FF編 第三章
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今日はチームを二つに分け、河川敷と鉄塔広場で雷門サッカー部は練習することになった。円堂が先日仕入れてきた情報により、理事長室から円堂の祖父、大介の秘伝書を発見したのだ。
雷門イレブンはその秘伝書の中の技『イナズマ落とし』を習得すべく、豪炎寺・壁山のサポートをすることになっていた。円堂・壁山は秋。豪炎寺・風丸・染岡は花織。その他は河川敷にて春奈がマネジメントを行っているのだが……、花織は眉を顰める。この練習は見ているのも辛い。
豪炎寺が行っているのは風丸、染岡の腕を踏み台にして高い位置からオーバーヘッドキックの練習をするというものなのだが踏み台役二人にとっても、豪炎寺にとっても負担の大きい練習だ。他に方法がないとしてももう少し負担を軽くできる方法がないのかと花織は思う。
「三人とも……、少し休憩したら? あまり根を詰めるとよくないよ」
「月島、悪いが休んでいる暇はない。……時間が無いんだ」
豪炎寺がゆっくりと腰を抑えながら立ち上がる。彼はこの練習を始めてからずっと三メートル近い高さからオーバーヘッドキックをし、着地を上手く決められないでいた。彼の身体は何度も何度も地面へと叩きつけられ、どんどんそのダメージが蓄積されていっているのだ。
「でも、もう一時間半も休憩なしで……」
「花織、豪炎寺がやるっていうんだ。……それに俺たち、初戦で負けるわけにはいかないだろ」
諭す様に風丸が花織の肩を叩いた。その腕は赤く腫れあがっている。それはそうだ、サッカーシューズにはポイントが付いている。スパイクのポイントが針ではないとはいえ、彼らの腕が踏み台になるたびに豪炎寺の体重分、ポイントが彼らの腕に食い込み、そのうえ豪炎寺の蹴り上げる力によって皮膚も何度も傷つけられている。早く消毒をし、冷やした方がいいのは明白であった。
「でも、一郎太くんも染岡くんも腕がもう真っ赤だよ」
「これくらいどうってことねえよ、早く練習再開しようぜ」
染岡がさっと自分の腕に付いた砂を払い、その赤い腕を構える。染岡に続いて風丸も腕を構えようとした。しかし花織は風丸の腕をそっと止め、真面目な表情で三人の顔を見つめる。意を決した様な花織の瞳が三人を見据えた。
「だったら……、せめて踏み台は私もやる! 見てるだけなんて嫌。お願い、手伝わせてほしい」
花織の言葉に驚いて、風丸らは三人とも顔を見合わせた。その中でやはり風丸がいち早く花織の申し出に首を振る。
「ダメだ、お前にこんなことさせられない」
「どうして? 私だってチームの役に立ちたい。……一郎太くんと染岡くんの腕はもう限界だもの、これくらいなら私にもできる」
花織がジャージの袖口を捲り上げる。そして白く風丸よりも染岡よりも細い腕を差し出した。とてもじゃないが、その腕は豪炎寺の踏み台にするには無理があった。
「おい、風丸……」
困ったように染岡が風丸を見た。花織と風丸の関係は既に周知の事実である。花織のことをどうにか説得してくれと言わんばかりの視線を染岡は風丸に送っていた。風丸は微かに頷き、花織の腕に触れる。
「花織、頼む。……お前は女子なんだ、無茶なことはさせられない」
言葉の通り、風丸は花織に無茶な行動をさせたくなかった。彼女の腕がもし自分と同じように腫れあがるような事態に陥ればきっと耐えられない。だが彼女は頑なだった、凛とした瞳をして彼らを見つめる。
「だったら私はマネージャーという立場上、これ以上一郎太くんや染岡くんの腕を傷つけるようなことはさせられない」
花織は決意を揺るがそうとはせず、風丸の言葉を振り切ってずいと前へ進もうとした。
「風丸、きっと月島はそれじゃ引かないと思うぞ」
花織を説得する風丸にぼそりと豪炎寺が呟く。確かに豪炎寺の言うとおり、元々陸上部所属であり、帝国学園の出身でもある花織にとって男子と同じ練習をこなすことは一般の女子と比べればそれほど難しいことではないのだ。方向が違うとはいえ、帝国学園所属時は自分で練習メニューを考え、多少無茶な練習もこなしていた彼女だ。この程度の説得で納得はしないだろう。
「月島」
「豪炎寺くん?」
豪炎寺は風丸に腕を掴まれたままの花織の後ろに回り込み、そして彼女の耳元に顔を近づけた。風丸が思わず目を剥く。豪炎寺がそっと花織へ何かを囁きかけるとすぐに花織の傍から離れた。残された花織は俯き、そしてほんのりと赤く頬を染めている。彼女は黙って彼らから視線を逸らした。どうやら、練習に加わることを諦めたように風丸には見えた。
「染岡、風丸、続けるぞ」
「あ、ああ……」
わけのわからないままに染岡は頷く、風丸は花織と豪炎寺を交互に見比べ少し眉を顰めると、ああと呟いて花織の腕から手を離した。自分がどれほど説得しても聞かなかったというのに、どうして花織は豪炎寺のいう事ならそうすぐさま聞いたのか。考えれば考えるほど複雑でどこか不愉快な感覚を風丸は覚えた。