FF編 第三章
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一方、他の選手たちは外へ出て練習の準備を進めていた。土門飛鳥は真新しい黄色を基としたユニフォームを摘まみ、まじまじとその色を見る。
馴染みのない色、眩しくて目がチカチカする。だがこれも、我がチームの役に立つためには必要なことだ。
帝国学園から派遣された密偵。雷門の情報を帝国へ流し、帝国が圧倒的に雷門を叩き潰せるように貢献する。それが土門の使命であった。
キャプテンの鬼道は言う、相手を知ることこそ勝利には不可欠なことだと。サッカーでチームに貢献できることが一番だが、土門に与えられたこの役も帝国勝利のために重要なポストだ。
木陰で選手たちの練習を眺めている幼馴染の姿を見ながら彼は自分に与えられた役割を噛みしめる。
秋……昔馴染みである彼女が雷門にいたのは偶然だったが、土門にとってはむしろ僥倖なことだった。知り合いがいるだけでチームのに格段に溶け込みやすい。
たとえ幼馴染だって使えるなら使って帝国に有益な情報を上げる。……褒められたことじゃないかもしれない。だが、それが今の自分だと言い聞かせ土門は秋の元へ向かって歩き出す。
アイツがいた頃みたいに今の俺はまっすぐじゃない、帝国に入学してから土門は何度もそれを胸に刻んだ。
「秋」
「あ、土門くん」
声を掛けると彼女はすぐに顔を上げて土門を見た。なんだか昔を思い出すよな……、アイツがいた頃を。
随分あの頃とは変わっちまったけど。土門は秋を見つめながらそんなことを思う。それくらい彼の幼馴染の秋はあの頃から変わっていなかった。
「どう? 似合うかな」
秋に向かって土門はポーズを決めてみる。黄色と青の雷門ユニフォーム、土門が着ていても違和感は無く、むしろ彼を引き立てて見せている。
「似合ってるよ」
しかし、土門に対して秋はあっけらかんと返事をした。思ったよりもあっさり会話が終了し土門は拍子抜けする。
もう少し盛り上がるはずだったんだけど……、そう思いつつ土門は苦笑いを浮かべる。ここで会話を弾ませとかないと色々聞き出しにくい。
「あ、あのさ秋、聞きたいことがあるんだけど」
「何?」
気を取り直し、土門は明るい調子で言葉を続けた。それでも秋は練習中の選手から目を離さないままだ。秋の興味を引くために土門は話題を探す。
何か、意外性があって聞きやすい情報を……。土門は必死に頭を回転させて一つ、思いついた名前を口にする。
「月島花織……。えっと、マネージャーの月島って子いるだろ? あの子のこと教えてくれないかなーって」
「え?」
月島花織の名を出すと、これまで選手たちから目を離さなかった秋が振り返った。驚きを浮かべ土門をまじまじと凝視する。
秋の視線に狼狽えて土門は何々、といいつつ両手を上げる。何かマズいことでも聞いたか……。月島って子はそんな地雷なのか。
「花織ちゃんのこと……?」
「あ、ああ」
彼女のことを尋ねた理由は一つだ。土門が収集すべき情報のリストの中に彼女の名前があったから、それに他ならない。
理由は土門の知るところではない。実際、土門自身も疑問に思ったのだ。選手ではなくマネージャーを調べる理由があるのか。
しかし疑問を感じたとしても、それを質問することは許されていない。リストに彼女の名前がある以上は土門には彼女を調べる義務があるだけだ。
「どうして?」
「えっと……、可愛い子だったから?」
秋がじいっと土門を見つめながら問う。土門はあくまでも明るい軽薄なキャラクターで押し通すことを決め、咄嗟に秋の質問にそう答えた。
実際の所、月島花織というマネージャーがどんな子だったかなどサッパリ覚えていなかったが……。このキャラクターでの質問とするなら無難なところではないかと土門は思った。
「確かに可愛いけど……。花織ちゃんはダメだよ」
「え? なんで?」
「彼氏いるもん、ほら」
そういって秋がグラウンドの方を指さす。練習している選手たちの脇で、青い髪の選手と黒髪の少女が話し込んでいる。どうやらその少女が月島花織というマネージャーらしい。
黒髪の少女は風丸の話を聞きながら懸命にノートにメモを取っているようだ。黒髪のせいか大人しそうな雰囲気の女子生徒だ。
遠目だから顔は良く見えないが……、彼らの親密そうな空気だけはここにいても伝わってくる。とはいえ、特にピンとくるものは無い。
「へえ、あのふたりが」
「そう。色々あってやっと付き合い始めたふたりだから、そっとしておいてあげて」
どこか含みのある言い方をして秋がふたりのほうへと視線を向けた。
土門は困惑を浮かべながら、ふたりに向けられた秋の慈しみを持った眼差しの意図を探る。……だが、その視線の理由はどうにも見えてこない。
見た限りではどこにでもいる普通の女子生徒のようだ。しかし実際はそうじゃないのか。
帝国学園が求める情報リストに名前があるということは、帝国が彼女に利用価値を見出しているのには間違いない。
ただ、秋に聞いてもきっとこれ以上を話してくれないことだけは明白だった。土門はこの場は引くべきだと諦め、土門ににっこりと笑いかける。
「分かったよ、秋」
一度本人と話してみるべきだ。彼女から直接話を聞けば、帝国が月島花織に何を求めているのかはっきりするかもしれない。