FF編 第十一章
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放課後、一之瀬、土門、そして花織は河川敷のグラウンドで練習していた。あの後、花織は結局、練習には戻らなかった。あのまま練習に戻れば選手の士気をガタ落ちさせてしまう可能性が高かったからだ。事情は一之瀬と土門が何となく説明をしてくれて、事なきを得ている。そして現在、約束通りこの河川敷でサッカーをしていたのだ。
「花織ってさ……」
ベンチに座り、汗を拭きながら一之瀬が花織の名前を呟いた。今はようやく練習がひと段落して三人ベンチに腰かけている。先ほどまでは二対一に分かれての練習を行っていた。チームの内訳は一之瀬対土門と花織だ。何しろ一之瀬は一人だけレベルが頭一つ抜けているから二対一でも力差は微妙な感じだった。だが中々いい練習になったのではないかと思われる。
「普通にサッカー上手いんだね。俺たちの練習に参加しても付いて行けそうだ」
「そう……? 一応、元々陸上やってたし。それに……、練習してたから」
ふっと花織が表情を陰らせる。もうここの所しばらくは修練場での練習しかしていない。彼と練習をしていた日々が懐かしかった。花織は俯く。また戻りたい、未だにどうしてもそう思ってしまう。
「風丸とだろ?」
「……え?」
「ごめん、土門から聞いたんだ。花織と風丸の間に何があったのか知りたかったからね」
一之瀬が口にした名前に花織は驚いて顔を上げた。一之瀬に次いで土門を見れば、申し訳なさそうに彼は肩を竦めた。どこまで話したのかは知らないが、きっと彼は一連の流れを知っているのだろう。でなければこんなふうに気を遣うような笑い方はしないはずだ。
「今日、花織とサッカーをして良かったよ。花織が本当はどう思ってるのか、俺にはよくわかったから」
「どういうこと……?」
花織が首を傾げて一之瀬を見る。一之瀬はふっと微笑を浮かべながら花織を見つめた。
「本当はもう迷ってないんだろ? 風丸のと鬼道、どっちを取るかなんて。…………君のプレーを見ていて感じたよ、もう随分前から君の心は決まっていたんだろうって」
花織は驚くと共に益々不思議そうな顔をした。ドキドキと自分の胸が鼓動を早めるのが分かった。花織はぎゅうとこぶしを握る。
何故わかったのだろう、確かに一之瀬の今の発言は的を射ている。だが一之瀬の言っていることが全く持って理解できない。解説を求めるように花織は土門へ視線を送る。土門は花織と目が合うとにいっと笑う。
「俺も同じこと思ったよ。花織ちゃん」
「……どうして」
花織は唇を噛んだ。別に、彼らにそれが知れてしまってどうということはない。それでも、やはり彼らにわかるほどそれが露わになってしまっているのならば彼に対して迷惑だろうと思った。
土門も一之瀬も、薄々花織が既に心を決めているということは以前から悟っていたようだが、それを確信に変えたのはいったい何なのだろうか。花織の問いかけに一之瀬が口を開く、そして答えをゆっくりと花織に告げた。
「花織、君のプレーだよ。サッカーでの君のプレー」
「私の……、プレー?」
うん、と一之瀬も土門も花織に頷いた。そう、一之瀬の言うとおりだったのだ。花織のプレイは彼に酷似していた。パスをするとき、トラップをするとき、ドリブルをするとき……。何もかもがどこかしらに彼の面影を感じさせる。
下手をすれば走るフォームすらもよく似通っているように思えてしまう。彼らはこれを見て確信したのだ。ここまでフォームが似るほどに花織は彼を見つめ、彼を愛してきたのだろうと。でなければ、ここまで彼そっくりのプレーができるだろうか。
「花織のプレーは、風丸そっくりなんだ」
「……!」
さら、と花織の髪が動揺に揺れた。彼女は自分のプレーなど気にしたことは無かった。だが、似ていてもおかしくは無いはずだ。彼女は彼からサッカーを教わり、共に練習を積んできたのだから。そして今もずっと彼のプレーばかりを見つめ続けているのだから。
「君の事情を考えると簡単に決断することはできないんだろうけど……花織、君は」
一之瀬が微笑む。
「君は本当に風丸が好きなんだね」
花織はハッとした、これは以前土門にも言われた言葉だ。あの時はこの言葉を否定した。しかし、どんなに決断できないと言い張っても。花織は自然にすべてを風丸に向けている。
もう今更、鬼道に対して失礼だからと自分の気持ちを誤魔化していても仕方がない。花織は思う、そして一之瀬の言葉に首を縦に振った。もう目を背けていることはできない。はっきりと自覚してしまったのだから、これほどまでに心が痛む理由を。そう、どう足掻いたって私は。
私は一郎太くんが好きなんだ。それはきっと嫌われていたって、迷惑だって関係ない。これは私の素直な気持ちだ。そう思うだけで、花織は自分の気持ちが晴れるのを感じた。今まで花織の心を覆っていた燻るような胸の痛みは、そのすべてによって浄化されていった。