FF編 第一章
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既に桜は散り、木々は青々と色付き始めた。花織はすっかりクラスにも慣れ、秋や風丸以外にも仲の良い友人ができていた。それでも秋とは親友と呼べるほど仲良くなり、クラスで一緒に過ごすことが多くなっていた。
しかし新しい友人は女の子だけではない。男子との仲も広がり始めていた。最近行動をよく共にしているのは栗色の髪の少年、半田真一とピンクと水色の縞模様のニット帽がトレードマークの松野空介こと、マックスという少年である。半田とは席が近いという理由で話しはじめた。そして他クラスのマックスとも半田を通して交流が始まったのである。
帝国学園にいたときはほとんど男子と話すことの無かった花織にとって、彼らと過ごす時間は新鮮で、よく一緒に行動していた。すべてが順調に進んでいるはずだったが、内心複雑な人物も花織の周りに居た。何を隠そう風丸である。
苛立つ気持ちがふつふつと湧き出るようだ。風丸はため息をつきながら楽しそうに秋と話している花織を見つめる。ここのところ気が付けば花織を目で追っていて、半田たちと花織が一緒にいるところを見ると胸の中がモヤモヤとして気持ちが悪くなった。
それだけならばまだしも、話しかけられたら話しかけられたで花織の前だと妙に緊張してうまく話せなくなる。それによってさらに自分に対する苛立ちが増幅し、堪えられなくなる。息ができないほど苦しくなる胸を押さえようとシャツの胸部分をぎゅうと掴む。
(何なんだ……っ)
花織の微笑みが、仕草がすべて風丸の心を刺激する。その複雑な感情は、校内にいる時間だけでなく、陸上部での練習のときにも現れて鎮まることは無かった。校内にいるときよりは幾分落ち着くようではあったが、やはり少なからずモヤモヤとするような、胸がざわめくような気持ちがある。
「月島先輩! 今日もよろしくお願いします!」
風丸の後輩、宮坂がはしゃぎながら花織に話しかけている。それを見ていると胸がキリキリと痛むようで苦しい。花織に対して宮坂は少々馴れ馴れし過ぎやしないかとさえ思え、そんな考えが風丸の中で黒く増幅していく。以前は宮坂と花織が話をしていようが何も思わなかった。現に、大したことではないはずなのに。
「うん。よろしくね、宮坂くん、風丸くん」
花織が笑顔で宮坂の言葉に答え、風丸と宮坂の二人を見た。花織はふと、風丸の表情が気に掛かって首を傾げる。ワクワク顔の宮坂に対して、風丸は少し不機嫌そうに顔を顰めている。何かあったのだろうか、そんな風丸を見て花織は心配そうに風丸の顔を覗き込んだ。
「風丸くん……? 何かあった?」
花織の黒い瞳が風丸だけを映して、心配の色を浮かべる。その視線が交錯すると風丸の心の痛みはすっと嘘のように消えた。代わりに心臓が大きく拍動する別の苦しさが彼の身体を支配する。
「だ、大丈夫だ。……何でもないよ」
心配かけてすまない、と風丸が目を細めれば、花織は微笑んで頷いた。そんな彼女の笑顔を見ていると胸の中の花のつぼみが花開いたかのような気持ちになる。彼女につられて自然と口元が緩んでしまう。
単純すぎる自分の心に風丸は内心苦笑した。あまりにも自分の欲望に愚直すぎる。これではまるで、自分が花織のことを好いているようではないだろうか。そんな考えが脳裏を過る。その答えは風丸の身体に稲妻を落とした。
「あ……」
ハッとして目を見開き、彼女を見つめた。意図せず彼の口から声が零れ落ちる。すると花織は風丸を見た。目が合って、彼女は風丸に笑いかけた。どきりと風丸の心臓が大きく音を立てる。表情が和らぎ自然と花織に目を奪われる。行こう、と花織が風丸を呼んだ。その澄んだ声がまるで甘い調べのように温かく胸に溶ける。ここまで来て、風丸は初めて自分が月島花織という少女に抱いている感情を自覚した。