FF編 第一章



 一限目を終えてからも秋の方から[#dn=1#]に声を掛けてくれた。他のクラスメイト達は遠巻きに[#dn=1#]を見ているようだが声までは掛けてこない。[#dn=1#]の方も勇気がでなかったから秋が声を掛けてくれたのはありがたかった。

「転校初日って緊張するよね。私も経験あるから分かるなー。……ね、[#dn=2#]さんは前はどこの学校だったの?」
「えっと、前は帝国学園に通ってて」

 意外と近いとこだね、と秋が気さくに笑う。

 確かに雷門中も帝国学園も同じ東京都内にある。今回[#dn=1#]は家庭の事情での転校だが、通おうと思えばどうにか転校しなくても通えない距離ではない。[#dn=1#]自身も最初はそう言って両親を説得しようとしたが、結果的に離れることになってよかった。今ではそう思っている。

「へぇ、でも帝国学園だったんだ。帝国は全国一のサッカー部があるんだよね。……あ、私サッカー部のマネージャーをしてるんだ。[#dn=2#]さんは部活って何かしてたの? やっぱり帝国学園だからサッカーとか?」

 サッカー、と秋の口から飛び出たワードに[#dn=1#]は表情を硬くした。咄嗟に横髪をいじりながら秋から視線を逸らす。そして、違うよと不自然さのないように声を絞り出した。

「陸上競技をやってたの。サッカーは、全然」

 言い淀んだ[#dn=1#]を少し不思議に思ったのか、秋が小首を傾げる。だが、秋が次に口を開く前に大きな声が[#dn=1#]と秋の会話を遮った。

「おーい木野、グラウンドのことなんだけど……」

 そう言いながら秋の机の傍までやってきたのは橙色のバンダナを頭に巻いた男子生徒だった。小脇にはサッカーボールを抱えている。[#dn=1#]はちらりと彼を見上げた。秋はサッカー部のマネージャーだと言っていたし、彼はサッカー部の人、だろうか。

「あ、ごめん。話してたのか。……えっと、転校生の」
「[#dn=2#][#dn=1#]さんだよ」
「ああそっか、さっき自己紹介してたもんな。……俺、円堂守。サッカー部のキャプテンなんだ。よろしく!」

 溌剌とした少年は円堂と名乗り、そして屈託のない笑顔を見せた。秋といい円堂といい、なんだか雷門は明るい人が多いようだ。

「よろしくお願いします。円堂くん」
「[#dn=2#]はなんか部活とかやってたの?」
「陸上をやってたんだって。きっとウチでもやるんだよね?」
「うん。そのつもり」

 秋の問いに[#dn=1#]が頷く。円堂はサッカーボールを持ち替えながら、陸上部という言葉に反応を見せた。

「へぇ、陸上部なんだ。だったら……おっ、丁度いいところに!」

 突然円堂が会話の和を抜けて駆け出す。秋と[#dn=1#]が呆気に取られているのもつかの間、円堂は教室の窓から身を乗り出して廊下を歩いていた生徒を呼び止めた。

「おーい! 風丸!」

 その声があまりにも大きかったのでクラス中の生徒たちが円堂を振り返った。突然のことに[#dn=1#]も驚いて秋の方へと視線を寄せる。彼女はもう、とでも言いたげに苦笑いしていた。……どうやらこういうことは日常茶飯事らしい。

「なんだよ、急に」
「いいから、ちょっとこっち!」

 円堂が誰かを引っ張ってこちらへと戻ってきた。[#dn=1#]は円堂が連れてきた人物の方へと視線を向ける。青髪のポニーテールが動くたびに揺れる。男の子、だろうか、おそらくは。

 呆気に取られていた[#dn=1#]の前に円堂はその人物を突き出した。

「[#dn=2#]! コイツ風丸っていうんだけど陸上部なんだ」
「あ、はい……」
「で風丸、この子転校生で[#dn=2#]っていうんだけど、陸上部に入りたいんだって。案内してくれないか?」

 簡単に双方の自己紹介をして円堂が風丸に言う。理解の追い付いていない様子の風丸ははあ? と困惑した声を上げて[#dn=1#]の方をちらりと見た。[#dn=1#]の方もどう反応してよいかが分からなくて会釈をすると、風丸の方もそれとなく会釈を返す。突然引き合わせられてお互いにどうすればいいのか、状況を飲み込めていなかった。

「おい円堂! グラウンドの件どうすんだよ⁉」

 しかし、次に呼び出しの声がかかったのは仲介役をしようとした円堂だった。坊主頭のいかつい男子が教室の外から円堂を呼ぶ。

「あ、ごめんごめん! 木野、ちょっと来てくれ」

 円堂は風丸にあとは任せたと言い、坊主頭の生徒に怒鳴られながら秋と共に会話の席を立ってしまった。この場には風丸と[#dn=1#]だけが取り残される。ふたりはどちらともなく顔を見合わせた。暫し見つめ合ったまま沈黙が流れる。

「俺は風丸一郎太。あ、えと……、転校生の[#dn=2#]だったな。放課後、俺でよかったら女子陸上部に案内するよ」

 先に沈黙を破ったのは風丸だった。改めて自己紹介をしたうえ、親切にも部室まで案内するという提案を持ちかける。

「……えっと」

 彼の申し出を拒否する理由はない。狼狽えつつもそう思って[#dn=1#]は頷く。同時に先ほどまで核心を持てなかった彼の性別を一郎太という名前と一人称で察した。

「ありがとう、ございます」
「いや……。それじゃ、放課後迎えに来るから。ここで待っててくれ」

 とんとん、と風丸は軽く指先で机を叩く。この教室で待っていろと、そういう事だろう。[#dn=1#]はもう一度頷いてぺこりと頭を下げた。

「それじゃあ……、よろしくお願いします。風丸くん」
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