FF編 第六章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
帝国からのスパイが消え、帝国と密通するものはいなくなった。しかし今の練習でも風丸は未だ疾風ダッシュを練習で封じ続けていた。花織はもう隠す必要はない、と風丸に言ったのだが、風丸は切り札は隠しておいて損はないと思うぜ、と笑った。
しかし今、雷門はフットボールフロンティア出場の危機にさらされている。大会規約にて監督のいないチームは大会には出場できないということが、冬海を追放したのちに発覚したのだ。
新監督を探すべく、全員であてを探しているのだが、先ほどは学校近くの商店街にあるラーメン店、雷々軒を尋ね追い出されたばかりだ。雷々軒の店主は円堂の祖父の秘伝書の存在を知っている、そのため伝説のイナズマイレブンだったのでは、という疑惑がある人物だった。
練習になっても、監督が見つからない今、選手間でもやる気が足りていなかった。壁山が恨みがましい目で円堂に縋りつき、とてもじゃないが練習どころではなくなっている。ふとその時、土門が足を止め、河川敷の橋の上を見上げた。
「鬼道さん……」
「あっ」
土門の呟きに雷門イレブンが橋の下へと集まり始める。橋の上には私服姿の鬼道が立っていた。円堂が壁山から離れ、鬼道の元へと駆け上がってゆく。下に集まった雷門イレブンの間では鬼道を非難するような言葉が交わされていた。
「偵察に来たんだな」
「不戦敗寸前の僕たちを笑いに来たのかも……」
「どっちにしろ嫌な感じだ」
花織もそっと鬼道を見上げていた。どうしたのだろう、決勝戦前にこんなところへ来るなんて。花織は春奈の方へ視線を映した。春奈ちゃんの顔を見に来たのだろうか、試合前には妹の顔を見たくもなるだろう。花織が見つめた春奈の表情は鬼道を見据え、どこか寂しげなものであった。
「月島ー!!」
「え?」
そのとき円堂が急に大声で花織の名を呼んだ。チームメイトの視線が一気に花織へと集まる。花織は何故、円堂に名を呼ばれたのかが分からず動揺の表情をチームメイトに見せた。
「鬼道がさー! お前と話したいんだってーー!!」
何、どういう事? 周りがざわざわとざわつき始めている。春奈は不可解そうな、そしてマックスと半田はどこか悟ったような表情を花織へと向けている。花織は俯き、困り果てた。あの人とは会わないと、約束した、だから。
「え、キャプテ……」
「風丸も一緒にってさー!!」
そちらにはいかない、円堂にそう返事をしようとすれば花織の声に円堂の声が重なり、かき消された。風丸も一緒に? その言葉の意味の分からなさに困った花織が、風丸の方に視線を向ければ、風丸は複雑そうな表情を浮かべ鬼道を見つめていた。
「あの……、一郎太くん」
「……行くぞ、花織」
花織がそっと風丸の元へ歩み寄ると、風丸は花織の手を取って鬼道の元へと歩き始めた。チームメイトの視線が刺さるようにふたりに注がれる。階段を上り円堂の隣、鬼道の正面へとふたりは立った。しかし誰も、円堂さえも何も話さない。沈黙がただただ痛かった。困った様子で花織はちらりと風丸の表情を伺う。彼はとても険しい顔をしていた。そんな中、口を開いたのは鬼道だった。
「花織」
呼ばれた彼女の名に眉を顰めたのは風丸だった。何故鬼道は花織のことを名前で呼んでいるのだ。以前は月島、と名字で呼んでいたはずだが。風丸は鬼道が親し気に花織を呼ぶことが不愉快であった。風丸は黙り込んだまま鬼道を睨む。花織は細い眉を顰めて鬼道の言葉に応えた。
「なんですか……。鬼道さん」
「すまなかった。お前にスパイの黙認を強要させるようなことをしてしまって。……風丸もお前の恋人を利用して悪かった」
丁寧で静かな謝罪だった。しかし、風丸はお前の恋人、というフレーズにどこか棘を感じた。花織の手を握る手に力を込めれば、花織は風丸の方へ視線を向ける。そう、まだ花織は俺の傍にいる。風丸はほんの少し、鬼道に対して優越感を覚えた。
「ああ」
「決勝戦、いい試合にしよう。……俺は負ける気はない、何に置いても、な」
そういって鬼道はちらりと花織へと視線を送る。その眼差しはゴーグル越しでありながらもどこか愛おしげで柔らかさを感じた。宣戦布告か、風丸は唇を噛む。こんな負け戦、受けることさえ馬鹿らしい。ずっと前から花織の心はお前のものじゃないか。
「それだけだ、ではな」
そう言って鬼道は踵を返す。その背中に円堂が今度は一緒に練習しようぜー!! と声を掛けている。
「鬼道も気合入ってるなあ! 俺たちも頑張らないと、な風丸!!」
「ああ……」
風丸は今も鬼道の背中を見つめ、次に花織に視線を寄せた。
「そうだな」
どんなに小さなことにだって全力で取り組まなくてはならない。いつまで彼女にとって特別な存在として応援されるのかはわからないのだから。