FFI編 第十一章
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「エドガー! 大丈夫かエドガー‼」
決勝点を決めてくれたエドガーにリカが駆け寄る。しかし風丸はエドガーを労うよりも先にピッチの外、台座で眠りについている花織の元へと走った。白い花嫁衣裳を纏って眠りについている花織、まるでおとぎ話に出てくる白雪姫のような。風丸はそっと花織の身体を抱き起して自分の腕に抱く。
「花織、花織……‼」
風丸が強く花織の身体を揺さぶる。だが、花織が目覚める気配はない。何故だ、試合には勝ったのに。風丸は焦って花織の身体を抱きかかえる。身体は温かい、息もしている。眠っているだけだと思うのだが。
「花織さん、目を覚まさないの?」
風丸に続いて駆け寄ってきた吹雪が風丸に問いかけた。ああ、と風丸は返答する。ふと風丸はここで試合前のセインの言葉を思い出した。セインは花織に”眠ってもらっている”と言っていた。もしかしてセインならば花織を眠りから覚ます方法を知っているのではないだろうか。
「セイン‼」
風丸は髪を翻して鋭くセインを呼びつける。ただごとではない風丸の様子にわらわらと円堂たちが集まってきた。風丸は円堂とともにやってきたセインを睨み上げる。
「花織が目を覚まさないんだ」
「ああ、それは私が聖なる眠りの呪いを掛けたからだ」
セインがしれっとした様子で風丸に言った。円堂と何を話したのか、幾分柔和な態度だ。風丸は眉間に皺を寄せる。聖なる眠り、確か試合前にセインがそんなことを言っていた。
「誓いの儀式を行えば、彼女は目覚める」
「誓いの儀式?」
先を急くように風丸が尋ねる。セインは何でもないことのように風丸に言った。
「真の愛の接吻のことだ。下界の者も婚姻の儀の際には神の前にてこの儀を行い、愛を誓うというではないか」
「せ、接吻って……」
セインの言った言葉の意味を察して風丸の顔にわずかに赤みが差した。ざわざわっと選手たちがざわめく。リカがあっけらかんとして言い放った。
「それって、風丸が花織にキスすれば解決っちゅーことやろ?」
「そんな身もふたもない……」
人差し指を立ててリカが呟く。呆れた様子で塔子がリカを制したが、実際リカの言う通りだった。セインの言うことは彼女を愛する者が花織にキスをすれば、彼女は目覚める。そういうことだ。
「だが、真の愛を持つものでなければ彼女は目覚めない。そういう呪いだからな」
ただキスをすればよいわけではない。セインの言葉に風丸にプレッシャーが掛かった。彼が本当に花織を愛しているのか、それが今ここで試されるということになる。
風丸は腕に抱いた花織を見つめる。白いヴェールに白いドレス。覗き込んだ美しい顔。彼女の長いまつげは伏せられていて、桜色の唇は艶やかに風丸を誘う。口づけなんて造作もないこと。それなのにこんなに胸がドキドキとするのは部外者の視線が集中しているからだろうか。
「花織……」
風丸が花織の頬を撫でて愛おし気に彼女を見つめる。ギャラリーの反応もそれぞれだった。何らかを察した土方はさっと近くにいた木暮の視界を両の手で遮った。他にも自ら視線を逸らすもの、逆に興味津々でふたりを見つめるもの、さまざまである。リカなどはきゃあと叫ぶのを堪えて口元に手を当てている。
「……」
静かに風丸が花織を抱き寄せ、優しく彼女の唇にキスを落とした。ざわり、と周りの空気がどよめくのも気にしないでふたりは長い口づけを交わす。風丸がそっと顔を上げると風丸の腕の中でそうっと花織が目を開いた。
「……一郎太くん?」
「目が覚めたか、花織」
ふわりと微笑んで花織が風丸の頬に手を伸ばす。そっと柔らかな花織の手が風丸の頬に触れ、花織の目が細められた。
「助けにきてくれたんだね」
「来るさ、花織の為ならどこへだって」
「……一郎太くん」
花織が風丸の首に腕を回して今度は彼女が彼に口づける。それを風丸は拒んだりはしなかった。しっかりと花織の身体を抱きとめてキスを受け止める。熱烈に口づけを交わすふたりがギャラリーの存在に気が付くのは、これから五秒後のことであった。