FF編 第二章
翌日、授業にも身が入らないまま[#dn=1#]は放課後を迎えた。
試合を見るか、それとも見ないか。頭の中ではそればかりが占め、他を考える気にはなれなかった。一晩中考えても正しい答えは分からないままだ。
試合を見に行くかどうかなんて、仲の良い友人に相談することもできない。
なぜなら半田は元からのサッカー部であり、さらにマックスも今回助っ人として試合に参加する。見に来ればいい、と二人ともきっとそう言うだろう。
そして秋は昨日のとおりだ、[#dn=1#]に試合を見に来てほしいと望んでいる。
誘われたのだから行く、彼が試合に出るのだから行く。それで十分に理由になる。[#dn=1#]の危惧は彼女の心の問題だ。
はっきりと自分の意思が決まらないまま、[#dn=1#]は向こうからは死角になっている場所からグラウンドを遠目に眺める。
帝国学園を待つ雷門イレブンはすでにグラウンドに構えていた。選手たちの中に青い髪の風丸の姿も見える。
サッカー部のユニフォームを身にまとった風丸の姿は新鮮だった。
パリッとした黄色が似合っていてとても素敵だ。[#dn=1#]は心内に溢れる気持ちで口元が緩ませる。好きだという気持ちはどうにも誤魔化しようがない。
「……[#dn=2#]?」
グラウンドを見つめていると、[#dn=1#]は自分の名前が小さく呼ばれたのを聞いた。きょろきょろと周囲を見て声の元を辿る。
[#dn=1#]のやや後方、どうやらここには先客がいたようだった。白く逆立った髪、浅黒い肌と鋭い目つき。
「豪炎寺くん……」
彼も見に来ていたのか、だがどうしてこんなふうに身をひそめるようにして……? 疑問は多々あるがひとまず[#dn=1#]は豪炎寺の傍に向かう。
「豪炎寺くんも試合を見に?」
「……」
[#dn=1#]の問いに豪炎寺は何も言わなかった。険しい顔をして視線を背け、彼は俯いてしまった。
気まずい沈黙が二人の間に流れる。だがそれは長くは続かなかった。
グラウンドに、いや校庭全土に爆音が響く。その音は彼らだけではなくその場にいたすべての生徒たちの意識をかっさらっていった。
大地が揺れる轟音と共に正門前に巨大な装甲車が停車する。その乗り物を[#dn=1#]はかつて見たことがある。
「あれは……」
帝国サッカー部の……。衝撃の登場にたじろいで[#dn=1#]は一歩後ずさった。どくんと音を立てた心臓の鼓動がどんどん激しさを増している。
乗り物の扉が大きな音と共に重々しく開いていく。レッドカーペットが地面に敷かれ、中からは帝国学園の一般生徒と。そして満を持してサッカー部の有志が姿を現した。
「……」
何かに縋りたくてスカートの裾を握った手はじっとりと汗をかいている。帝国学園サッカー部の選手たちの先頭を切って堂々と歩くのは……。
忘れるはずもない彼の姿だ、[#dn=1#]の胸に痺れるような痛みをもたらす。
久しぶりだ、あの人の姿を見るのは……。マントにゴーグルだなんて最初はおかしいと思っていたのに。
* * *
風丸は観客席を見回す。もういったい何度目だ、こうやって観客席を見るのは。この期に及んで想い人の姿を彼は探し続けている。
――――いないのか、[#dn=1#]。
サッカー部に助っ人に行くと決めてから、[#dn=1#]とは全くと言っていいほど顔を合わせていなかった。
一人にしてと言った彼女の言葉を尊重した結果、ずるずると機会を待っていた内に試合の日を迎えてしまった。
自分のとった行動を想えば当然かもしれない。[#dn=1#]が納得してくれるまでそっとしておこうと思ったのが間違いだったのか。
……だが決めたんだ、何を言われても譲れない。
一週間も顔すらまともにあわせていない[#dn=1#]がここに来るわけない。そう思っているくせに、もしかすると[#dn=1#]がこの試合を見に来てくれているのではないか。
ひょっとしたら自分の応援のために彼女が現れるかもしれない……、風丸は期待を捨てられないでいた。
だが……、現実彼女はここにいない。
一方的な想いじゃどうにもならないよな。無理やり自分にそう言い聞かせて納得させ、風丸は帝国サッカー部の面々に視線を向ける。
――――この中に、[#dn=1#]の好きな奴がいるはずだ。
今から始まるのは絶対に負けられない試合だ。円堂の為にも、そして俺自身の為にも。
気持ちを引き締め、風丸は帝国学園イレブンを見据える。腹の底からは闘志が静かに燃えていた。