FFI編 第十三章
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もう少し、自分の心に整理をつけなければならない。朝、ひとりでいつもの道を駆けながら花織はそんなことを考えていた。冬花の事、彼を取り巻く女の子のファンの事……、考えていればキリがない。どこかで決着を付けなければならないとは思っている。
自分に自信がないのがいけないのかもしれない。そう思って誰よりもとマネージャーとして活動し、無理をした。その繰り返しだけは避けなければいけない。
ならば一体、花織にどうすればいいというのだろう。
「カオリ」
名前を呼ばれて彼女は地面ばかりに向けていた視線を上にあげる。がむしゃらに動かし続けた足をゆっくりと止めた。いつも通りの場所で目の前に立っているのは、彼によく似た少年。
「おはよう、カオリ」
「……おはよう、ウィンディ」
微笑み、彼に挨拶をして花織は気が付いた。いつものウィンディとはどこか違った。真剣な瞳で花織を見据え、口数少なく黙っている。海から来た潮風が二人の髪を揺らす。ウィンディはそれを払いのけてなお、花織のことを見つめていた。
「今日はカオリに話があってきた」
そう言ったウィンディは花織を連れてセントラルパークの海岸に降りた。まだ朝早く、彼らのほかに人影は見えない。今まで走ってきた花織は風の心地よさに目を伏せる。そうしていつもとは雰囲気の違うウィンディが話を切り出すのを待っていた。
「あのさ、カオリ」
「うん」
ウィンディが彼女の名前を呼べば、花織は目を開けてウィンディを見つめた。やはりいつもとは違う、思いつめた表情。しばし沈黙し、何やら迷っていた様子のウィンディは決心したように面を上げ、花織を見つめる。
「あの男とは、上手くいってるのか?」
「あの男?」
「カゼマルとかいうやつ」
どき、と花織は心臓が大きく拍動したのを感じる。痛いところを突かれたように目に見えて動揺した。……上手くいっているだろう。特に大きな問題もないはずだ、花織の心情を除けばだが。花織は乾いた唇を舐め、静かな声で返答する。
「……上手くいってるよ、どうして?」
「そうには見えないからだ。……俺にはカオリが時々寂しそうに見える」
スルスルとウィンディは花織の心の中を暴くように花織の核心を突く言葉を並べ続ける。花織は真っ直ぐなウィンディの瞳に怯んで目を逸らしてしまう。見つめていると何もかも見透かされてしまいそうだった。
「何か悩みがあるんじゃないか、あいつのことで」
「……そんなことないよ」
「でも俺には分かる」
ウィンディがそっと花織の手を取った。花織の手を取り、軽く口づけを落とす。花織は目を見張った。ウィンディはじっと花織を見つめている。
「俺、カオリが好きだ」
ずっと堪えていた言葉が飛び出した。花織は息を飲む。もちろんウィンディの気持ちを知らなかったわけではない。散々、アレだけアプローチされればどれだけ花織が鈍くともウィンディが自分に抱いている感情は容易く察せた。
「俺なら、カオリを悲しませたりしない」
「ウィンディ……」
呟くように花織が彼の名前を囁く。彼の瞳はどこまでも純粋に花織を見つめていた。何の混じりけもなく花織を見つめて、真剣な言葉を告げる。だが、花織は目を伏せる。静かに彼から手を引いた。花織に彼の気持ちは受けられない。
「ごめんね、ウィンディ」
花織は彼の口づけを受けた右手を胸に抱いた。指先に触れる固い感覚。何も言わずにそれを確認する。そして花織は目を伏せたまま、静かな声できっぱりとウィンディに返答する。
「私には一郎太くんがいるから。……だからウィンディの気持ちは受け取れない」
さらさらと結い上げられた黒髪が揺れる。ウィンディは花織をじっと見ていた。だったらなぜ、そんな顔をするんだ。ウィンディは悔しげに眉を顰める。花織が好きだというならその表情の曇りはどんなに鈍感だって分かる。花織は今、悩んでいる。それもアイツのことで。花織を悩ませるヤツにみすみす花織を渡して引き下がれるだろうか、答えは否だ。
「俺は諦めない。……カオリ、お前は俺の運命の人だ」
「ウィンディ……」
「じゃあな、今日は帰る」
花織が引き留める間もなく、ウィンディは浜を走り去っていった。花織は強く胸のネックレスを握りしめて彼の背中を見つめる。その姿はとても花織が恋い慕う彼の姿にそっくりだった。