FF編 第二章


 
 帝国学園との試合の後、[#dn=1#]は風丸と共に円堂のところへ足を運んだ。そして宣言の通り、彼女はサッカー部のマネージャーを志願し、晴れて彼らのチームに迎えられることとなった。
 
 突然の志願にも関わらずサッカー部の部員たちは快く[#dn=1#]を受け入れてくれた。半田や今回の試合をきっかけにサッカー部に入部したマックスは特に[#dn=1#]を歓迎してくれていた。
 
 ただ風丸の紹介ということもあって関係性を聞かれ、彼とは恋仲だと答えたときには部員たちの多くが驚きの声を上げていたが。
 
 帝国学園との試合を経て数日、サボりがちだったサッカー部は一転して練習に精を出すようになった。

 相変わらずグラウンドの確保は困難なことも多かったから、練習場所は河川敷のサッカーグラウンドを利用して行っている。
 
「よぉーし、じゃあ今日の練習はここまでだ!」
 
 円堂の号令に一斉に選手たちがベンチに戻ってくる。彼の声に動き出したのは選手だけではなくマネージャーもだ。

 今や[#dn=1#]もその一人として選手を支えるために秋に習って仕事をこなしている。疲れている選手たちのために、ドリンクとタオルを構えた。
 
「ほらほら木野先輩はキャプテン、[#dn=2#]先輩は風丸先輩のところに行ってくださいね!」
 
 彼らを待っている秋と[#dn=1#]の背中を押すのは、[#dn=1#]と時期を同じくしてサッカー部に入部した音無春奈だった。

 新聞部に所属していた彼女は、先の試合でサッカー部に惚れこみ、正式にマネージャーとして入部を希望したのだという。


 帝国学園との試合中、鬼道との対話の後、地面に座り込んでしまった[#dn=1#]を支えてくれたあの時の女の子だ。

 秋や[#dn=1#]よりも学年は一つ下だが、明るく元気いっぱいの彼女は早くも部内に打ち解けている。
 
「一郎太くん、おつかれさま」
「ああ、ありがとう」
 
 春奈の言葉に押され、真っ先に風丸のもとに向かい、[#dn=1#]は彼にタオルとドリンクを手渡す。

 視線を交わし合ったとき、もう少しだけここで話をしたいと思ったが仕事は仕事だ。節度を保っておくことは大事だ。目配せをしつつも[#dn=1#]は他のチームメンバーの元へ向かう。
 
「染岡くん、おつかれさま。あんまり無理しないでね」
「……してねえよ無理なんか」
 
 ぶっきらぼうに言い捨てたのは雷門のフォワード、染岡だ。元々強面なせいで近寄りがたい雰囲気はあるものの、硬派で根が真面目なのは何となく見ていて感じている。

 とはいえ、ここのところ随分と気が立っているようだが。理由は薄々見て取れる。ひとまずあまり深入りせずに[#dn=1#]は次の選手の元へ向かった。
 
「はい、半田くん。マックスくんもちゃんと水分取らなきゃダメだよ」
「あ、サンキュ」
「はいはい。早くもマネージャーが板についてきてるじゃん、[#dn=1#]」
「そうかな?」
 
 てきぱきと手は動かしながらも掛けられた言葉に応えていく。マネージャーの仕事は思ったよりも重労働が多い。

 選手たちが心置きなくプレーするために大事な裏方の仕事だ。秋ほどには及ばなくとも多少、仕事に慣れてきたように見えるなら何よりだと[#dn=1#]は彼らの言葉に微笑む。
 
 ……もっとも、見ているだけというのは少しもどかしいけれど。
 
「……?」
 
 どこかから視線を感じて[#dn=1#]は背を振り返る。気配の元を辿ってみるとそこには風丸の姿があった。

 先ほどはそう思わなかったが……。彼は眉間に皺を寄せ、何やら難しい顔をしているように感じた。しかし彼は[#dn=1#]と視線が合うと、慌てて視線を逸らしてしまった。

 なんだかこういうのには既視感があるような……。彼の不可解な行動に[#dn=1#]は首を傾げる。
 
「[#dn=2#]先輩! ぼーっとしちゃってどうしたんですか?」
「……音無さん」
 
 風丸を見つめて突っ立っていた[#dn=1#]を見て春奈が声を掛けてきた。どうやら、もう選手全員にタオルとボトルは行き渡ったらしい。

 選手が十一人に対し、マネージャーは三人もいるのだ。配るだけなら早く終わるのは当然か、そう思いながら[#dn=1#]はちらと横目で風丸の様子を伺いながら、春奈の問いに答える。
 
「いや……、ちょっと気になって。染岡くんの焦りは見ての通りだけど、彼も少しいつもと違う気がして……」
 
 口にしつつ心配そうに眼を細めた[#dn=1#]を見て、春奈はきゃあっとはしゃいだ声を上げた。
 
「彼女としての直感、ですか?」
「そ、そういうわけじゃ……」
 
 春奈の指摘に[#dn=1#]は慌てて手を顔の前で振った。確かに贔屓目に彼のことを見てしまう自覚はあるが、部活中は恋人だということをひけらかすつもりは微塵もないのだ。

 なるべく選手に対して平等でいたいと思っている。しかし、そんな[#dn=1#]の反応を余所に春奈は楽しそうだ。
 
「ん~、どうなんでしょうねえ」
 
 探るように目を凝らしながら、春奈が風丸の方へ視線を向ける。そして肩を竦めた後、ふふふと意味深げに笑った。
 
「まあ、入部してからのおふたりを見てきた私の考えでは、風丸先輩は[#dn=2#]先輩を気にしてるんだと思うんですけどね!」
「え、……私?」
 
 どうしてか理由が分からず、[#dn=1#]がきょとんとした表情を浮かべる。春奈はおや? と言いたげな顔をしてひらひらっと手を振った。
 
「意外と[#dn=2#]先輩って自覚なしですか? あらら、風丸先輩も大変そうですね。……だけどいいなあ、青春ですねえ」
 
 やはり何が言いたいのかさっぱり分からない。[#dn=1#]は春奈の言葉に再度首を傾げつつ、もう一度風丸の方へと視線を向ける。
 
 タオルで汗を拭いながらキャプテンの円堂と話をしている。なびく青髪から覗く横顔は爽やかで男らしい。いつも通り、変わりない彼の姿がそこにあった。
 
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