FF編 第四章
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いよいよ、御影専農中学との地区予選第二回戦の日がやってきた。御影専農中学のグラウンドには、各所にアンテナが設置されており、どこか奇妙なサッカーグラウンドではあったが円堂の言うとおり、サッカーにアンテナがあろうが無かろうが関係ない。先日受けた借りも勝利に変えて返すだけだ。
気合十分に選手たちが試合に臨む。だが試合を開始してみると、まるで精密な機械を相手にしているかのように雷門は裏をかかれてばかりだった。お世辞にも雷門が優勢だとは言えない。しかしその時、風丸が御影の八番からスライディングでボールを奪った。花織の表情が嬉しそうに綻ぶ。
「風丸先輩ってあんなに足が速かったですっけ?」
春奈がビデオを片手に花織に問いかける。春奈の言葉に花織は既に宍戸にパスを送った風丸に一度視線を寄せ、首を横に振った。花織も薄々気が付いていた。普段彼の走りを一心に見ているからこそよくわかる。明らかに彼のスピードが増していた。
「ううん。……一郎太くん、前より速くなってる」
きっとイナビカリ修練場での特訓に成果があったのだ。今度は豪炎寺へとパスを送る風丸へと視線を向ける。胸の高鳴りが止まらない、やはりフィールドを駆ける彼は素敵だ。あの日見たいと思った光景が眼前で展開される喜びを、花織は表情に表さずにはいられなかった。
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しかし、試合は悪い方向へと展開した。一点を先取され、それ以降御影専農は前半終了まで攻めることをやめ、守りに逃げるサッカーへと作戦を変えたのだ。ハーフタイム中、選手たちが憤慨しながら控え室に戻っている間もマネージャー、目金、影野、冬海監督はベンチに残っていた。春奈がカメラを膝に置き、不安げな面持ちで呟く。
「どうしよう……。先取点取られちゃいましたよ」
「キツイわね、こっちの必殺技はみんな止められちゃうんだもの」
春奈の言葉に同調するように秋も俯く。何とも暗い雰囲気だった。しかし夏未がどこか自信ありげに壁に身体を凭れ、言葉を紡ぐ。
「大丈夫よ。彼らはイナビカリ修練場での特訓で一回り大きくなったのだから」
「でも、あそこはサッカーの練習は」
できなかった、と花織が返答をしようとして言葉を止めた。スカートの中に入っている携帯が震えたのだ。普段、花織は誰かから連絡が入り、邪魔をされるということが嫌で試合時はマナーモードにしている。一瞬出るのを躊躇ったが、ハーフタイムということもあり携帯を手に取る。
「ちょっとごめんなさい」
ベンチから立ち上がり、みんなから離れて携帯を開く。見覚えのない番号だった、しかし非通知ではない。転校してから急に携帯番号やメールアドレスの登録件数が増えたために登録漏れがあったのだろうか。疑問に思いながら花織は携帯を耳に当てる。とりあえずこの場は電話に出て、相手を確認すればよい。
「もしもし……?」
髪を耳に掛けながら、花織が電話口に問いかける。花織の耳に飛び込んできたのは予想外の人間の声だった。
「久しぶりだな、月島」
「!? ……鬼道さん、ですか?」
衝撃に思わず言葉を失くす。しかしすぐに何とか言葉を紡ぎだした。何故、鬼道が自分の電話番号を知っているのだろう。花織の携帯を持つ手に力がこもった。
「私の番号、どうして……」
「フッ、驚いているようだな。それより月島、この試合が終わったらこの会場の……。そうだな、ちょうどお前のいる真正面の応援席入口へ来い」
「何故、ですか……。私に用なんて」
花織が疑問を感じながら、そして鬼道と話している緊張と胸の高鳴りから途切れ途切れになりながら返事をすれば、電話越しに鬼道が笑ったのが分かった。
「何故? お前に会いたいから、では不足か?」
「え……?」
鬼道がさらりと発した言葉は不覚にも花織の胸に甘く響く。痺れるような感覚が走る。花織は唇を噛んだ。そんなことを言われてしまうと、断れなくなってしまう。理屈ではきっと良いように利用されるだけだと分かっているのに。
「わかりました……」
迷いながらも了解の意を示した。……大丈夫だ、こちらが不利になるような問いには口を噤んでしまえばいい。それにこちらから聞きたいことはたくさんあるのだ。鬼道と会うことはきっと間違いでないはずだ。
この時花織は、自分が鬼道に会いたいがために無茶苦茶な理由付けをしているということを自覚していなかった。スピーカー越しに鬼道の笑う声が聞こえる。
「良い判断だ。……待ってるぞ」
電話が切られると花織はポケットへと携帯を仕舞い、マネージャーらの元へと戻った。しかし、花織の心の中は先ほどただ純粋に雷門イレブンを、風丸を応援していた時とは違い、言葉では言い表せないほど複雑な思いが花織の中を渦巻いていた。