FF編 第九章
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「悪かった。こんなところまで呼びつけて」
あれからまたしばらくして、花織と鬼道はサッカーのグラウンドに出ていた。先日地区予選決勝が行われた場所だ。そろそろ花織が帰らねばならないからここまで移動したのだ。花織はサッカー部の仕事を放棄してここに来たのだが、放棄したままにしておくことはできないそろそろ戻らなければ。
「いいえ。……あの、あまり気を落とさないでくださいね」
いつものような覇気のない鬼道に花織は当たり障りのない言葉をかけた。鬼道はその言葉に自嘲するように笑いながら受け止める。
「無理を言ってくれるな。……だが、お前が来てくれて嬉しかった」
悲しげにだが微笑んでみせる鬼道に花織は酷く心を揺さぶられる。彼を一人でおいていくことに気が引けた。いつもだったら花織の助けなど微塵にも必要としない逞しい彼なのに、彼の本心を聞いてしまうと脆いガラス細工のようだった。今ここで彼を一人にしてはいけない気がした。
「鬼道さん、あの……」
「鬼道‼」
花織が話を切り出そうと口を開く前に、第三者の声が二人の間に割り入った。花織は驚いて振り返る。我がチームのキャプテン、円堂だ。だがどうして彼はこんなところにいるのだろう。
「円堂か……」
「鬼道、お前に話があってきた」
「生憎、俺はお前とは話したくないんだがな」
はっきりとした円堂の声に対して鬼道の声は否定的で冷たいものだった。花織には絶対に掛けないであろう声色だ。だが、それに怯みもしない円堂はずんずんとこちらへ歩み寄り、花織の前に立ち、花織と鬼道を分断する。そしてちらりと花織を振り返った。
「月島、お前は先に帰れ。後は俺が鬼道と話すから」
「円堂君……、でも」
「音無から話は聞いた。俺は鬼道とどうしても話したいことがある。お前と鬼道の関係はよくわかんないけど、俺は落ち込んで月島に縋ってる鬼道なんて嫌だ。月島もそうだろ?」
花織は呆気にとられる。円堂はどこかいつもと雰囲気が違う。どうやら彼は怒っているようだ。だが、それは感情にまかせた怒りではなく、鬼道の行動に遺憾の意を示すもののようだ。今のところは鬼道を円堂に任せておくのがいいだろう。花織には今の鬼道を受け止めることはできても叱咤することはできない。だが円堂になら、いつもの彼を取り戻せる気が漠然とだがしていた。
それに……少し、居心地が悪かった。今の鬼道と居ると妙な気持ちになる。これ以上風丸を裏切るということも難しい話だが、背徳的な行為はしたくない。
「わかりました。私、先に帰ってます。皆はまだ練習してますか?」
「ああ、今日は夕方までは練習だ」
ニッと円堂が笑う。絶対に彼に任せていれば大丈夫だ。花織はそう確信する。
「花織」
不服そうに鬼道が花織を呼ぶ。自分抜きで話が進んでいるのだから当然かもしれない。花織は困ったように眉根を寄せて鬼道に言葉を掛けようとした。
「鬼道さん、私」
「そんな顔するな。……わかった、花織に免じて円堂の話を聞こう。お前は早く雷門に帰れ。……先日の返事は次に会った時にでも聞く」
鬼道の言葉に花織の心臓が大きく跳ねた。先日の返事とは、やはりあの告白の返事なのだろう。断ると決めている、だが今日の鬼道の想いを目の当たりにして花織の中での決心は鈍っていた。
一年以上、自分が恋い焦がれる前から好いていてくれたのだ。彼は自らが悪人となっても、危害が及ぼうとも花織を守ろうとしてくれていた。
「は、い……」
また気持ちは振出しに戻ってしまったと、花織はゴーグル越しの赤い瞳を見つめながら思った。