FFI編 第十一章
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花織と春奈が誘拐された。その事実はチーム内に混乱をもたらした。マグニード山へ向かう道を駆けながら、風丸は拳を握る。花織を守り切れなかった自分を彼は悔いていた。
現在、彼らはライオコット島の伝承を本当のことだと信じ、彼らが住まうと言われているマグニード山へと足を向けている。それは彼らが魔界や天空、という言葉を用いていたこと、そして伝承の鍵を付けていた春奈に対し「選ばれた」花織に対して「迎えに来た」という言葉をかけたことを根拠としている。本当は彼女たちがどこにいるのかも分からない。ただ偶然にしてはできすぎている。
山のふもとに辿り着くとそこには二人の老人が立っていた。老人を見つけ、リカと塔子は食って掛かる。何でもその二人が伝承の鍵を渡した張本人のようだ。
老人たちは不敵に笑い、花織たちを取り戻したいならば道を行けと言い放った。天空の使途住まうはヘブンズガーデンそこには花織が、魔界軍団Z蠢くはデモンズゲートそこには春奈がいるとのことだ。
ここで道が分かれている。ヘブンズガーデンに向かうのであれば上へ、デモンズゲートへ向かうのであれば下へ向かうことになる。風丸たちは先ほど別れた紅組白組でそれぞれの場所へと向かうことになった。紅組はヘブンズガーデンへ、白組はデモンズゲートへ。
「風丸」
花織を救うべく拳を握る風丸に、鬼道が声を掛けた。風丸はちらりと鬼道を見る。鬼道は平静を装っているが、きっと内心落ち着かないだろうと風丸は思った。何しろ鬼道は、実の妹と想い人がどちらも誘拐されている。
「花織を頼むぞ。俺は春奈を助け出す。……本当ならどちらも俺の手で救い出したいが」
鬼道の手がぎゅうとこぶしを握った。身体は一つしかない。どちらかを選ぶとなれば鬼道は迷いなく春奈を取った。なぜなら花織には自分のほかにも彼女を守ろうと異常にいきり立つものが何人もいる。
「ああ、花織のことは任せてくれ。あんな奴に花織は渡さない。だから鬼道は音無を救うことだけを考えてくれ」
風丸と鬼道は視線を交わす。どちらともなくこぶしを差し出して互いに、こぶしをぶつけた。絶対にそれぞれ捕らわれた少女を助け出すという固い意志を目に宿し、彼らは手を腕を下す。風丸は天界へ、鬼道は魔界へ足を進める。
「風丸、ごめんな」
ヘブンズガーデンへ進む道を歩くさなか、リカが申し訳なさそうに風丸に声を掛けた。風丸はどうした、とリカを見る。リカは俯きいつもの元気もなく悔しそうな顔をしている。
「ウチがあの腕輪を花織にあげたばっかりに……」
ずっと気にしていたのだろうか。風丸は目を少し見開く。だがこうなってしまったのはリカのせいではない。風丸は頼もしく、むしろ微笑んでリカの肩を叩いた。
「気にするな。……花織は俺が助けだす。だからリカも力を貸してくれ」
「風丸……」
リカが救われたような表情をして風丸を見つめる。そして張りつめてた緊張を少しだけ崩して口元を緩めた。責められても仕方がないと思っていた。何しろ風丸は花織をあんなにも大切にしているのだから、その彼女をみすみす危険にさらすようなことをしてしまったからこそ、彼の反応はずっと怖かった。
「むっちゃ、男前やなアンタ」
彼女が惚れこむのもわかるような気がした。何しろ彼は、こんなにも頼もしく微笑むのだから。
❀
深い心地よい眠りから目覚めたような気分だった。花織は意識の覚醒と同時に瞼を開く。目に飛び込んできたのは見慣れない天蓋。驚いて飛び起きれば見覚えのない石造りの部屋に彼女はいた。
「ここは……?」
思わず声を漏らす。寝かされていた豪華なベッドから降りて彼女は靴を履いた。そしてきょろきょろと部屋を見回す。部屋にある唯一の扉の取っ手を捻ってみるも鍵がかかっているのか、扉は開かなかった。
「……」
そうしているうちに、彼女は段々と意識を失う前のことを思い出し始めていた。雷鳴轟くピッチに降り立った天使のような少年。彼に指先を突き付けられたと同時に深い眠りが花織の意識を奪った。おそらくあの少年にここまで連れてこられたのだろうということを花織は推察する。
――――やっぱり、この伝承の鍵の為……?
花織は眉をひそめて腕からなおも外れない腕輪を見る。これのためにここに連れてこられたのだとしても、ここに花織を連れてきた人物は一体花織をどうする気なのだろうか。
考え込みながら花織は部屋の窓を開いた。ここは鍵がかかっていないようですんなりと窓が開かれると同時に冷たい風が部屋に吹き込んできた。風になびく黒髪を抑えながら花織は少し背伸びをして窓の外を覗き込む。想像以上に高い場所だ、ここからの脱出は無理だろう。
そのときがちゃ、と部屋の扉が開く音が聞こえた。花織はびくっと飛び上がって背後を振り返る。扉から部屋に入ってきたのは青い髪の整った顔の青年だった。花織は警戒しつつ、青年を見やる。あの少年、花織をおそらくここに連れてきた少年と全く同じ奇妙な服装をしている。
「お目覚めですか」
青年は両の手を握り合わせて真っすぐに花織を見据えて問うた。花織は石壁に背を預けつつ、彼を見て自分の身を守るように自分の胸の前で腕を組む。
「今朝は少々冷えて御座います。朝風は身体に毒ですよ」
青年は花織の警戒を他所に部屋へと踏み込み、先刻花織が開け放った窓を閉めた。花織は用心深く青年を見ながら彼とは一定の距離を取って後ずさる。
「貴方は……?」
「申し遅れました、私はエカデル。花嫁様の身の回りのお世話をさせて頂きます」
エカデルと名乗った青年は深々と頭を下げる。
「花嫁?」
花織はエカデルの放ったその一言に怪訝そうに顔を顰めた。意味が分からない。だが花織の混乱などまったく気にしないように今度はまた同じ服を身に纏ったふたりの少年が部屋へと台車を運び込む。
「何……?」
花織が明らかに戸惑ってぎゅっと自分を強く抱く。目の前で展開されてる出来事に頭が付いて行っていない。
「朝食にございます」
「あの、エカデルさん」
困惑しつつも花織が切り返す。テーブルには着々と朝食の準備が進められて行っている。七面鳥、スープ、サラダ、果物。まるで王族のための食事のようだ。花織はそんな食事を他所にエカデルを見つめる。
「私は今すぐにでも帰らなくてはいけないんです。チームに心配を掛けてしまっていますし……」
「そういうわけにはいきません」
落ち着いた声色でエカデルが花織に語り掛ける。鋭い眼光が花織を見つめた。花織は少しだけ怯む。エカデルは静かな声で言葉を続けた。
「貴女様は伝承の鍵に選ばれた花嫁」
「私が、花嫁……? ちょっと待ってください」
焦った口調で花織がエカデルに言う。選ばれただかなんだか知らないが、花嫁なんかにされては堪らない。だが花織の心情など知ったことではないとばかりにエカデルは花織の背に触れて、椅子につかせようとする。
「さあ、朝食をどうぞ。朝食の後はお召し物の準備もできておりますから」
「いりません。だから私をみんなのところへ帰して」
花織が凛と睨みつけてエカデルの申し出を拒絶する。エカデルは仕方なし、というようにため息をついてひらりと掌を花織の前に差し出した。そしてではこうしましょう、と妥協案を述べ始める。
「貴女様が朝食を摂り、お着替えを済ませて頂ければ、我々のリーダーに会わせましょう。私のみに貴方様を自由にする権限などないのですよ」
要は、今ここで従えば交渉の余地を与えてくれるということだろう。花織は眉を顰めつつ、エカデルを見上げる。
「本当に、話をさせてもらえるのですね?」
「ええ、約束は破りません」
「……わかりました」
花織はため息をついて席に着く。目の前に広げられたご馳走に食欲は湧かない。ここがどこかもわからないのに、悠長に食事を摂っている場合ではない。だが、これが解放への手立てとなるならば話は別だ。
花織は黙って皿に盛られたフルーツのようなものをフォークで突き刺す。少しだけ躊躇ったが、覚悟を決めて彼女はそれを口に含んだ。