FF編 第十一章
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目も、合せてもらえなかった。花織は部室の裏で蹲りながら、先ほどの衝撃が波のように心の中に広がるのを感じていた。彼に酷く嫌われてしまったことを肌で実感した。きっともう、彼は花織と目も合わせたくないし、話しもしたくないのだろう。先ほどの彼の行動は花織にそう言っているように思えた。
胸が痛くて、呼吸ができなくなるほどの感情に圧迫されて、今にも花織は窒息してしまいそうだ。ぼろぼろと零れ落ちる涙を堪えようと上を向いてもその涙は花織のこめかみから筋になって流れ落ちた。
嫌われるようなことをしたのは私だ。自業自得、その言葉がぴったりと当てはまる。事実、花織が風丸を傷つけ、今の事態に至らしめたのだから。それでも辛いものは辛い。数か月前に感じたあの感覚と同じだ。
お前なんかに興味はない。かつて鬼道に告げられた言葉だが、先ほどの風丸の行動はそれを遥かに凌駕するほどのショックを彼女に与えていた。何しろ、無視という彼女の存在を無きものとして接したのだ。存在を認めないというのは無関心よりもたちが悪い。もっとも、花織にとってはそれだけが鬼道の時よりも衝撃が強かった理由ではないようだが。
「花織」
蹲って啜り泣いている花織に上から声がかかる。花織は顔を上げなかった。
「花織ちゃん……」
「花織、俺たちの方を向いて」
花織が涙を未だ堪えようとしているような表情で彼らを見た。しゃがみ込んで花織を見つめ、凛とした表情をしている一之瀬と心配そうに花織を覗き込んでいる土門だ。二人は風丸の近くにいたから、駆けだした花織を見て急いで追いかけてきたのだろう。だがそれを花織は良しとしなかった。
「……練習に戻って……っ」
腕を振って彼らを花織は遠ざけようとする。選手たちにこんな情けない涙を見せないためにここへ来たのだ。土門と一之瀬が花織を心配してきてしまったのなら、この行為は全く持って意味がない。花織は涙声で訴える、だが土門はともかく、一之瀬は引かなかった。
「戻るときは君も一緒だよ。だから早く泣き止まないと」
「……無理」
ふと、思考が途切れた時に先ほどの出来事がフラッシュバックして、涙が溢れ出してしまう。それはどうにも止めがたくて花織は首を振った。本当なら一刻も早く練習に戻って何事もなかったかのように振る舞わなくてはいけないのに。今の花織にはそれができなかった。
「……目障りだから、きっと」
「風丸のこと? でも風丸は本心はそう思ってるわけじゃないと思うよ」
一之瀬が厳しい声で言う。おいおい、と土門がそれを止めた。土門は事の顛末を事細かに知っている。対して、一之瀬は最近転校してきたのだから、花織に対しては彼女が風丸を好いている、ということしか知らない。それでも風丸の瞳から花織への想いは知れていたから、一之瀬が無遠慮に花織のことを責めるのも仕方のないことかもしれなかった。だからこそ、土門がそれを制する。
「一之瀬、その辺にはあんまり触れてやんなって……」
「え? ふたりって、もしかして何かあったの?」
きょとんとした表情で一之瀬が土門を見上げる。土門は花織をちらりと見て無言で何度も首を縦に振った。一之瀬はそうか、と言って花織に視線を戻す。厳しい表情はそのままだった。一之瀬は花織の肩に手を置いてじっと彼女を見つめていた。
「俺は君たちの間に何があったかは全然知らないけど、風丸がさっきみたいな変な行動をとったのは何か理由があるんじゃないか?だって普段の彼は、少なくとも俺の目には花織を嫌っているようには見えないから」
「……そんなこと」
花織は涙ながらに首を横に振る。以前は、そうだったのかもしれない。でも今はきっと嫌われてしまったのだ。さっきの行動が何よりの証明だと花織は思う。何か言いたげなくせに黙り込んだままの花織に一之瀬はしばらく沈黙していた。だがしばらくしたのち、一之瀬はわかったといって立ち上がった。
「花織、サッカーをしよう」
「……?」
花織は頬を伝う涙を拭いながらきょとんとした。一之瀬の隣に立っている土門も訳がわからないようできょとんとした顔で立ち尽くしている。いったい彼は何を言い出したのだろうか。
「何だよ一之瀬、急にどうしたんだ?」
「サッカーをすれば、思いは伝わる。サッカーで花織の気持ちを俺たちにぶつけてよ。……仲間だろ、俺たち」
頼りがいのある目をしていた。花織は彼の頼もしい言葉に思わず頷いてしまう。以前鬼道に拒絶されたとき、花織は誰にも相談できずに転校してしまった。他に友人がほとんどいなかったからだ。でも、今は違う。秋や土門たちをはじめとする多くの友人が自分を心配してくれている。
だから今は縋ろうと思った。もう十分に迷惑をかけている、今後これ以上の迷惑をかけるよりも、今彼らに助けを求めて縋っていたいと花織は思った。