FF編 第四章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
試合終了後、花織は鬼道に呼び出された場所へと一人足を運んでいた。あの後、厳しい試合展開が続いていたが、円堂が『ゴールキーパーが自らドリブルをし、シュートへ持ち込む』という前代未聞の行動を行ったことにより、御影専農の中のデータサッカー、守りに逃げるサッカーは崩壊した。そして互いが全力でぶつかりあうサッカーの末、二対一で雷門が二回戦を制した。
いい試合だったと、花織は思う。花織はサッカーを始めて間もなく知識もそこまでないが、今日の試合は本当の実力同士がぶつかりあった熱く、サッカーの楽しさの滲み出た試合であったと感じた。そしてそんな試合を制した晴れやかな勝利の中を抜け出し、彼女はここへやってきたのだ。きょろきょろと彼女は辺りを見回す。彼の姿をただ探した。
「月島」
優しい声で名を呼ばれた。帝国にいたとき、声を掛けてくれていた、あの頃と全く同じ声色で。花織はきゅっと制服の胸のあたりを抑えて振り返る。彼女の目の前にはドレッドヘアにゴーグルの、特徴的な少年の姿がある。
「鬼道さん、私……」
私服姿で花織を見つめる鬼道へと花織は言葉を掛けた。花織は鬼道に聞きたいことがたくさんあった。どうして電話番号を知っているのだ、何故こんなところへ呼び出したのか、そして、先日出会ったときの口付けの意味も。花織が言葉を続けられずに黙り込んでいると、鬼道は不敵な笑みを浮かべ花織の傍へと歩み寄った。
「準決勝進出おめでとう、と言いたいところだが……。それよりお前は俺に聞きたいことがあるようだな、月島」
鬼道は花織の顔へと手を伸ばし、くっと顎を持ち上げる。そして息の掛かりそうなほどに顔を近づけた。またもや彼の予期せぬ行動に花織はパニックになり、頬が熱く火照るのを感じた。
「例えば……、先日の口付けの意味だとか」
そっと鬼道が花織の顎を掴むその手の親指で、花織の桜色の唇の輪郭をなぞる。花織は彼の指が唇を這うこそばゆさに身を揺らした。だが鬼道は口元に艶のある笑みを浮かべ、そのまま言葉を続けた。
「何故、俺がお前の携帯番号を知っているのか。……そういうことだろう?」
ゴーグルの奥から花織の瞳を覗くように見つめる鬼道の赤い瞳が花織を射抜いた。花織の目はとろんと潤み、思考も彼の囁きで停止しつつあった。知りたい……。花織は早くなる胸の鼓動を抑え、息を吐く。鬼道の行動の意味、自分を嫌っているはずの彼の想いを私は知りたがっている。
そっと唇が寄せられる。あとほんの数センチ、そこで花織は我に返った。私は何をしているのだろう、また一郎太くんを傷つける気なのか。
その思いが胸の中で膨れ上がると、花織は自らの顎を掴む鬼道の手を振り払って彼から距離を取ろうとした。しかし、振り払ったその手を鬼道が掴む。花織が驚いて鬼道を見つめると彼は酷く痛烈な表情を浮かべていた。まさか花織に拒絶されるとは思っていなかったのだろうか。
「花織……!」
切なくなるような声で鬼道の口から彼女の名が零れる。花織の目が驚きに見開かれた。何故、名前を……、花織が問いかけようと口を開こうとしたが、その時花織の右腕に痛みが走った。
「……っ!」
花織の表情が痛みに引き攣る。先日修練場で打撲をしたところに彼の手が触れたために痛みが走ったのだ。そして鬼道は花織の微かな表情の変化を見逃さなかった。
「月島、腕を見せてみろ」
眉を顰め、鬼道がそのまま有無を言わさず花織のジャージの袖口を捲り上げる。日の元に晒された花織の白い腕は痛々しい青あざといくつかの擦り傷があった。鬼道がはっと息を呑む。
「お前……」
驚きと動揺が入り乱れたような表情で鬼道は花織の表情を見つめる。花織の方もどうして鬼道がこれほど動揺しているのかが分からず、まるで自分が悪いことでもしたかのようにばつの悪そうな顔をして俯く。
「別に、何でもありませんから……。ただ練習でできただけで……」
「大方、イナビカリ修練場で円堂たちと同じ練習をしたんだろう。お前は試合に出るわけじゃないんだ、ここまでボロボロになるまで練習をすることはない。」
多少怒りを孕んだような声で鬼道が花織の思いもよらない言葉を口にした。
「大体、お前はアイツらに比べて繊細で弱い。練習に参加するのなら、もっと自分にあった身体に無理のないものにしておけ」
低く囁かれた鬼道の言葉に、花織は若干の困惑と胸の高鳴りを感じずにはいられなかった。私には興味が無いのではなかったのだろうか。それなのにどうして花織の身を案じるようなことばかりいうのだろう。もし、もしも花織の身を案じることに意味があるとすれば、そんなことがあるのならば。しかし、花織は鬼道の言葉を受け入れず、小さく首を振る。
「……鬼道さんが何を言おうと、私は私のやりたいようにやるだけです」
実際は既に風丸に修練場での練習は禁止され、あれ一度以来あの場所での練習に参加させてもらえないのだが、花織はただ鬼道の行動に納得がゆかず反抗の意を見せた。興味が無いのなら、鬼道には花織が何をしようと関係ないはずだ。とやかく言われる筋合いはない、彼は花織にとってなんでもないのだから。
「聞き分けが悪いな」
不機嫌そうに鬼道は左手で花織の腕を拘束したまま、再びしかし先ほどより荒々しく右手で花織の顎を掴み、自分の傍まで花織の身体を引き寄せる。再度、息の掛かりそうなほど顔が近づけられた。
「お前は頭は良かったはずだが……。それとも、身体に教えなければ理解できないのか?」
「……っ」
花織は鬼道の腕から逃れようと左手で鬼道の右手を掴んだが、やはり力の差か彼の腕は全く動かない。先ほどとは違い、花織に冷たい言葉を投げかけたときのように、感情が読み取れない鬼道に花織は恐怖を覚える。……しかし、どこかで期待をしているような気もしていた。そして半ば無理やり鬼道が花織に口づけを施そうとした時だった。