FF編 第八章
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花織の、そして風丸の決心のつかないままに、とうとう全国大会開会式が始まった。選手たちは入場待機の為にフィールドへの入り口付近で待機していた。しかしマネージャーが全員下に降りても仕方がないので、選手たちは一番古参の秋に任せ、花織と春奈は観覧席に座って開会式の開幕を今か今かと待ち構えているところだ。
「花織せーんぱいっ」
上機嫌の春奈が隣に掛ける花織に笑い掛ける。地区予選決勝の時に春奈と花織は言い争ってしまったのだが、春奈が試合後に謝罪をして以来、春奈は以前よりまして花織に懐いたようだった。理由は、花織にはよくわからなかったのだが。
「いよいよ全国大会ですねーっ! 私たちマネージャーも気合入れていきましょうねっ」
「うん、そうだね。一緒に頑張ろう」
花織はニコニコと笑顔な春奈に微笑んでみせる。すると春奈は花織の顔をじいっと見つめてその後すぐに顔を赤らめた。
「?……どうしたの、春奈ちゃん?」
「い……、いえ、何でもないんです」
春奈が慌てたように顔の前でぶんぶんと手を振る。いったい彼女はどうしたのだろうか。花織が不思議そうに首を傾げる。いつもとは違う彼女の態度が気にかかって花織に声を掛けようとしたが、それより先に入場行進が始まってしまった。
威勢の良い入場曲と共に選手たちがフィールドに入場する。近畿ブロック代表、戦国伊賀島を筆頭に選手たちが入場し始める。そして待つことしばらく、ようやく彼女たちの所属する雷門中学の選手たちが入場してきた。
「雷門中学は地区予選に置いてあの帝国学園を下した恐るべきチーム! 伝説のイナズマイレブン再びと注目が集まっています!!」
「……………」
少し遠目に見える蒼髪の彼を見つめて花織は目を細める。春奈と共に最前列に席を取ったのだから、彼の姿はそこそこによく見えた。凛々しく逞しい、端正な顔立ちをしたまるで侍のような男らしさを持つ彼。大切な自分の恋人。何をおいても自分を大切にしてくれる彼、花織の傍にいてほしいときに絶対に傍にいてくれる彼。そんな彼に自分も応えたいと思っているのに。
「さらに、昨年の優勝校、帝国学園が特別出場枠にて参戦! 関東ブロックでの地区予選決勝において熱い死闘を繰り広げながらも惜敗した、超名門帝国! 特別枠にて王者復活を狙います!!」
流れるように花織の瞳に次に映ったのは赤いマント。ドレッドヘアにゴーグルという不思議な取り合わせ。だが、彼が身に纏えばまるで皇帝の身に着ける装飾品のように思えた。威風堂々としたその姿は帝国の頂点に立つに相応しい。
一年前からずっと思い続けてきた。花織の心を虜にして離さなかった彼。自分の心を偽ってまで私を守ろうとしてくれた人。今となっては忘れてしまいたいほど、複雑な思いを感じている人だ。
「花織先輩。花織先輩はお兄ちゃんのこと、好き……なんですよね?」
隣に座る春奈が今は鬼道に向けていた花織の顔を覗き込むようにして問いかける。花織は不意を突かれて思わず身を引いてしまった。
「えっ……」
「この前、花織先輩が言ってたじゃないですか! お兄ちゃんが好きだって。……あれ、嘘じゃないですよね?」
嘘、ではない。花織は微かに頷く。すると春奈は生真面目な顔をして花織に詰め寄った。
「私、花織先輩にお願いがあるんです」
真っ直ぐな春奈の視線に見つめられて花織は戸惑う。何、と苦笑いしながら問い返せば春奈は言葉を紡いだ。
「お兄ちゃんとのお付き合い、考えてくれませんか?」
先日とは全く違う、掌を返したような頼みに花織は驚く。先日春奈は風丸に誠実であるようにと花織を叱ったのに。花織がきょとんとしていたことに気が付いたのか、春奈は自分の席に座りなおすと少し俯いて理由を話し始める。
「お兄ちゃん、私を引き取るためにいろんなこと我慢してたんです。……花織先輩に酷いことを言ったのも、きっと無理に花織先輩を諦めようとしたからだと思うんです。……私の為に」
春奈はどうやら自分のせいで鬼道が花織と付き合えなかったと思っているらしい。悲しげな顔をして彼女は俯いている。花織は思わず胸が切なくなるのを感じた。
春奈の言い分は間違いないと思う。鬼道は今まで自分を犠牲にしてきたのだろうと感じている。本当は優しい人だから花織は鬼道を嫌いになり切れなかったのだろうから。
「だから……!お兄ちゃんは悪くないんです! 本当は花織先輩のことが大好きなんですっ! 風丸先輩と同じくらいに」
ずきりと花織の心臓が大きく音を立てる。
「この間と、私が真逆こと言ってるってことはわかってます。でも、お兄ちゃんがこのまま報われないなんて。……だから、花織先輩が本当にお兄ちゃんのことを好きだって言ってくれるなら、少し考えてもらえませんか? お兄ちゃんの彼女になること……」
どうすればいいのだろうか。ある人からは時間をかけて悩めと、ある人からは早くはっきりしろと。鬼道を取れと、風丸を取れと、何度もどちらにも揺さぶられて。本当に何を取るのが正解なのだろうか。花織は迷いを隠して春奈に作り笑いを浮かべて見せる。
「うん……。でも、私、一郎太くんのことが好きだから……」
「あ、風丸先輩と別れろっていうわけじゃないんですけど……っ、その、先輩が本当に風丸先輩のことが好きなら」
春奈のその言葉に花織は俯いてしまった。声色、台詞すべてがその言葉を花織に突きつける。花織はスカートの裾をぎゅうっと握り締めた。鬼道にも言われた言葉だ。お前は本当にアイツが好きなのか。事情を知る人間から見ればきっと花織の風丸への想いは同情に見えるのだ。いや、同情なのかもしれない。何故なら花織はいまだに何も決めきれずにいるのだから。