FF編 第六章
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冬海の策略を告発した土門は、帝国を捨て雷門イレブンと和解した。しかし土門にはあと一つだけ、胸の中につかえているものがあった。花織のことだ。ずっと鬼道に彼女の行動の逐一を報告していたのだ。
彼女のプライバシーを侵害していることが罪悪感となっていた。確かに彼はスパイだったのだから、チームメイトのプライバシーもあったものではないが花織は女で、しかも繊細な恋心なんていうものを話題にしてしまっている。だから彼は彼女を呼び出した。謝罪を理由に多少の好奇心を持って。
「月島ちゃん」
「土門さん、どうしたんですか?お話って?」
片付けを終えたらしい花織がこちらへと駆けてきた。遠目に青髪が見えるため、きっと風丸を待たせているのだろう。話が終わったら恋人らしく一緒に帰路を共にするに違いない。あまり時間を掛けては悪いだろう。
「あのさ俺、月島ちゃんに謝らないといけないことがある」
早速土門は本題を切り出した。土門は彼の言葉に不思議そうな顔をしている花織を見つめた。その表情には以前のような警戒は見られない。彼が雷門中のサッカー部と和解したことによって、彼女は土門への警戒心を解いているようだった。
「月島ちゃんの情報、鬼道さんに流してたんだ」
「え……?」
鬼道の名前を出すと花織の顔色が変わった。彼女は目に見えて動揺しているようだ。自らの黒髪に触れ、それを耳にかけて驚きを隠そうとしている。無理もない、彼女は土門が帝国学園のスパイとして集めていたのはサッカーの情報だけだと思っていたのだから。
「どういうことですか? どうして、私の……」
「情報収集リストに月島ちゃんの名前があった。……総帥の命令じゃない」
その言葉は鬼道の命令だ、と示唆しているに違いないものだった。言われてみれば納得がいく。鬼道が花織の電話番号を知っているのも、秋葉名戸との試合で花織がメイド服を着たという話を知っているのもすべて土門が報告していたからに違いない。
「でも鬼道さんが、どうして」
「俺は、鬼道さんは月島ちゃんが好きなんだと思うぜ」
土門は思ったことを素直に述べる。花織は土門の言葉に顔を顰めた。
「私は……」
「月島ちゃんが鬼道さんに振られたんだってことは知ってる。でも好きでもないヤツの様子を毎日のように確認するわけがない。実の妹を差し置いて」
「……妹? 鬼道さんには妹がいるんですか?」
花織は怪訝そうに眉を顰める。鬼道に兄弟がいるという話は初耳だった。いやむしろ、鬼道からは鬼道家の一人息子だと聞かされていた。花織の表情を伺いながら、土門は静かに自分の知っている情報を述べていく。
「ああ……。音無、みたいなんだ。鬼道さんの妹ってのは」
「春奈ちゃん……!?」
想像もしなかった土門の答えに花織は思わず声を上げた。信じられない、二人に似ている部分があるようには思えないし、何より名字が違う。春奈も兄がいるなど、そんな素振りすら見せたこともない。だがこれほどまでに土門が深刻そうに話をするということは、きっとその話は事実なのだろう。花織は口元に手を当て、混乱する頭を整理させようとしている。そんな彼女に土門は語り掛けた。
「今も総帥に従う鬼道さんの肩を持つわけじゃない。でも鬼道さんを応援していたチームメイトとして、鬼道さんの感じていた想いは誤解してほしくない。……特に月島ちゃんも鬼道さんが好きだったなら」
花織は目を伏せる。興味ないと言ったのだ。お前なんかと嗤ったのだ。鬼道は間違いなくあの日、花織の気持ちを罵った。しかしこの頃は、再び帝国にいたときのように打ち解けた会話ができるようにはなってきている。それは鬼道の好意だというのか、花織は俯く。鬼道の真意は見えない。だがそれでも彼女の心は決まっている。
「土門さん、それでも私は」
静かに花織が呟く。
「鬼道さんが何と思っていようと、私には関係ありません。私には一郎太くんがいる。……鬼道さんに想いを寄せていた私に、それでもいいと言ってくれた彼が」
花織は顔をあげて土門へ微笑む。しかし土門はその表情から、まだどこかで花織が鬼道を気にかけているところがあるのだと感じ取った。それでも彼女は風丸の想いに真摯であろうとしている。そんな思いが、彼女の表情からは汲み取れた。
「だから私は一郎太くんの想いに答えたい」
「……そっか。まあ、月島ちゃんがそう言うならなー。事実風丸とはアツアツみたいだし」
今までのシリアスな空気が吹き飛ぶかのごとく茶化した口調で土門が言う。花織はほんのりと頬を染めて口元を覆った。
「ど、土門さん!」
「ははっ。……まあ、なんていうかさ、今まで悪かったな。これからは帝国とかは関係なしでよろしく、花織ちゃん」
「……うん、こちらこそよろしくね、土門くん」
どちらともなく握手を交わして改めて和解の意を示す。土門は彼女を名前で呼んだ。花織の口調からも敬語が消えていた。
「それじゃあ私、一郎太くんが待ってるから。また明日ね」
「おう!」
ひらひらと手を振る花織に手を振り返す。そして風丸の元へと駆け寄る花織の背中を見つめて土門は思った。きっとまだどこかで花織は鬼道を想っているのだ。それが今後、ふたりの仲を裂くようなことにならなければいいが。花織ほどではないが複雑な思いを持って、土門は彼らふたりを見つめていた。