FF編 第四章
絶好の練習場所を手に入れた雷門イレブンは、地区予選二回戦に向け、イナビカリ修練場で過酷な特訓を毎日続けていた。選手たちはやけになりながらも逃げださずに厳しい特訓に打ち込んでいる。
ようやく練習終了のタイマーが鳴って、部員たちが這いつくばるようにして修練場の出口から向かう。いったい、こいつらのやる気はどこから湧いてくるんだ。土門は毎日不思議でならなかった。
ぜーぜーと肩で息をしながら出口を目指す。顎から汗が伝い落ちるが拭う元気などもうない。
二度と、ゴメンだっていったのに。イナビカリ修練場の洗礼を受けた日にも二度とこんな特訓するかと毒づいた。しかし毎日なし崩し的に雷門イレブンとここに来ては特訓に励まされている。
イナビカリ修練場で鍛えられるのは基礎的な運動能力ばかりだ。必殺技の特訓はおろかサッカーの練習もまともにできていない。
だったら、俺が今更こんなことをする必要はない。俺の役目はこのチームのスパイで、こんなコトしにきたわけじゃないのに……。
サボってやりたいと思いながらも土門は強制的にここに参加するしかない。鬼道からイナビカリ修練場の効果を土門自身のデータで分析したいと命じられているからだ。
「……ああ、もう」
身体が怠い、ただただきつい。そう思いながら他の奴らの後を追い、やっとの思いで階段を登り切った。へとへとになりながら土門は息を吐く。
扉の外には暗雲が立ち込めてしとしとと雨が降っていた。身体冷やすなよ、と円堂が他の奴らに声を掛けている。その姿をぼんやりと眺めながら土門はボロ雑巾のようになった身体を引きずって息を吐いた。
――――鬼道さんはなんでこんなチームに目を掛けてるんだ。
ここまで長期的にデータを取らせるなんて。ただひと昔前の熱血さがあって、泥くさくてど根性みたいな……。円堂を中心としたチームはまとまりがあって居心地はいいが、ただそれだけだ。
なのに報告を聞く鬼道の声色からは、影山総帥からの命令だけではない雷門への興味を感じる。どこにそんなに気になる要素があるのか、土門には分からない。
「一郎太くん」
かつて聞いたトーンをそのままに、土門の耳に女子生徒の声が飛び込んだ。
ちらっと声の主に視線をやると、マネージャーの[#dn=2#][#dn=1#]が彼女の恋人の風丸一郎太に手に持ったタオルを差し出しているところだった。彼女の姿を見ながら土門は鬼道に対する疑問を深める。
――――目を掛けてるっていったら、アイツのことも……。
どこにでもいそうなあの女子の、いったい何を気にして鬼道は特別な感情を向けているのだろう。注意深く調べてはいるがこれも未だに理解が及ばない。
ちょっと可愛くてそれなりに優しくて、ああ……、足が速いんだったか? だけど、鬼道が選ぶほどの特別性はどこにも見えない。
「しっかり汗拭いて、身体冷やさないでね」
そう言いながら[#dn=1#]は風丸の頭に真っ白なタオルをかけてやっていた。呼吸を整える暇を埋めるために土門はぼんやりとその光景を眺めていた。
風丸ばかりを見つめている[#dn=1#]の目には至誠の限りが尽くされている。……既視感がある目だった。
分からないと言えば、[#dn=1#]の方もよく分からない。あの鬼道に惚れていながら、フラれたとはいえなんで風丸を選んだんだのか。風丸は確かにしっかり者で頼れるが……。鬼道ほどのカリスマ性があるとはいいがたいのに。
「[#dn=1#]こそ。ほら、濡れるぞ」
視線の先の風丸は、受け取ったタオルを自分の汗を拭うことなく手に取る。そしてすぐさま雨から庇うために、彼女の頭にタオルをかけなおしてやっていた。
「一郎太くん、私のことはいいのに」
「俺が良くない。早く部室に戻るぞ」
[#dn=1#]の背中を押す風丸の姿を見つつ大きくため息をつく。アイツだってくたくたのはずなのに、全くお熱いことで。
疲労感でどうでもいい気持ちに飲み込まれ、土門は土の上に大の字になって寝そべった。辺りにはしっとりと雨に濡れた土の匂いが充満している。
冷たい雨が全身に降り注ぐ。それが練習後の汗まみれの身体にはちょうどよかった。肩で息をしていると体の緊張が抜けて気持ちがいい。
――――どいつもこいつも本当に訳わからねー……。
ここのところ、ずっと身体を酷使させられて、妙なことばかりに頭を使わされている。自分はただ命じられるままに動いて、そこそこの成績を残して目立たないようにふるまっていればいいはずだった。それなのに最近、どうにもままならない。
「何でしょーね、これは」
ぽつりと雨天に向かって土門は誰にともなくそう呟いた。