FF編 第七章
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とうとう帝国学園との地区予選決勝の日がやってきた。早朝、家が遠いにも関わらず、風丸は花織を迎えに来ていた。昨日の今日だ、万が一のことがあってはいけないし、何より花織が心配だった。加えて、不本意だが風丸には鬼道との約束もあった。
「おはよう……。一郎太くん」
インターホンを押せばすぐに花織がドアを開け、恐る恐る顔を覗かせた。その表情はいつもに比べ少し暗い。無理もない話だ、何せ、昨日あんな目に遭ったのだから。
「おはよう、花織。ちゃんと眠れたか?」
少しでも彼女の元気が出るよう風丸は無理に明るい声を出して、彼女に問いかける。
「うん、もう大丈夫。ごめんね、迷惑かけて。……改めて昨日はありがとう。私……、一郎太くんがいなかったらどうなっていたことか。……想像するだけで怖い」
「いいんだ。俺がお前を守るのは当たり前の事だろ?」
泣きそうな表情を浮かべた花織の肩を叩いて風丸が微笑む。そう、花織が無事ならば、それだけでいい。本当に、ただそれだけで。
❀
駅前に集合し、電車に乗り込めば監督や円堂、豪炎寺が花織に心配の言葉を何度もかけてきた。彼女の隣にかけている風丸はずっと花織の横顔を見つめていた。花織はどこか憂い顔で窓の外を見つめている。円堂たちの問いにはもちろん受け答えをしているが、やはりいつものような元気はないようだ。
マックスや半田もそんな彼女の様子に疑問を感じているようで、昨日の出来事を知らないにしても花織のことを心配して声を掛けに来ていた。そんなふうに帝国学園までの道のりを過ごし、電車に揺られていれば一行は帝国学園入口まで到着した。
どんよりとした曇り空の下、花織は帝国学園の校舎を見上げる。いつ来てもこの場所の空気は暗く重苦しい。まるで要塞のようだと、自らがこの学校の生徒だった時から何度感じたことか。中へ進んでみると何となく懐かしいような、だが疎外感のような感覚を花織は覚えた。半年前まではこの学校に通っていたというのに全くと言っていいほど学校に対する親しみがない。
「花織はここに通っていたんだな……」
花織の隣に立つ風丸が、ぽつりと誰にも聞こえないような小さな声で呟いた。
❀
鬼道有人は厳しい面持ちで影山総帥の元へと向かっていた。今日の試合、何が起こるともわからない。昨日、花織の身に起こったことを考えれば、何もないほうがおかしい。鬼道は総帥を誰よりも信じ、誰よりも総帥に従ってきた。勝つことこそがすべて、敗者に価値などない。その総帥の考えに鬼道は惹かれていた。この人に着いて行けば、サッカーを極められると思っていた。しかし、総帥のしてきた今までのことを考えると、今となってはその、鬼道にとって何よりの尊師であった総帥が信じられなかった。
鬼道が総帥のいる指令室の戸の前に立てば、自動ドアは勝手に彼のために開いてくれた。鬼道は歩を進める。無表情にモニターを眺める彼の師がそこには座っていた。影山は低く感情のない声で、鬼道に言葉を掛けた。
「何の用だ、鬼道」
「俺は堂々と戦いたいのです。何も仕組んでいませんよね」
鬼道が声を張り上げる。雷門との試合、全力でぶつかり合うことを楽しみにしていた。しかし、この人はそれを許さなかった。試合当日になってまで雷門を潰そうとしなくてもいいだろう。帝国は今まで無敗だった、雷門に負ける気などもとよりない。鬼道はそう思っていた。しかし、総帥の言葉は鬼道の思いを裏切った。
「今まで通り、私に従えばいい」
その言葉は何か仕組んでいるのだ、という言葉と同義だった。鬼道は眉間に皺をよせ、表情を険しいものとする。やはりこの人はどこまでも勝ちに拘る。どんな汚い手を使ったって勝てばいいと思っている。鬼道にはもう、それが許せなかった。過去この人に着いて行こうとしていた自分も腹立たしいくらいに感じる。
「失礼します」
憮然とした声で鬼道がくるりと影山に向かって背を向ける。その鬼道の背中に影山は言葉を投げかけた。
「天に唾しても自分に掛かるだけだ」
しかし鬼道は振り返ることもなく、指令室を出て行った。影山は鬼道を見送り、低い声で呟く。その言葉はもう鬼道に聞こえてはいなかった。
「ここまでだな、必要とするのは逆らわぬ忠実なしもべ……」