FF編 第十章
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「ねえ、風丸! 待ってよ!」
学校を飛び出してしばらく、風丸は早歩きでひたすらに歩いていた。先ほど見た花織のショックを受けた表情が目に焼き付いて離れない。花織を傷つけてしまうことは分かっていた。だが、これでよかったはずだ。鬼道と居れば花織の心の傷もすぐに癒えるはずだから。そう自分に言い聞かせる。自分は間違っていないのだと。
「おい風丸、待てってば!」
「……!」
思い切り肩を掴まれて風丸は振り返る。そこには深刻そうな表情をした半田と、ふうと息をつくマックスの姿があった。二人とも風丸を追いかけてきたのだ。彼らは風丸のことが心配だった。半田とマックスは特に風丸がどれだけ花織を好いているか、風丸がサッカー部に助っ人に来る前から知っている。
「マックス、半田も……。どうしたんだ、そんなに息を切らせて」
風丸は疲れたような微笑を見せる。その反応に半田は食って掛かり、マックスは呆れたようにため息をつく。
「どうしたじゃないだろ!?」
「風丸が急に変なことするからに決まってるでしょ、ちゃんとボクらに説明してよ」
ぐいぐいと風丸の腕を引いて二人は道を進む。どこか落ち着ける場所を探してやってきたのは河川敷だった。どさりと坂に腰かけて二人は風丸を問い詰める。
「で、なんで花織とあんな別れ方したんだ」
「ちゃんと納得のいく説明をしてよね」
風丸を挟むようにして座る二人は早くも核心を突いた。風丸は一度目を伏せ、目の前に映る景色を見た。すでに日が落ちてあたりは暗くなり始めている。街灯がつくのも時間の問題だろう。そんなどうでもいいことを考えながら風丸は小さな声で呟いた。
「花織は、鬼道と一緒に居るほうがいいと思ったからさ。お前らも知ってるだろ、花織がずっと鬼道のことが好きだったって」
「花織が、そういったのか?」
半田が怪訝そうに顔を顰めた。風丸は静かに首を横に振る。
「花織は俺に気を遣ってくれていたから、そんなことは言わない。でもやっぱり分かるんだよ、花織がどうしても鬼道を見ずにはいられないって」
「でも鬼道を見てたからって、イコール好きに直結するわけでもないんじゃない? 確かに花織は、過去に鬼道を好きだったのかもしれないけど今は違うと思う。花織は鬼道のことを切り捨てられなかったことは事実だけど、誰より好きだったのは風丸だとボクは思ってる」
マックスが強く意志を孕んだ目で風丸を見る。珍しいな、と風丸は思いながらも穏やかな微笑は崩さなかった。
「そんなわけないだろ。花織は、ずっと鬼道のことが好きだったんだぞ?」
「でも風丸が好きになったから、最終的には付き合うことになったんじゃん。花織が風丸のことを好きになったんなら別れる必要なんてないよ」
ずきりと風丸の胸が痛む。もっと自分が傲慢で意志が固くあれたなら、花織を手放さなくてよかったかもしれない。でも自分が代わりでいいといったのだ、花織をこれ以上悩ませたくなかったのだ。自分が身を引けば彼女が幸せになれると思ったのだ。そして何よりも、これ以上一緒に居ると彼女への独占欲が今にも暴走してしまいそうで、気が狂いそうで嫌になった。
「もうやめてくれ。マックス、俺が嫌だったんだ。……花織をこれ以上どっちつかずな状態で置いておくのは。俺は花織が好きだ、でも花織は俺だけを好いてくれるわけじゃなかった。俺はそれが堪らなく嫌だっただけだ」
自分の事情の一部だけを述べ、風丸が笑う。そういわれてしまうとマックスはもう何も言えなかった。その言葉だけは花織のための言葉ではなく、彼が自分を想っての言葉だったからだ。もしも風丸が本当にそう思うのならば、マックスがよりを戻すことを強制するわけにはいかない。確かに花織は優柔不断で答えを決めかねていた。半田は怪訝そうな顔をしたまま、風丸とマックスを見ている。
「本当にそう思うの?」
「ああ」
「このまま鬼道と花織が付き合っても、納得できるの」
「してみせるさ。花織が選んだなら」
ここまで来ても風丸は花織だけを見据えている。マックスは説得は無理だと大きくため息をついた。そしてごろんと、河川敷の芝の上に寝転がる。
「わかった、わかったよ。……風丸には欲がないんだね、ボクだったら彼女を誰かに渡すために別れるなんて無理だけど」
「欲がないわけじゃないさ、でも俺は鬼道の代わりだったから。ずっとこうなる覚悟はできてた。ずっと花織のこと見てたんだ……。花織が本当に好きな奴のことくらいわかる」
悲しみも憤りも押さえて風丸は笑う。マックスはどうしようもないと目を瞑る。そんな二人を何も言わず、ただ腑に落ちない様子で半田は見ていた。