FF編 第十二章
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チームメイトが揃うと早速役割分担をし、大鍋いっぱいにカレーを作り始めた。やはり合宿と言えばカレーだろう。この人数だから、材料を切るのも一苦労だ。花織は目の前に山積みになっていく人参を見てふふ、と笑う。花織は人参を切る係になったのだ。ずっと人参を切るだけの単純作業なのに、楽しく感じられるのは合宿独特のこの浮かれた空気のせいだろうか。
「楽しそうだな、花織」
隣で玉ねぎを切っていた鬼道が玉ねぎから目を離さぬまま、花織に言葉を掛けた。花織は既に皮の剥かれた人参をボウルから取り出し、まな板の上に置いてちらりと鬼道を見た。
「ふふ、そんなに楽しそうに見えますか?」
「ああ。……いや、違うな」
鬼道は玉ねぎを切る。やはりゴーグルがあるから目は沁みないのだろう。ざくりと小気味のいい音が響かせながら鬼道が玉ねぎを半玉切り終えた。そして同時に鬼道は包丁を置き、花織を見る。
「一昨日から、お前は常に楽しそうだ。……何かいいことでもあったんじゃないか」
一昨日、すなわちマネージャーたちでおにぎりを作った日だ。さすが鬼道、花織の表情に迷いが消えたことを悟っているらしい。
だが今、花織の決心を鬼道に告げるわけにはいかない。鬼道のプレーに悪影響が出てはいけないし、何より他にも影響が出そうだ。花織は鬼道の言葉にくすりと微笑みつつも、手元からは目を離さない。そしてそのまま核心ではない言葉を紡いだ。
「いいことなのか……、どうかはわかりませんけれど。私の中でいろいろ変化がありました。私の考え方を変えるような出来事があったのは確かです」
「ほう」
意味深に鬼道が眉を動かした。どうやら花織の口調や表情から何かを感じたようだ。だが花織は人参に視線を向けているため、鬼道の表情の変化にはサッパリ気づいていない。花織は包丁を置いて鬼道に微笑む。以前鬼道に向けていたぎこちない微笑ではない。親しみを感じさせるような笑顔だ。
「まずは自分にできることをしようって思いました。自分だってチームの一員なんだから、いつまでも引きずってちゃダメなんだって。まずは雷門中のフットボールフロンティア優勝を応援しなくちゃいけないんだって。やっと周りが見えるようになったから、気づきました」
「花織……、お前」
「だから私もがんばりますね。皆が気持ちよく練習できて、無事にフットボールフロンティアで優勝できるように」
鬼道は何も言うことができなかった。花織の言葉から察せられる何かが鬼道の胸の中で引っかかるのだ。だがそれがいったい何なのかは鬼道自身わかっていない。花織の言いたい真意がその中に含まれているはずなのに、鬼道はその言葉を見つけることがどうしてかできなかった。
「ところで鬼道さん」
「……? どうした」
「鬼道さんって包丁の扱いもお上手なんですね。お料理なさるんですか?」
唐突に全く違う話を花織は切り出す。花織は鬼道に先ほどの話題に付いて有無を言わせないつもりだった。鬼道は一瞬呆気にとられたが、ああと返事をして花織の問いに答えた。
「別に料理などはしないが……。帝国に居た時に調理の授業があっただろう。一年のカリキュラムに組み込まれているのだからお前も経験しているはずだが……」
「あ、そういえばそうでしたね。でもあの短い時間で、それだけこの手慣れた包丁捌きができるなんて……。凄いことですよ」
帝国での調理の授業はあまり時間数があまり多い方ではない。それなのに鬼道は危なげなく包丁を使えている。やはり彼はそれだけ器用なのだろう。他のメンバーはぎこちなく包丁を扱っているから余計に上手に見える。花織はくす、と笑い、感心した様子で鬼道の手さばきを見る。
「さすが鬼道さんですね」
「褒めても何も出ないぞ」
花織の褒め殺しの言葉に鬼道が肩を竦め、呆れたように言った。こんな会話をできるようになったのは本当にこの頃になってからだ。帝国に居た時は花織はこんなに馴れ馴れしく鬼道と話ができることは無かった。
褒め殺しにする、という点は違わないが、基本的に対等に話ができるということがなかったのだ。そして雷門に来てからは色々ゴタゴタしていたからまともに話ができることもなかった。逆にこの二人の関係は一度友人に戻ったことが、ある意味良かったのかもしれない。