FF編 第五章
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一通り、もちろん鬼道の名は伏せて、風丸と関係を結ぶことになった今までのことを花織は春奈に話した。話し終えた後、部室にはしんみりとした空気が漂っていた。
「はあー……。まるで物語みたいなお話ですね」
春奈が頬に手を当て、ため息をついた。風丸と花織はいつも仲睦まじく、他人の入り込む隙など与えない。だから風丸の他に、花織が恋い慕う人間がいるなどとは思いもしなかった。
「そう……? ただの女の話だよ。優しくて自分には勿体ないほどの人がいるにも関わらず、他の男にも想いを寄せる不誠実な女」
花織が自嘲するように笑った。嫉妬深く不誠実、何と劣悪な人間だろう。
「でも風丸くんは、それでもいいからっていうんでしょう? それに花織ちゃんはそんな風丸くんの想いに答えようとしてるんだし。私は、結ばれるべくして結ばれたふたりだと思うけどな」
秋が優しげな声で花織を擁護したが、花織は首を横に振った。
「私は、一郎太くんが高々メイド喫茶に行った程度でこんなにヤキモチ妬いてるのに……。それより酷いことを彼にしてるんだもの……。ちゃんと自分が一郎太くんだけを好きだって言えたらいいのに」
「本当にドラマみたいですね。それでも花織先輩はその帝国の人のこと、今でも好きなんですよね?」
春奈の疑問に花織は頷く。そしてどこか切なげな瞳で部室にあるサッカーボールを見つめる。
「うん……。ずっと変わらないままなの、どうしてだろうね」
❀
風丸が件の場所に行ってから花織はどうにも風丸に対してよそよそしい態度をとるようになった。春奈の言葉がどうしても気にかかるのだ。たとえ冗談だとは分かっていても、もしも本当にそんなことがあったらと思うと憂鬱な気分になってしまう。
河川敷でランニングをしている彼を、ぼんやりと見つめて花織はため息をついた。自分は彼に対してもっと酷い行為をしているというのに。それを自覚していながら花織はこの嫉妬という感情を抑えることができなかった。
「どうかしたのか?」
浮かない顔をしてベンチに掛けていた花織に、ランニングを終えた風丸が声を掛けた。普段なら絶対に彼と一緒に走るはずの花織が今日は一緒に練習しないといったのだ。心配にならないわけがない。
「ううん……、なんでもない」
「悩みでもあるんじゃないか?」
風丸が背を屈め、ベンチに掛ける花織へ視線を合わせると優しい声で問う。花織は俯いた。彼に心配をかける自分がどうにも情けなくなる。
「……大丈夫だよ。こんなんじゃダメだよね、準決勝の相手を聞いて気が抜けてるのかな。慢心はいけないってわかってるのに。……やっぱり、私も一緒に練習するよ」
話を切り替えて花織が立ち上がる。どうしようもないのだし、こういうときは走って気を紛らわせるのがいいだろう。だがそれでもどこか思いつめるような表情をしている花織に、風丸は困ったような笑みを浮かべる。
「何か嫌な事でもあったのか? 今日はずっと機嫌が悪いみたいだな」
見透かすような風丸の言葉に花織の胸がどくんと大きく跳ねる。事実だからこそ何も言えない。
「そう……、かな?」
「ああ……。花織、俺にできることなら何でも言ってくれ。お前がそんな顔してたんじゃ俺、心配だよ」
「一郎太くん……」
微笑んだ風丸の瞳が、言葉が何よりも優しい。
「ごめんね、一郎太くん。……ありがとう」
酷く胸が切なくなった。