FF編 第三章
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「あれ、みんなはどこ?」
練習に入ろうと花織がボールの入った籠を押して辺りを見回す。どうしてか選手の姿が全くと言っていいほど見当たらない。花織は首を傾げる。その疑問に答えるように秋は微笑んだ。
「皆、理事長室だって」
「どうして?」
理事長室などますます不可解だ、よくわからない。花織は不思議そうに秋を見つめた。秋は変わらずドリンクの準備をしながら花織に返事をした。
「円堂くんのお祖父さんの秘伝書があるんだって。だからみんなで潜入中」
秋はくすりと笑みを零す。約十人もの中学生男子が身を隠すでもなく、ただこそこそと理事長室へ向かっているのを先ほど目にした。あまりにも子供っぽい所作だったために何度思い出しても笑いが込み上げてくる。そしてその様子を秋の表情から連想したのか、花織も思わず口元を抑えた。
「へえ……。でも、潜入なのに大勢で行っちゃうんだ。……ふふ」
もしかして、風丸も同じように潜入とやらをしているのだろうか。花織はいつも落ち着いたふうな恋人の姿を思い浮かべる。あの彼がそんな子供じみたことをしているのだと思うと無性に愛おしさが込み上げた。
「あ、花織ちゃん。風丸くんのこと考えてるでしょ」
「え、何で……?」
「わかるよ。風丸くんのことを考えてる時の花織ちゃん、なんだか幸せそうだもん」
花織は思わず頬を抑える。秋の指摘に頬が火照った。秋の言うとおりだ、風丸のことを考えていると不思議と口元に笑みが浮かぶ。彼の喜ぶ顔が見られたら、彼の優しい微笑みが見られるなら、ここのところ常にそう思っている。風丸のことを考えていれば鬼道への想いが若干ではあるが薄れつつあった。
「あれ? 土門くん?」
そのとき不意に秋が花織の後ろを見て呟いた。花織が振り返ると土門がランニングをしながら校門を出て行くところだった。どうしたのだろうか、みんな理事長室にいたのでは? と花織は首を傾げる。なんにせよ、もうすぐ練習が始まるというのに。
❀
土門飛鳥はチームの輪を抜け出して、ランニングをしていた。これも上から命ぜられていることだ。ランニングをしつつ辺りを見回しながら目的のものを探す。学校の塀周りを一周する頃、土門はやっとそれを見つけた。
「よーし、ちょっと休憩」
誰に言うでもなく彼は呟けば、傍にあった電柱に凭れかかる。そして頸に掛けたタオルで汗を拭いた。やはり夏日、少し走っただけでも汗が噴き出てくる。しかし、そのタオルは汗を拭くだけの物ではなかった。
「……円堂大介の秘伝書があります。しかし、円堂守以外の誰にも読めないので手に入れる価値はないでしょう」
タオルで口元を隠しながら土門がぼそぼそと低い声で呟いた。
「それと、月島花織のことですが……。どうやらディフェンダーの風丸一郎太と恋人同士のようです。詳しいことはまた」
そう言いつつ電柱近くの壁に1枚の紙切れを土門は置いた。そして再びわざとらしく休憩終わり、と呟くと再び彼は走り出した。そしてそれと同時に土門が今まで報告をしていた相手がにやりとした笑みを浮かべて電柱の影から顔を覗かせる。
その人物は何を隠そう帝国学園の鬼道有人であった。キャプテンである彼が自らここに土門の調査報告を受けにくるよう総帥から命ぜられているのである。鬼道は土門の置いた紙を手に取った。番号の羅列されたその紙を見つめて、彼はふっと口元に笑みを浮かべた。