FF編 第四章



 細く長く地底へと続いていた階段。彼ら雷門サッカー部が夏未に誘われてやってきたのは広大な地下施設だった。

 夏未によればここは、かの伝説のイナズマイレブンが現役時代に使用していたという修練場なのだという。その名もイナビカリ修練場。必殺技の練習のため、そこをリフォームさせたのだと夏未は話した。

 学校の地下にこんなものがあるだなんて……。[#dn=1#]は驚嘆し目を瞬かせる。

 ただのスポーツジムとは比較にならない大型の器具。アスレチック遊具のようにも見えるがどのように動くのかさえ見当もつかない。

 奥にも扉が続いているのを見るに部屋は他にもあるようだ。目を輝かせる円堂を筆頭に、選手たちは施設設備に興味津々だった。

「私たちは出ましょう」

 選手たちの姿を横目に夏未がマネージャーの女子たちに言葉を掛ける。春奈と秋はすぐに夏未の言葉に従って入り口の扉へと向かい始める。だが、[#dn=1#]はその場に留まったまま動こうとはしなかった。じっと彼女は練習器具を見つめている。

「[#dn=1#]ちゃん?」
「秋ちゃん。マネージャーの仕事、まだたくさん残ってたっけ……」
「え?」

 唐突な[#dn=1#]の問いかけに秋は戸惑ったようだが、少し考えた後に首を振る。

「ううん。今日はみんなここで練習するみたいだし……。でもどうして?」

 質問の意図が読めないと不思議そうな顔をする秋の方に[#dn=1#]がゆっくりと視線を戻す。彼女の瞳には挑戦的な光があった。[#dn=1#]は秋に笑いかけ短く言葉を吐く。

「私もここで練習してみたいから」

 ええっ、と声を漏らす秋をしり目に[#dn=1#]はジャージの上着を脱いだ。半袖のTシャツにハーフパンツ。トレーニングシューズだからこのまま問題なく動けるだろう。[#dn=1#]はとんとシューズのつま先地面を叩いた。

 外に出てしまったら彼らが何をするのかを見ていられない。ここの練習がどんな効果をもたらすのかはぜひとも体験してみたいところだ。

 何より、この練習設備を見て一番に[#dn=1#]が考えたこと……。それはこの場所で練習をすれば自分も実力アップが見込めるのではないかという事だった。

 もっとサッカーが上手くなりたい。一郎太くんと一緒に走り続けるために。

 部活の場では滅多に表に出さない感情だが、彼女の中に深く息づいている願いだ。

 ここでの練習がどんなものかは計り知れないが、もしかすると常々感じていた風丸の練習相手の不足を解消するための足掛かりになるかもしれない。むしろここで参加しなければ、風丸との実力差は埋められないものになってしまうのかも。

 この場所は、現状を打破するためのチャンスなのだ。[#dn=1#]の瞳は純然たる熱意に燃えていた。

「なんだ、始めないのか?」

 いつまで経っても動き出さない練習器具に疑問を持った円堂が、[#dn=1#]たちマネージャーの元へと駆け寄ってきた。彼の姿を見て[#dn=1#]は円堂に言葉を掛ける。

「円堂キャプテン、私も練習に参加したいです」
「え?」
「迷惑じゃなければ……、だけど。私もサッカー、やりたくて」

 打算的な言葉を交えると円堂は見る見るうちに表情を綻ばせた。

「もちろん、構わないぜ!」

 これまでマネージャーに徹してきた[#dn=1#]の申し出に一瞬きょとんとした円堂だったが、サッカーをやりたいという[#dn=1#]の言葉を受け、円堂は嬉しそうに彼女の肩を叩いた。

「なんだ、そうだったのか! 大歓迎だよ!」
「ちょっと待ちなさい」

 円堂の承諾を得てやっと練習が始められると思った矢先、厳しい顔をして言葉を放ったのは夏未だった。きっぱりとした口調と共に[#dn=1#]を制そうと鋭い眼差しを向ける。

「あなた、この修練場の特訓は決して甘くないわ。やめておくのがいいのではなくて?」

 それに、あなた女の子でしょう? 言葉にはしなかったが夏未の眼差しはそう言いたげだった。[#dn=1#]は夏未の前に歩み出て彼女を見上げる。全く臆した様子は[#dn=1#]にはなかった。

 やめておけと言われて引き下がるくらいなら、端っから練習に参加したいなどと申し出たりはしない。

「多少厳しいくらいで音は上げない。……選手の邪魔になるような真似はしませんから」

 ばちばち、と火花が散りそうな熱を込め、[#dn=1#]は挑発的な視線を送り返した。彼女たちの均衡状態を見かねてもう一人選手がこちらに駆け寄ってきた。

 [#dn=1#]たちのやり取りを聞いていたのかその表情は不安を見せる。そんな顔をするのは言わずもがな、彼女の恋人だった。

 こちら側へ駆け寄ってきた風丸は宥めようと[#dn=1#]の肩をそっと叩く。彼の表情には[#dn=1#]の練習参加には反対だという色が滲んでいた。

「[#dn=1#]」

 やめておけ、と続けようとした風丸だったが、振り返った彼女の気迫に満ちた目に押されて口を噤んだ。自主練習のさなかに見る、[#dn=1#]の槍のような鋭い輝きを見せる瞳。

「お願い、一郎太くん。イナズマ落としの練習のときみたいに怪我をすると分かっててやるわけじゃないもの」

 言葉を詰まらせた風丸に[#dn=1#]は言葉でも畳みかける。

「私、選手のみんながどんな練習をしてるのか体験したい。外に出てたんじゃ何も分からないでしょ?」
「だが……」
「そんなの嫌なの。……私はマネージャーだけど、分かっていたい」

 譲る気はない。いつになく[#dn=1#]が食い下がって頼み込んだ。少し間をおいてから、はあと大きなため息が沈黙の中に響く。

「仕方ないわね……。そこまでいうなら好きになさい」

 風丸が何かを言う前に根負けしたのは夏未だった。呆れたように額に手を当てて彼女は[#dn=1#]に背を向けて出口へと向かう。

「ありがとう、夏未さん」

 その姿に礼を言うと[#dn=1#]は先ほど脱いだジャージを秋へ預けて、即座に準備運動を始めた。

 手首足首を回し、しっかりとストレッチを始める。最後に大きく伸びをして[#dn=1#]は笑顔を浮かべる。実に嬉しそうな面持ちだ。そして置いてきぼりになっている風丸の手を取った。

「頑張ろうね、一郎太くん!」

 納得したわけじゃないが……。風丸は肩を竦めながらも[#dn=1#]につられて笑う。心配は尽きないが話の決着はついた。今更、反論したって練習が滞るだけだ。

 それに[#dn=1#]は腐っても陸上部出身で、身体能力は折り紙付きなのだ。風丸自身が身を持って知っている。[#dn=1#]ならそつなくこなすかもしれないとさえ思う部分もあった。……それに、彼女との練習に期待感がないわけじゃない。

「くれぐれも怪我のないようにな」

 風丸は[#dn=1#]への配慮を口にしつつ、彼女と共に位置につく。隣で気合をいれている[#dn=1#]を見つめて風丸も自分自身の腿を叩いて意識を集中させた。
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