FF編 第六章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
鬼道有人は土門から修練場の個人能力データを受け取るために、雷門中の体育倉庫裏へとやってきていた。ここならきっと誰にも見つからないはずだ。こんな場所で誰かに姿を見られると厄介なことになる。
「ふ……」
鬼道は小さくため息をつく。ここへ来ると無性に会いたくなる人間がいるから困った。本当は今すぐにでも顔を見に行きたいくらいだが、それはフットボールフロンティアを優勝、いや三連覇を果たすまでは叶わない。また深く思いを馳せようとする鬼道の耳に一つの足音が聞こえた。足音は鬼道の凭れかけている壁の角で止まった。どうやら待ち人がきたらしい。
「イナビカリ修練場のデータは?」
彼は低い声で問うた。相手は少しばかり沈黙し、何とも言わなかったが、鬼道の問いかけにきっぱりと答えた。
「まだ手に入ってません」
「……なら、何故呼び出した」
土門の不可解な行動に鬼道は眉間に皺を寄せる。鬼道は土門に目的のデータが手に入ったら連絡をしろと命じていた。鬼道も暇ではない、用もないのに呼び出されては困る。だが、土門は鬼道に用がないというわけではないようだった。彼の声はいつになく強気だった。そして土門は鬼道の想像もしない事実を彼に述べる。
「鬼道さん、本気なんですか?いくら何でもやりすぎですよ、移動用のバスに細工するなんて」
非難するような声で土門が言う。その衝撃的な言葉に鬼道は目を見開いた。
「何だって……!」
「やっぱり鬼道さんも知らなかったんですね」
鬼道の驚愕を隠しきれない声に土門は何となく安堵する。鬼道は冬海の行動を知っていて無視していたわけではないらしい。だが土門の安堵とは裏腹に、鬼道の心は穏やかではない。
確かに総帥は雷門を潰すことに執着していたが、まさかそんなことを考えているとは思わなかった。バスに細工などすれば、間違いなく大事故になるだろう。そんなことになればバスに乗るであろう雷門イレブン、大切な人はどうなるだろう。無事で済むわけがない。
「これが帝国のやり方なんですか!? 総帥はいったい何を考えているんです!」
「……っ」
「なんか俺、もう総帥についていけなくなりました! あの人のやり方は強引すぎる、そんなにしてまで勝ちたいんですか!?」
土門が声を荒げるが鬼道はただ低い声で返事をする。
「それ以上言うな、俺たちに総帥の批判は許されない」
「でも鬼道さんだって、月島に何かあったら嫌でしょう!?」
土門は咄嗟に花織の名を出す。もしかすると鬼道が総帥を説得し、冬海を制することができるのではないだろうかと思ったのだ。鬼道は突然飛び出した花織の名前に動揺した。だが平静を装って無表情に土門に言葉を返す。
「アイツは関係ない」
「でも好きなんでしょう? だから俺に月島のデータを集めさせた、違いますか?」
「……俺は必要な情報を」
鬼道と土門の二人は自分たちの話に夢中になっていた。だから彼らの傍にもう一人の足音が近づいてくることに気が付かなかった。
「お兄ちゃん!!」
突然響いた厳しい声に土門は建物の影に隠れ、慌てて鬼道は振り返った。鬼道の背後には声と同じく厳しい表情をした音無春奈が立っていた。
「雷門中の偵察にでも来たの?」
春奈は鬼道に凄んで見せたが、鬼道はそれを無視して歩き出す。そんな鬼道の腕を春奈は咄嗟に掴んだ。
「待って!」
「離せ……」
鬼道は春奈の手を振り払う。春奈は手を振り払われるとは思っていなかったのか、驚き、そして傷ついたような表情を浮かべる。鬼道は視線を落として春奈に言葉を吐き捨てた。
「俺とお前は会っちゃいけないんだ」
そのまま鬼道は歩き出す。残された春奈は寂しそうな表情を浮かべて鬼道の後姿を見つめていた。
「音無と鬼道さんが兄妹……!?」
驚愕の真実を耳にした土門は開いた口が塞がらなかった。あの二人は似ても似つかない。音無春奈と鬼道が兄妹であることなど、きっと鬼道の右腕である佐久間や源田ですら知らないだろう。
いや、それよりも……。鬼道は妹や想い人がどんな目に合うのか分かっていながらも、総帥のやり方に従うことを選んだのだ。頼ることはできない。それどころか共感することさえも。土門は強く決心する、この状況は自分で何とかするしかないのだと。