FFI編 第十三章
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ついに決勝戦前日まで迫った。午後の練習が終わって着替えを済ませた風丸は夕食まで自由な時間を過ごしていた。彼の恋人の花織はきっと今、夕食の準備を忙しくていることだろう。そんな彼女の姿を思うだけで口元がふっと緩んだ。
FFIもあと一試合ですべてが終わる。イナズマジャパンが世界一になるまであと一歩のところまできた。このチームで、そして彼女のために世界を獲りたいと思う。そのために今日も練習を積んだ。明日には全てが決まる。
風丸はふと窓の外に視線を向ける。イナズマジャパンの宿舎の前、ブロック塀のところに見覚えのある姿が見えた。スカイブルーの髪、緑色のバンダナ。風丸はその姿にぴくりと眉を動かして外を覗き込む。そして彼は踵を返し、青い髪を揺らして部屋を後にした。
宿舎から出て先ほど見た少年が立っていた場所へ風丸は向かう。外は夕焼けが沈みかけていて、赤く辺りを照らしている。少年は今なおそこに立っていた。ブロック塀に背を持たれかけてズボンのポケットに手を突っ込んでいる。
ざっ、と風丸の靴が土を蹴る音が微かに響いた。少年はその気配で風丸の方に目をやった。壁にもたれていた背を持ち上げて風丸の方を向き直る。グレーとスカイブルーの混じる瞳が風丸を見据えた。ウィンディ・ファスタだ。
「……お前か」
「ウィンディ。花織に何か用か?」
素直に呼び出す気はないが、という敵愾心をむき出しにして風丸がウィンディに尋ねる。ウィンディは肩を竦めて首を振った。にやり、と口の端を持ち上げて胸の前に腕を組む。
「今日はお前に用があってきた」
「俺に?」
風丸が訝しげにウィンディを見つめた。ウィンディはああ、と頷いて目を伏せる。そして静かに腕を上げ、風丸を指さしゆっくりと目を見開いた。その瞳は先ほどにはない、闘志を孕みギラりと光る。
「カゼマル、俺と勝負しろ」
「勝負……?」
「ああ。明日の決勝戦、イナズマジャパンが勝ったら俺はカオリを諦める。だが俺たちコトアールが勝ったらお前はカオリと別れろ」
はっ、と風丸は予想だにしなかったウィンディの言葉に目をむいた。だがウィンディの瞳は真剣だった。冗談は決して言っていない目だ。それでも風丸はウィンディが切り出した訳の分からない勝負に顔を顰め、言葉を返す。
「何を言ってるんだ、そんな訳が分からない勝負をするわけが」
「お前じゃ、カオリを幸せにできない」
風丸の言葉を遮ってウィンディが強く言った。風丸は言葉を詰まらせる。花織を幸せにできない、その言葉が強く風丸の胸に突き刺さった。そんなことはない、と風丸が反論する前にウィンディは言葉を続ける。
「俺は明日、優勝を手土産にカオリにプロポーズする」
プロポーズ、その言葉には中学生にはとんでもない重みがあった。風丸は驚いて息を飲む。だがウィンディは全く動じる様子もなく再び腕を組んだ。ウィンディは本気だ、風丸はウィンディを睨む。少なくともこいつは花織に対して並々ならぬ感情を抱いている。
「花織の気持ちは考えているのか?お前の独りよがりに、花織を付き合わせるわけにはいかない」
「コトアール共和国は十六で成人だ。だからそれまでの時間をカオリとカオリの両親の説得に当てるつもりだ」
ウィンディが曇りもなく風丸を見据える。花織を愛しているのだという自信が彼の言葉にはあった。そしてウィンディは乱暴な言葉を風丸に突き付ける。
「その説得にお前は邪魔だ」
ウィンディは、出会った時から月島花織を運命の人だと信じていた。一目見たときから彼女に惹かれ、そして共に走るたびに喜びと自分の運命はこの少女と共に在るものだと理解した。花織も徐々に心を開いてきてくれている。
邪魔なのは風丸の存在だけだった。いつも風丸が疎ましかった。自分によく似た、日本代表の選手。彼のプレーをウィンディは目にして、その自分の持ち味とよく似た特徴に目を見張った。そして競争心を煽られた。
「お前、足には自信あるほうだろ。この間、ガルシルドのチームとの試合見たぜ。お前は速かった、でも俺には劣る」
「……」
「だから明日、はっきりさせてやる。俺とお前、どっちが速いのか。誰がカオリに相応しいのかを」
ウィンディは風丸を煽り立てる言葉を使って風丸の心を徐々に勝負へと引き出していく。お互いに速さには自信があった、見目も似ていた。面と向かって衝突するのは時間の問題だったのかもしれない。
風丸は目を伏せる。夕日が落ちて、全てが暗闇に包まれ始めた。強く握ったこぶしをまた更に強く握りしめる。男として、花織の恋人としてできることを考えた。
「分かった、その勝負受けて立つ」
熱意のこもった瞳で風丸はそう宣言した。ウィンディはニィ、と口の端を上げて笑った。だが、とすぐに風丸は言葉を続けた。さらりと彼の結われた髪が揺れる。握ったこぶしを左胸に当て真っすぐにウィンディを見据える。
「勝つのは俺たち、イナズマジャパンだ。だから、花織は決して渡さない」
その瞳には揺るぎない信念があった。