FF編 第六章
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「あーっ、美味かったなあ」
雷々軒を後にした円堂、豪炎寺、風丸はそれぞれ帰路につこうとしていた。
「よぉーし! 今から腹ごなしにサッカーやろうぜ!」
「おいおい、今から練習するのか? さすがに帰りが遅くなるぞ」
円堂がサッカーボールを片手にこぶしを突き上げれば、風丸が呆れたように言った。豪炎寺はそれを微笑ましげに見つめている。
「いいじゃん、明日は決勝だろ? 最後の最後まで気合い入れて特訓しとかないと」
「明日が決勝だから、監督は練習を早めに切り上げるように言ったんだがな」
苦笑しつつ、風丸も円堂と一緒に練習する方へ気持ちが傾いていた。どうせ円堂に意見しても聞きやしないのだし、明日の相手は帝国学園、疲労が残るかもしれないが少しでも長い間練習したいとも思う。
「……放して!」
その時微かに女の悲鳴が三人の耳に届いた。商店街に似つかわしくない、ただ事ではない声に三人とも足を止める。
「ん? 今何か聞こえたか?」
「花織……?」
円堂の言葉に続けて風丸が自分の恋人の名を呟いた。彼は眉間に皺を寄せる。どうにも先ほどの女の声が彼女に似ているような気がしたのだ。真剣な表情で声に耳を澄ませる風丸を豪炎寺が訝しげに見つめる。
「……いやっ放して! 助けて……」
「……!!」
二度目の声は先ほどよりもはっきりと聞こえた。何かあったのか、円堂がそう呟く前に風丸は駆けだしていた。間違いない。二度目の声で風丸は確信を抱いた。この声は……。
「あ、おい! 風丸!」
駆け出した風丸を追いかけて円堂、豪炎寺も走り出した。
聞こえた声を手繰るように風丸が倉庫街への道へと飛び出す。そしてその異様な光景に一瞬足が止まった。一人の雷門中学の制服を身に纏った少女が三人の黒服の男たちに囲まれ、車に押し込まれそうになっている。少女の顔は目隠しや耳あて、猿轡などが覆っていてはっきりとしないが、その少女の髪型や雰囲気で風丸は悟った。あれは花織だ……、間違いない。
「花織!!」
持ち前の俊足で彼女の元へと駆けだす。何が起こっているのかは分からない。この状況を打開する策だってない。ただ花織を助けなければ、その思いで走った。
「何だお前は、ぐおっ!!」
彼の走るスピードの勢いで、男の内の一人に風丸はタックルを食らわせる。一人が倒れ、他二人が怯んでいる内に風丸は花織の右腕を引いてそっと彼女を地面に座らせると、自分の背に隠した。彼女を庇うように腕を後ろに回して背を屈める。風丸に突き飛ばされた男は未だ立ち上がれないままだが、残った二人がじりじりと花織と風丸に迫った。
「この餓鬼……っ」
「ファイアトルネード!!」
「ぐほっ!!」
そのとき、風丸らに手を伸ばした男の身体が、爆音とともに数メートル吹き飛ばされた。風丸は思わず目を見開く。吹き飛ばされた男はかなりダメージを喰らったようで酷くせき込んでいる。
「あまり無謀なことはするな、風丸」
「豪炎寺……、すまない」
未だ相手を睨みつけながら言葉を交わす。しかし、男たちはもうこちらへ歩み寄ろうとしなかった。
「くそっ、ずらかるぞ」
「しかし……、総帥に何と報告すれば」
総帥、その言葉に豪炎寺の眉が顰められた。まさかそれは帝国学園の総帥の事だろうか。だとしたら花織は初めから狙われていたのだろうか。そんな考えが彼の頭を過る。
「仕方がないだろう、作戦は失敗だ」
そう言いながらすぐさま男たちは車に乗り込み、この場から姿を消してしまった。
「逃げた、みたいだな」
ほっと風丸が息を吐く。追いかける必要はない、どうせ車相手には追いつけやしない。それよりもまず花織だ。風丸は花織の方へ向き直り、しゃがみ込む。そして花織の身体に触れれば彼女はびくりと身体を震わせ、自由の利かない身体で風丸の手から逃れようとした。やはり酷く怯えているようだ。風丸は彼女のが怖がらないよう、そっと花織の耳あてを取る。
「花織、俺だ。もう大丈夫だぞ」
そう風丸が花織に囁く。すると花織の身体のこわばりが微かに緩んだ。風丸は急いで花織の目隠しを外す。すると恐怖し、怯えた瞳が風丸の前に現れた。そしてそれは風丸を捕えるとボロボロと涙を零しはじめる。風丸は急いで花織の拘束具を外し、花織の身体に触れた。
「花織……」
「……っ」
声にならない声で彼を呼び、花織は涙を流す。風丸を目に捕えた瞬間、彼女の中に温かいものが広がった。花織は風丸に縋りつき何度も一郎太くん、と風丸の名を呼びながらしゃくりあげる。風丸は優しく花織の身体を抱き寄せ、彼女を落ち着かせようと静かに背に触れた。
「こわかっ、たあ……っ!」
風丸の肩に顔を埋め、花織が止まらない身体の震えを押さえながら泣きじゃくる。風丸は宥めるように花織の背を撫でた。
「どうした!?」
そこへ円堂が呼んできたらしい響木監督が円堂と一緒に三人の元へと駆けてきた。豪炎寺は円堂らを止め、二人に先ほどあった出来事を説明し始める。どうやら花織に気を遣ったらしい。そして豪炎寺から見たままをひとしきり話として聞いた響木はいつものように表情では感情を悟らせなかったが、かなりの憤りを感じているように見えた。
「ひとまず店に来い。まだここは危ないかもしれんからな」
響木の言葉に円堂、豪炎寺、風丸が頷く。
「花織、立てるか?」
風丸が問いかければ、花織は立ち上がろうと足に力を込める。しかし、極度の緊張から安堵という急激な心の変化があったためか、腰が抜けてしまったようだ。上手く立ち上がれないでいた。
「……立て、ない」
涙でぐしゃぐしゃなまま、泣きじゃくる花織が微かに呟く。それを見た円堂は手伝おうか、とふたりの元へ歩み寄った。
「いや、円堂。……俺がおぶるから、ほら」
風丸が花織からそっと離れ、花織に背を向ける。そして自分の背へ乗るようにと促した。何とか花織を背に乗せて立ち上がる。ふと、風丸はその時、背中の辺りに規則的な振動を感じた。