FF編 第七章
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「おめでとう、一郎太くん」
十分に勝利を祝い、解散をした後ふたりは帰路に着いていた。花織が心配だからと風丸は疲れた身体をおして彼女を自宅まで送ろうとしていた。いくら影山が逮捕されたとはいっても昨日の今日だ。心配にならないほうがおかしい。
「おいおい、花織もチームの一員だろ。他人事じゃないんだぞ?」
「ふふ、そうだけどね」
嬉しそうに隣で笑い掛けてきた花織に対して、風丸が呆れたように言葉を告げる。それにまた花織はくすくすと笑った。
「私、今日一郎太くんが疾風ダッシュを決めてくれて嬉しかったよ。すっごくかっこよかった」
「あ、ああ。……ありがとう、花織」
「ううん、こちらこそ。ありがとう、一郎太くん」
風丸は花織と繋いでいる手をきゅっと握る。こんなふうにいつも通りに微笑むふたりだったが互いに心中は全く穏やかではなかった。手を握り合っているくせに、そわそわとどちらとも落ちつきがない。
「あ、あのさ。花織」
会話が途切れた一瞬をついて、風丸が花織を呼ぶ。花織は少しだけ首を傾げて風丸を見た。
「なあに?」
「今日、鬼道とずっと一緒にいただろ?」
そこまで言って風丸は言葉をやめてしまった。それを聞くのは野暮だと思ったのだ。しかし花織はそんな風丸の心境に気が付いたのか、彼が知りたいであろう今日のことを彼に話す。
「鬼道さんとは、ずっとスタジアムに仕掛けられた罠を探していたの。……ほら、鉄骨が落ちてきたでしょう?」
「ああ、それはそうなんだが」
もちろん円堂から鬼道のおかげで、自分たちが助かったのだということは知らされている。だが重要なのは行動ではない。
「……他に、何か言われなかったのか?」
風丸は、花織はすべてを話してくれると思っていた。それほど彼女が自分に誠実であろうという思いが伝わってくるからだ。……話してほしい。試合前に彼らが話していたことを。きっと自分の推測通りの話を。花織は少しだけ俯くときゅっと彼の手を握りなおす。
「好きだって、言われた……。鬼道さんに」
「……っ」
やはり、と風丸は思う。想像していても実際に目の当たりにすると胸が苦しい。自分の意思とは関わらずにぐっと自分の表情が険しくなるのを彼は感じていた。
「一郎太くん……」
花織が風丸の手を引いて歩みを止めた。今日がその日になるのだろうか、まだ決心はできていない。風丸は息をのむ。じっと押し黙って花織の言葉を待った。
「一郎太くんは……、あの。私のこと、好き?」
少し照れたように、またそれを問うのも照れくさいと感じながら、花織は頬を染めた。風丸はきょとんとしてしまう。てっきり別れ話を告げられるかと思っていた風丸は、拍子抜けしてしまったのだ。そして戸惑いながらも風丸は素直な気持ちを口にする。
「あ、ああ……。好きだよ。好きじゃなきゃ、付き合ってないだろ。俺たち」
「……うん、ありがとう。あのね、一郎太くん。……私、断るよ。まだ答えはいらない、考えてくれって鬼道さんには言われたけど……。でも私は一郎太くんが好き。だからちゃんと断る、鬼道さんがどれだけ過去の私にとって大切な人だとしても」
花織の告白を嬉しく感じながらも風丸は嘘だ、と思っていた。花織の言葉には一つだけ偽りがあった。風丸は確信する。鬼道が花織にとって過去の人なわけがない、花織の目を見ればすぐにわかる。今だって鬼道に焦がれている。俺が花織を縛り付けている。音無に言った通りに。
本当は鬼道への想いを声を大にして叫びたいはずなのに、花織は俺を気遣って鬼道への想いを押し殺している。風丸は花織の偽りを受け止めながらも胸の中で決意を新たにした。いつか、なんて。悠長なことを言っている時間はない、早急に彼女への想いを断たなければ。