FF編 第六章
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花織は薄暗い帰り道、さっと後ろを振り返った。しかし背後には誰もいない。花織は身を震わせて鞄の肩ひもを握りしめ、再び歩を進め始めた。先ほどから背後に人の気配と視線を感じていた。しかし振り返っても誰もいない、確かに花織の耳には人の足跡が聞こえているというのに。言い知れぬ恐怖が花織の足を速めさせる。
花織が普段、途中まで帰りを共にしている風丸は今日、決勝戦前日ということもあり、練習が早く終了したために円堂、豪炎寺と共に雷々軒へ寄り道をするとのことだった。そのためマネージャー業を終えた花織は、一人で帰路についていた。今一人きりで、風丸が傍にいないことが心細くて仕方がない。
そのとき花織はふと思う。怖いのならこのまま一人で帰らずに一度人通りの多いところへ行けばいい。回り道をして引き返せば、商店街に出る。商店街には監督のいる雷々軒があるのだし、もしかすると今日、寄り道をしている風丸もまだそこにいるかもしれない。
花織は背後の足音を気にしながら、進行方向を変え商店街へと急ぐ。背中に感じる視線や気配は相変わらずだが、ようやく倉庫街へとたどり着いた。ここを抜ければ商店街に出る。倉庫街は人通りも少ないが、花織は息を呑む。一刻も早く頼れる人に、彼に会いたかった。花織は先ほどよりも歩調を速めて道を急ぐ。商店街まで残り二つとなった曲がり角を曲がる。刹那、強い力で腕を引かれ身体を壁に叩きつけられた。
「……!?」
「騒ぐな」
衝撃で声すら出なかった。腕をねじり上げられ、壁に胸を押し付けられる。背後から聞こえる声は相手が大人の男だということを悟らせた。あまりに突然のことに身体が硬直して動かない。
「月島、花織だな」
壁に身体を押し付けられたまま、そのまま後ろ手に縛られる。何故、私の名前を? そこまで花織の思考は回らなかった。しかし男は背後で何かを確認しているようだ。ごそごそと何かを探しているのが分かる。花織の心は恐怖で凍りつきかけたが、震える足に力を籠め何とかふみ留める。
相手は今、油断している。商店街、雷々軒まではあと少し。相手が一人ならば自分の足なら充分撒けるはずだ。花織は決意を固めると服が破れ、肌が擦れるのも構わずに勢いよく身体を反転させる。そして突然の花織の抵抗に驚いた男の急所めがけて、持ち前の脚力で足を振り上げた。
「うぐ……っ!」
男は悶絶し、股間を押さえて蹲る。花織はそれと同時に商店街へ向かって走り出した。後ろ手に縛られているせいで上手くバランスがとれない。足がもつれて今にも転びそうだ。それでも何とか足に鞭打って走る。大丈夫、これなら何とか雷々軒までたどり着ける。
「逃げたぞ!」
花織に攻撃された男が大声を上げる。花織は刹那、何とも嫌な予感を感じた。まさか。しかし止まるわけにもいかず、花織が最後の曲り角を曲がった瞬間、二人の黒服の男が角から現れ花織を取り押さえた。
「放して!!」
花織は身を捩った。しかしそれでも男の拘束は緩むことなく、それどころか大声を上げても男たちの他には人っ子一人いない。冷たい恐怖が花織の身体を駆けぬける。先ほどは感じなかった絶望感が花織の動きを竦ませた。
「大人しくしてろっ!」
「いやっ!! 助けてっ……。いち!! ……んんっ」
大声を上げて助けを乞うたがやはり人影はない。その上猿轡を噛まされ、耳も目も塞がれてしまった。体の自由を奪われ五感も奪われてしまえば、もう助けの求めようがない。
「んん……、ん」
くぐもった声が漏れるが意味のある言葉にはならなかった。突き落とされたような恐怖感が花織の心をすでに支配していた。……殺されてしまうかもしれない、もう二度と彼には会えないかも。助けてお父さんお母さん……。助けて……、一郎太くん。無理やり身体を引きずられるような感覚を覚えながら、花織はひたすら彼に助けを求めた。