FF編 第九章
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全国大会二回戦は翌日に迫った。花織はあの日、鬼道との間にあったことを何も風丸に告げられずにいた。そして、風丸も花織に何も聞こうとはしなかった。戻ってきたときもおかえり、と花織に笑い掛けただけだった。あれ以来、ふたりの間には何か隔たりのようなものがあった。双方、それに触れないように過ごしていた。
「花織、少しいいか?」
練習終了後、ボトルを片づける花織の背中に声を掛けたのは豪炎寺修也だ。豪炎寺は無口でありながらも、元々花織とは良好な関係を築けている。ことに地区予選決勝の前日の事件があってからは時々、花織を気にかけてくれているようだった。
「豪炎寺くん、どうしたの?」
「お前、風丸とは上手くいっているのか」
いつもようにただ無表情に強い瞳で語りかける彼に花織は少なからず驚いた。豪炎寺はあまりこのような野暮なことを聞くような男ではない。普段の彼なら聞くことの無いであろう問いかけに花織は首を傾げる。
「上手くいっているなら、それでいい。だがもし、お前がまだ鬼道のことで悩んでいるなら」
「なんで……、知って」
花織が思わず言葉を漏らす。豪炎寺に鬼道についての何らかの相談をしたことはないはずだ。それなのに、どうして彼はそんなことを知っているのだろう。
「よほど鈍くなければわかる。……一応、そう言う場面にも居合わせたからな」
豪炎寺は、風丸とそれなりに仲が良かった。どちらも円堂の傍でサポートするもの同士であるし、何より先日は炎の風見鶏を二人で修得したばかりだ。加えて、地区予選決勝の前日の事件の時に彼は現場にいたのだ。……悟らない方がおかしい。花織はようやく納得できた。
「……決めているつもり。でも本当にこれでいいのか、本当はどうすればいいのかはまだわからないの」
言いにくそうに花織が呟く。豪炎寺はそうか、といつものように無表情に零した。
「悪いことをしたな」
「え?」
思いにもよらない言葉に花織は首を傾げる。どうしてこの関係、花織と風丸、そして鬼道の関係に対して豪炎寺が謝罪する必要があるのだろうか。花織はどういう意味なのか豪炎寺に問おうとしたが、豪炎寺はすでにもう踵を返してしまっていた。
何だったのだろう……。花織はまた首を傾げる。今日の豪炎寺の謝罪の意味が分かったのはもう少し後のことだった。
***
そして迎えた全国大会二回戦、千羽山中との試合であるが、雷門イレブンは未だにフィールドに整列しておらず、ベンチに佇んでいた。
「とにかく、全員そろってます! だから早く整列しないと」
風丸が響木監督に焦ったように言う。花織もそんな風丸の隣で不安げに眉を寄せていた。
試合開始時刻が刻々と迫っている。というか、正規の開始時刻はもうすでに過ぎていて、大会の規約に則って特別に猶予を貰っているだけなのだ。それももうすぐに終わってしまう。しかしそれでも監督は、もう一人来るから待て、と言い張りフィールドに選手たちを並ばせようとはしなかった。
「後三分以内にフィールドに入らなければ、大会規約に則り、棄権と見なします」
時計を見ながら告げられた審判のコールにチーム内に焦りが広がった。口々に監督に抗議の声を掛けても監督は口を噤んで動じない。いよいよ時が差し迫った、そのときだった。
「来たか」
低く、響木が呟く。その一言にチーム内はシン、と静まりかえった。スパイクのポイントと、地面の擦れる音が響く。花織の目の端に見慣れない青布が映る。そして花織がその人物を確認したと同時に、チーム内から吃驚の声が挙がった。
「ええええええええ‼」
ドレッドヘアにゴーグル、そして青いマントを羽織った鬼道有人が、雷門中のサッカー部のユニフォームを身に纏ってそこに立っていた。皆が驚きの声を上げた。いや、花織と風丸は驚きに声も出なかった。
「どうして……?」
隣に立つ花織の唇から、困惑の言葉を漏れたのが風丸には分かった。実況で鬼道がここに居る理由についてアナウンスが入る。結論から言うと、鬼道は雷門に転校し、サッカー部に入部したということらしい。そしてそれを知っていたのは響木監督と全く動じていない豪炎寺だろうか。戸惑い、花織は風丸に視線を向ける。風丸はまっすぐに鬼道を見据えていた。……本当に、容赦のない奴だな。
今日は風丸にとってある意味特別な試合だった。ラストゲーム。伊賀島戦で決めた、彼女を解放するための選択。覚悟はできている。だからこそ今日風丸にできることは、試合に貢献し、たとえ鬼道がいようとも花織の前で活躍する。そして最終的に勝つことだけだ。風丸はこぶしを握る。鬼道は花織、風丸双方に一度だけ視線を寄せたが、何も言わなかった。