FF編 第五章
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秋と花織は不機嫌を露わにした表情で部室の掃除をしていた。普段二人とも我慢強い方で、どんなことがあってもこのように部活中にむくれていることなど無いというのに。そして、そんな二人の様子を春奈が面白そうに見つめている。
「木野先輩も花織先輩も暗いですよー、ほら笑ってください!」
「だって……」
花織が箒を片手に口を尖らせた。その後に落ち込むようにはあ、とため息をつく。秋と花織の機嫌がよくない理由は三十分前、練習もせずに飛び出していった選手たちにあった。
本日、準決勝の相手が決まったのだが相手はフットボールフロンティア最弱の呼び声も高い秋葉名戸だった。以前雷門中学が練習試合を行い、辛くも勝利した尾刈斗中は彼らに敗北したのだという。そしてどんなチームかと思いきや、実態はメイド喫茶に入り浸るオタク集団、なのだそうだ。
そして、メイド喫茶に何か秘密がある!という目金の、根拠はないが自信ありげな発言にに、何故か豪炎寺を除く全員がメイド喫茶へと向かっていったのである。
花織も秋も自分の想い人がそんなところへ向かったことが気にいらなかった。百歩譲って単純な円堂が目金について行ってしまうのは納得しようがある。しかしながら思慮深い風丸が一緒について行ってしまうというのはどうなのだろう。抜けることはできなかったのだろうか。現に豪炎寺はくだらない、と一人御影専農戦で負った怪我を治療するためさっさと病院へ向かってしまったのだから。
「あーあ、キャプテンたち今頃どうしてるんでしょうね。メイドさんにご主人様、なんて呼ばれたり」
「ご主人様!?」
秋が大声を上げて顔を赤らめる。春奈は反応を見るように話を続けた。
「風丸先輩も優しいですからねー……。メイドさんにあーん、なんてされちゃったら断れないんじゃないですか?」
「……!」
花織の動きが石にでもなってしまったかのように固まる。手から箒が滑り落ち、からからと高い音を立てた。もし、もしそんなことがあったら……? 彼がそんな風にメイドに対して顔を赤らめている様子が、想像ではあるが思い浮かぶ。刹那、締め付けられるような苦しい痛みと焼け付くような嫉妬で胸が溢れそうになった。そんなの……、そんなの嫌だ。
「花織先輩……冗談ですって! そんなに本気でショック受けなくても、風丸先輩は花織先輩一筋じゃないですか!」
明るく笑いながら春奈が花織の落とした箒を拾い上げ、花織の手に握らせる。花織は未だ呆然としたまま、春奈から箒を受け取った。そうだ、彼はきっとそんなことはしない。自分とは違う、そう花織は自らの心に言い聞かせる。
「にしても、風丸先輩と花織先輩って本当に仲良しですよねー。喧嘩もないみたいですし、結構人目につかないところでイチャイチャしてますもん。あ、この間おふたりが河川敷で練習してる所も見ました!」
「うん……。一郎太くんとは長い時間、一緒に居させてもらってるの」
先ほどの春奈の言葉がどこか引っかかるようで花織は歯切れの悪い返事をする。それでもふたりの仲の良さを羨む春奈の言葉には切なげに微笑みを見せた。
「……一郎太くんの想いに早く答えられるようになりたいから」
「え? それってどういう意味ですか?」
花織の呟きに春奈は不思議そうな顔をする。花織は秋と顔を見合わせると秋も何とも言えない表情で笑った。そんな二人を見つめて春奈はさらに不可解そうな表情を浮かべる。
「えー! 教えてくださいよ、木野先輩だけ知ってるなんてズルいです! 私、おふたりのなれ初めなんかにも興味あるんですから」
じれったくてならないと言いたげな春奈が花織の手を握る。花織は少し悩んでいたが、小さな声で春奈に問いかけた。
「じゃあ……聞いてくれる? 決して惚気話としてじゃなくて、相談として」