FF編 第三章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
三人の練習は豪炎寺がようやく着地を決められるようになったところで終了した。その頃にはもう、日が落ちる時間も遅くなってきているというのに辺りは真っ暗で鉄塔広場の灯りが煌々と彼らを照らしていた。
「こんなに腫れちゃってる……、痛くない?」
ようやく花織は豪炎寺と染岡の怪我の処置を終え、一人離れたベンチに座っている風丸の隣に腰掛ける。そして彼の腕の怪我の手当てを始めた。さきほど氷だけは渡しておいたが、それでもやはり落ち着かない。彼の手から氷を受け取り、膝の上に置くと花織は風丸の腕をそっと撫でる。
「ちゃんと傷口は洗ってる?」
「……ああ」
どこか素っ気ない返事をした風丸にそっか、と花織は笑う。きっとこの程度なら厳重に包帯で覆ったり、消毒をしておく必要はないだろう。花織は再び風丸の腕に氷を押し当てる。とにかく今は、しばらくは冷やしておかなければならないだろう。
「腫れが引くまではくれぐれも安静にね。……それじゃあ他の人たちもちょっと」
「……花織」
風丸の傍から離れようとした花織の腕を風丸は掴んだ。その表情はどこか沈んでいるふうで花織は首を傾げる。
「どうしたの……?」
「いや、あのさ……」
どこか歯切れの悪い風丸の言葉で花織の表情は曇る。しかし彼が言葉を切り出すのをただ彼を見つめて花織は待った。
「豪炎寺にさっき何を言われたんだ?」
伏し目がちに風丸は呟き、花織の腕を掴む手に力を込める。いくら考えても納得がいかなかった。どうして豪炎寺が……、百歩譲って帝国の鬼道が囁いて彼女が折れたというのなら、まだ納得がいっただろう。自分の言葉よりも豪炎寺の言葉を花織が聞きいれたことがどうしても風丸は気にいらなかった。今、彼女の恋人は俺のはずだ。それなのにどうして。
「え……、ああ。うん、……あのね」
風丸の言葉に花織はほんのりと頬を染める。またそれが風丸の心をざわつかせた。豪炎寺の言葉に自分の恋人が嬉しそうにしているのだと思うと、我がチームのエースストライカーだとしても、腹立たしいと感じずにはいられない。
「一郎太くんの気持ちくらい、汲んでやれって」
「……は?」
思わず声を漏らして、風丸は虚をつかれたような顔をする。豪炎寺の囁きにどうして自分の名前が出てくるのだろう。
「私が言うのも恥ずかしいけど……。豪炎寺くんがね、お前の恋人はお前が傷つくのを見たくないんだって……」
そう言葉を紡ぎだすと花織は顔を真っ赤にして俯いてしまった。人の想いを自分で口にするのは恥ずかしいことだったのだろう。今や恥ずかしさで体も頬も熱い。風丸はというと花織の表情にきょとんと今まで不機嫌そうに歪めていた表情を緩める。言葉の意味が分かるや否や見る見るうちに風丸の頬も赤く染まった。
豪炎寺が彼女に囁いた言葉は風丸が花織に言いたかったことそのものなのだ。彼女細く白い腕が傷つくのが嫌だった。練習だとはいえ他の男に触れられるのが嫌だった。豪炎寺はそれを代弁したのだろうか。
「花織、俺……」
「私、もし一郎太くんがそう思ってくれてるなら……って、思うと嬉しくて。だって私も同じ気持ちだったんだもの」
花織は照れたように風丸に微笑みかけた。花織が練習に割って入った理由の中でも一番の理由は、これ以上風丸の腕が傷つくところを見たくなかったからだ。もちろん、染岡にも豪炎寺にも怪我をしてほしくないという気持ちはあった。だがそれよりも、何よりも風丸の身を案じての言葉だった。
「あ……」
風丸が花織の腕を引く。花織の身体は強く風丸に引き寄せられ、風丸の身体に身を寄せる形になった。ふたりの鼓動はまるでシンクロしているかのように早くなってゆく。こつんと互いに額を寄せ合うと風丸は小さな声で花織に囁いた。
「豪炎寺の言うとおりだ。……俺は花織が怪我をするのが嫌だ。だからこれからも無茶だけはしないでくれ。……じゃないと俺の身が持たないよ」
「うん。……本当はもっとみんなの助けになりたいけどほどほどにする」
胸に温かいものが湧き出てくる。仲間たちとの勝利では満たされない部分にそれは深く染み渡っていった。風丸は思う、こんな風に温かい時間が続けばどれほど幸せだろうと、ずっとこのまま自分が彼女の傍にいられたならば。
「おーい! 風丸ー! 月島ー!」
円堂の声がふたりの耳に届く。風丸と花織は互いに微笑みを見せ合うと、ゆっくりと立ち上がった。そして仲間たちの待つ広場へと足を速める。近いうちにこの小さな幸せすら不安に変わる時が来るとも知らずに。