「くくっ……、なんかヘンだなそれ」
「ふふっ、だってメイドさんってそう呼ぶんでしょ?」
「……まあ、ご主人様とは言ってたけどな」

 それにしても、チームを離れて何をやっているのかと思えばいちゃついていたらしい。まあ、あの場の展開を考えれば納得か、仲がよろしいようで何よりだ。

 これは鬼道さんの割り込む隙はもうないんじゃ……。そう思いながらその場を離れようとした土門の目が風丸の顔を捕らえる。

「……[#dn=1#]」
「……」

 土門は目を凝らして風丸の表情を観察する。後ろから[#dn=1#]を抱きしめた風丸の表情は、バカップルからは程遠い顔をしているように見えた。

 確かに彼女が好きでたまらないという顔はしている。だが……、そこにはどこか哀しさが滲んでいた。少なくとも恋人といちゃついている男が見せる顔じゃない。

 ……まったく分かんねえよ、複雑すぎて。

 そう内心独り言ちながら、土門は携帯をサイレントモードに切り替えて構えた。

 帝国の、鬼道のためとはいえふたりを引き裂く気はこれっぽっちもない。ただ、少しくらい帝国を贔屓したっていいだろ。俺は元々そっち側なんだから。

 携帯電話の画面いっぱいに[#dn=2#][#dn=1#]の姿を収める。風丸の愛情を一身に受け、彼女は魅惑的な笑顔を振りまいている。

 その顔に複雑な思いを抱きながら、土門は携帯カメラのシャッターを切った。
6/8ページ
スキ