FF編 第五章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「花織……、あのさ」
人目のつかない秋葉の校舎内で風丸は立ち止まった。花織の正面に立ってはいるが彼は花織の顔を見ようとはせず、俯いている。
「その格好は……」
「マネージャーは、メイド服を着るんだって」
「そ、そうか……」
しどろもどろになりつつ風丸が返事をする。
「じゃ、なんで、あんな」
「……嫌、だった?」
申し訳なさげに花織が風丸を見つめる。嫌じゃないが……、と風丸が言葉を詰まらせると今度は花織が俯いて静かに話しだした。
「この間、一郎太くんがメイド喫茶に行ったから。そのときに春奈ちゃんに言われた冗談がどうしても気にかかって、不安で堪らなくなって……。だからメイド服を渡されたときに、その、メイドさんに対して変な対抗意識を感じちゃって」
言葉を詰まらせながら紡ぐ花織の言葉に風丸も彼女が何を言いたいのかを悟った。つまるところ、彼女はメイド喫茶のメイドに嫉妬していたのだ。
「あの……ごめんね、変なことして。こんなバカみたいな嫉妬……」
「花織……」
自分のしでかしたことへの恥ずかしさ、嫉妬という子供じみた対抗意識への情けなさ。風丸を不快な気持ちにしてしまったのではないかという、自分に対する嫌悪感が混ざり合って花織の目には涙が浮かぶ。しかし、名前を呼ばれて顔をあげてみれば優しく、だが力強く花織の身体は抱き寄せられた。
風丸はただ単純に嬉しかった。いや、嬉しくないわけがない。ずっと、今も自分が好きな女にいつも抱いている感情を、彼女は感じてくれているのだ。花織の恋心が確実に自分に対して向けられている。今この瞳に映っているのは、鬼道ではなく風丸なのだ。その事実がこの上なく幸せだと感じずにはいられない。
「お前がそんなふうに感じてくれてるなら、俺は、嬉しいぜ?」
「本当……?」
「ああ」
風丸が花織の髪に指を絡めながら囁く。風丸は花織の身体を解放すると、じっと彼女の表情を見つめた。やはり瞳は潤み、頬は桃色だったが先ほどには無かった照れくさそうな微笑みが風丸の瞳に映る。酷く胸が切なくなった。
「本当にそうなら、嬉しいな。……ね、一郎太くん。この格好、どうかな?」
「どうって言われても、その……」
可愛い、と思う。風丸の言葉は尻すぼみに小さくなって、最後はほとんど聞こえないくらいだった。しかしきちんと花織の耳に届いたその言葉に彼女は表情を綻ばせる。
「……一郎太くんがそう思ってくれてるなら、それだけで私は満足だよ。他の人にどう思われても一郎太くんがそう思ってくれるならそれだけで嬉しい」
「……っ。まったく、お前は……!」
再び風丸が花織を抱き寄せる。そんなことを言われたら花織を手放せなくなってしまう。時が来れば自分は身を引くと決めたのに。胸が苦しくて息ができなくなりそうだ。
そっと腕の拘束を緩めて花織の顔を見つめれば、彼女もその白い頬を桃色に染め、柔らかで愛らしい微笑みを湛えて風丸を見つめていた。風丸は苦しくなる胸の鼓動を押さえて微笑みを返す。きっと、鬼道だってこんな花織は見たことない。花織は、今この瞬間の花織は、俺だけのものだ。