FF編 第七章
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花織と鬼道はあれからしばらくしてスタジアムの入り口に立っていた。何も見つからないまま、結局ここに何かが仕掛けられているだろうということになったのだ。しかし鬼道曰く、いつも通りのフィールドで何も異変はないようなのだ。
「鬼道さん……」
不安げに花織が鬼道を見る。もう試合開始まで時間がなかった。鬼道も花織に視線を向けようとした、その時だった。
「ぎゃあああああああああああああ!!!」
耳を劈くような悲鳴がスタジアムに響き渡る。鬼道が咄嗟に花織を自分の背へと隠すようにして彼女を庇った。しかし何も特に状況に変わりはない。遠目に悲鳴の主を探していれば、その声が宍戸のものだということがわかった。どうやら天井から何かが落ちてきたらしい。ただならぬその声に花織は戸惑いを交えた声で鬼道に問いかける。
「どうしたんでしょう……」
「わからない」
鬼道は天井を見上げる。スタジアムの天井は高すぎて、見上げてもただ暗い闇が上には広がっているだけだ。しかし、今の一瞬で鬼道の頭の中に何か引っかかるものがあった。なんだろうか、彼はそれがわからないでいた。
「花織、そろそろお前は雷門のベンチに戻れ。試合が始まる」
「でも……」
花織は不安げな面持ちで鬼道を見つめた。まだ何も見つかっていない、選手たちに何が起こるかわからないのだ。鬼道はそんな花織を安心させるように、ぽんぽんと花織の髪を撫でる。
「大丈夫だ。俺が絶対に見つけてみせる。誰も傷つけさせやしない」
鬼道が柔らかく微笑んで花織に囁く。花織にとってみれば彼の言葉は根拠のない言葉のはずなのに、どうしてか本当に何も心配はないと感じさせた。花織はこくんと、彼の言葉に頷く。
「……わかりました。鬼道さん、いい試合にしましょう。絶対に雷門は負けませんから」
今の場に合わない宣戦布告を、花織はしっかりと鬼道の目を見据えて口にした。これは彼女なりの鬼道を信頼する言葉だった。何故なら、その結果は試合が無事に行われなければ、存在しない未来を予言する事象だからだ。それだけ言って花織はベンチへ戻ろうとする。そんな彼女の背中に鬼道は言葉を掛けた。
「花織、あとで話がある。……聞いてくれるか」
「……はい」
少しだけ振り向いた彼女は微かにだが、頷いた。
❀
もう既に雷門イレブンはスタジアムに入場するための準備をするために、スタジアム下の通路に降りていた。花織がチームに合流するために、急いで階段を下りれば円堂が大きな声で彼女の名を呼ぶ。
「月島!」
「今まで留守にしていてごめんなさい!」
皆の元へたどり着くや否や、花織は深々と頭を下げる。きっと彼らの花織に対する待遇は厳しいものだろう、何せ敵チームのキャプテン鬼道と共にいたのだから。しかし、俯く彼女を取り巻く視線はさほど厳しいものではなかった。
「お疲れ、花織。仕方ないだろ。監督命令だったんだし」
「え……?」
半田の言葉に花織は顔を上げた。監督命令……? いったい、どういうことだろう。花織が疑問に思っていると半田の言葉にマックスが続く。
「帝国出身の花織だからこその仕事があるって、監督が言ってたんだよね」
「先輩、何やってたんですか? 鬼道さんの弱点を探してたとか!?」
期待するような目で、先ほど間一髪の目に遭い掛けた宍戸が花織を見た。しかし花織は状況が掴めずに戸惑うばかりだ。何も言い出せない彼女に今度は風丸と土門が助け船を出す。
「ただの書類関係の仕事だぞ? 試合登録のためにここの学園長室に行ってただけだ」
「そうそう。この学校のセキュリティは面倒だし、何より帝国の生徒の付き添いがいるからね。多少なりとでもこの学校に詳しくて、鬼道と知り合いだった花織ちゃんが適任だったってわけ」
めちゃくちゃな話だ……。花織はありえない作り話に唖然とする。だが誰がそんなことを言ったかはすぐにわかった。風丸と、きっと豪炎寺だ。頭の回るあの二人なら混乱を防ぐために花織が敵チームにいる理由を隠そうとするだろう。何だー……、と落胆する一年生を横目に見ながら花織は恋人である風丸の元へと歩みよる。
「一郎太くん……」
「花織、大丈夫だったか?」
小声で風丸が花織に囁き、花織の肩に手を置いた。表情から言葉通り花織を心配して止まなかったことが汲み取れる。
「うん……。私は、大丈夫だったよ。……一郎太くん」
「どうした?」
花織の悲しげな表情に風丸が首を傾げる。花織は少し言葉を詰まらせたが、何とか言葉を紡ぎだした。
「ごめんね……。私、一郎太くんを傷つけてばかりで。私のために鬼道さんと約束をしたんでしょう? ……私が、一人にならないように」
花織は俯き加減に呟く。鬼道と風丸が約束をしたのだ、という事実を知ってから花織はずっと風丸に謝りたかった。花織の言葉に風丸はぴくりと瞼を震わせたが静かに首を振る。
「花織、気にしなくていい。俺は花織が無事なら何でもいいんだ。そのために俺が勝手に選んだことだ、花織がそれに責任を感じる必要はないさ」
本当は大丈夫なわけがない。鬼道と一緒にいた彼女が何をされたかわからない。愛を告げられたかもしれないし、彼女もそれに答えたかもしれない。それを今すぐにでも問いただしたい。
「……ごめんなさい」
「花織」
それでも浮かない顔をする花織に風丸は微笑む。そして優しく花織の髪を撫でた。自分は何も気にしていない、花織が無事で笑ってくれるなら何でもいいのだと自分に言い聞かせながら。
「試合、頑張るから。絶対鬼道に勝つ。だから応援してくれ、な?」