FFI編 第十一章
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風丸はずっと花織のことを胸に秘めて、ここまでマグニード山を登ってきた。彼女が無事であるか、それだけが気がかりだった。厳しい山を登ると開けた場所へ出た。美しい花園と遺跡のような建物、まるで神話に出てくる楽園のような場所。おそらくここが花織が連れてこられたというヘブンズガーデンなのだろう。
「何をしに来た」
花織を探して遺跡の中へ駈け込もうとしたその時、上空から声が降った。風丸はその声を鋭く睨みつける。その声は花織を攫ったあの奇妙な男の声だった。
「ここは下界の者が来るようなところではない。すぐに立ち去れ!」
声の主はやはりあの男、セインだった。二人の仲間を従えて、建物のバルコニーらしき場所から風丸たちを見下ろしている。
「何やて⁉ つべこべ言わんと、はよ花織を返せっちゅーんじゃ‼」
リカがセインに食って掛かる。だがセインは厳しい面持ちを崩さずにきっぱりと言い切った。
「それはできない、あのお方はライオコット島に平和をもたらす捧げもの」
「捧げもの?」
「何を言ってるんだ‼」
捧げもの、という言葉に激昂した風丸が円堂の言葉にかぶせるようにして怒鳴った。セインがちらりと風丸を見下ろす。他の者とは目の色が違う。なるほど……。
セインは納得したような表情をしてすっと横に右手を広げた。すると建物の奥からエカデルが現れる。エカデルの腕には目を伏せ、白い衣装を身に纏った花織の姿があった。風丸は目を見開いて一歩前に踏み出す。
「花織‼ 聞こえないのか、花織‼」
「無駄だ。彼女は今、聖なる眠りについている」
花織の姿が見えたことにより、取り乱す風丸をせせら笑うようにセインが見下ろした。風丸がセインを睨む。セインはちらりと花織を見て、風丸らに宣言した。
「このお方には千年祭で復活する魔王の花嫁になって頂く」
「魔王の花嫁⁉」
驚きの声がチーム全員から上がる。風丸はぎゅうとこぶしを握ってセインを見上げた。セインは高らかに声を上げて宣言する。
「千年祭にて復活せし魔王、伝承により選ばれし者を娶り、再び深き眠りにつく」
「アンタら、魔王を封印するために花織を花嫁にするっちゅーんか‼ そんなの許さへんで‼」
指をさし、リカが叫ぶ。他にも口々に選手たちがセインらに言葉を投げかけた。それに対して天界の民は呆れたような表情をして風丸らを見下ろす。ただ選手たちが叫ぶ中、風丸は一人無表情にセインを見上げていた。
「花織は渡さない」
「フン、お前だな。花嫁が言っていた心に決めていた人間、というのは」
セインが鼻で笑いながら風丸を見下ろした。風丸の表情が一瞬驚いたようなものへと変わる。セインは昏々と眠り続ける花織を見つめて不敵に微笑んだ。そして風丸を見下ろして言葉を続ける。
「花嫁は言っていた。下界に、心に決めた男がいるから解放してくれと。少し聞き分けがわるかったからな、彼女には眠ってもらっている」
「お前……っ‼ 花織を返せ‼」
ギリと奥歯を噛み締めて風丸が叫ぶ。彼の怒りは最高潮だったが、セインの苛立ちも引けをとらないものだった。どっちも一歩も譲らぬ睨み合い。
「これだけ言っても引かぬ、か。……ならば仕方ない、我らの力で下界へ叩き落すまで」
結局、花織の身柄についてはサッカーの勝敗で決めることになった。何故サッカーかというと、伝承にもあったとおりサッカーが天界の民にとって力の優劣を決めるための手段として伝わっていたためである。
花織を助けるには、こいつらに勝つしかないってことか……
風丸はちらりと得点板を見上げる。その下に設けられた玉座に花織は座らせられていた。風丸は花織を見つめる。今も俯いており、ヴェールによって表情は見えない。
……すぐに助けてやるからな。
ホイッスルが鳴り響き試合が始まった。だが圧倒的な天使の力にすぐさまセインの必殺技、ヘブンドライブにて一点を取られてしまった。しかし前半はフィディオのオーディーンソードによってなんとか巻き返すことができた。
だが後半、圧倒的な力差があるためか防戦一方の試合展開となってしまった。何度も何度もゴールに向かってシュートが放たれる。円堂が防ぎきれない分は、塔子のザ・タワー、そしてリカが身体で受け止めてゴールを守った。
「花織は渡さへん……っ、ウチの大事な友達やから‼」
ギュエールのシュートをお腹で受け止めたリカが、腹を抑えながらも立ち上がる。その姿は友のために戦う意思に溢れていた。
「レディ、大丈夫ですか!」
「大丈夫や。こんくらい、友達のためなら何でもない……‼」
強く輝く瞳にエドガーは何か胸を射抜くものがあった。今まで自分を取り巻いていた淑やかで守るべき存在とは違う、共に戦おうとする女性。そんな女性の姿にエドガーは心を打たれた。
「ヘブンドライブ‼」
手薄になったゴールに向けて、再びセインのヘブンドライブが繰り出される。エドガーは覚悟を決めて飛び出す。リカは訳の分からないエドガーの行動に目を見開いた。
「何しとんのや、エドガー‼」
セインが放ったヘブンドライブへ向かって無謀にも駆けだしたエドガーに立ち上がろうとするリカが声を飛ばした。エドガーは真っ直ぐにリカの想いを汲んで走り出す。
「エクスカリバーは、距離が長くなれば長くなるほど威力が増す‼」
エドガーの意図がリカに伝わる。エドガーのエクスカリバーにヘブンドライブのパワーが加われば。だが、それは……。思わずリカは叫んだ。
「やめて! そんなことしたらアンタの足が‼」
「レディを守るために潰れるのなら、この足も本望だ‼」
だがエドガーは振り返らない。リカの叫びをむしろ力に変えて強く踏み込む。高く足を上げ、ヘブンドライブへと渾身の力を叩きこんだ。
「エクスカリバー‼」
ヘブンドライブの力を吸収したエクスカリバーが渾身の力で放たれる。そのシュートはまるで光のような勢いでゴールに突き刺さった。ごと、っと数字盤の動く音。二対一。勝ち越しと同時に試合終了を告げるホイッスルが響き渡った。