FFI編 第十一章
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花織の体調不良は二日間ほどですっかり良くなった。これも風丸がつきっきりで看病をしたおかげだろうか、彼は花織の食事や氷枕の交換など、マネージャーがやるべきことも練習外の時間には行っていた。
サンサンと照らす太陽の元、パンっ、と洗濯物の皺を伸ばす音。花織は今、すっかり良くなった体で洗濯物を干していた。花織自身今回の件については反省していた。体調不良は自分の無理が招いたことだと。風丸に相応しい女性で在らなければという考えはぶれないが、あまり自分を追い詰めるのはチームに迷惑がかかるため、やめようと決断することができた。
「おはよう、花織」
次の洗濯物に手を伸ばしていた花織に声が掛かる。花織は微笑んで、その声に振り返った。彼女の背後には風丸が立っている。
「おはよう、一郎太くん」
「体調はもういいのか?病み上がりなんだから無理をするなよ」
そう言って風丸は軽く花織の両肩を支える。花織を見つめる彼の表情は少し心配そうだ。だが花織はにっこりと、偽りなく笑う。さらりと彼女の黒髪が風に靡いた。
「もう大丈夫だよ。一郎太くんのおかげで元気になった」
「そうか、花織が大丈夫ならいいんだ」
彼の表情に安堵が差した。表情を緩めて微笑み、花織の髪を耳に掛けてやる。じっとふたりの視線が絡み合い、風丸はさりげなく彼女の肩に置いた手を彼女の背へ回す。
「……花織」
耳元で囁くような声色、花織はそのこそばゆさとぞくりとするほどの色気に身を震わせる。思わずぎゅっと瞑ってしまった目を開いて風丸を見れば、風丸は艶っぽく微笑んでいる。
「なあ……、ダメか?」
すうっと彼の右手が花織の頬を撫ぜる。彼の親指が花織の桜色の唇をなぞった。そのしぐさで花織は彼が何を求めているのかを察し、頬を赤らめる。風邪を引いている間、ずっと手を握ってもらってはいたけれど、それ以上のことはしていない。風丸も花織、ふたりとも、もっとお互いを求めあっていた。あれ以上触れられない期間があったから益々その欲求は大きい。
「その、私もしたいけど……。まだ治ったばかりだから……」
ごめんね、と花織が顔を真っ赤にして少し申し訳なさそうに微笑む。風丸はそうか、と残念そうな顔をしたが、自分の身を案じての彼女の言葉に素直に納得した。
「でも、花織が元気になってくれて本当によかったよ」
ぎゅっと風丸は花織を抱き寄せてそう囁く。花織は彼の胸に抱かれてドキドキとしながら風丸を見上げた。優しい頼もしい微笑みが自分を見つめている。何物からも自分を守ってくれそうな、そんな頼もしさで一杯の彼。こうしているだけで今までの不安すら溶けてなくなってしまうような。
「おーい、風丸ー! どこにいるんだー?」
びくっと風丸と花織は飛び上がらんほどに驚く。今のは円堂の声だろう。どうやら風丸を探しているようだ。そろそろ午前の練習も始まることだし、今日の練習メニューについて何か話しておかなければいけないことがあるのかもしれない。
「じゃあ花織、またあとでな。何かあったらすぐに俺や木野を頼るんだぞ」
ちゅっと軽く頬に口づけを落として風丸は花織から手を離す。花織は風丸の行動に少し驚いたが、それでも嬉しそうにクスクス、と笑って風丸に手を振った。
「いってらっしゃい。私も後でグラウンドに出るから」
ああ、と頷いて風丸もひらりと手を振る。とても甘く濃密な空気、朝から仲の良いふたりのひと時であった。
❀
イナズマジャパンはイタリア、オルフェウスとは引き分けに終わった。Aブロックからの決勝進出は一位オルフェウス、そしてイナズマジャパンは決勝トーナメントへの自力進出はなくなり、アメリカ対アルゼンチンの結果待ちとなった。アメリカの勝ち点によってイナズマジャパンが決勝進出できるかが決まる、結果は固唾をのんで見守ることとなった。
テレビの前で見守ったアメリカ対アルゼンチン戦。やはりアメリカは一之瀬の欠場が大きく響いているようで、アルゼンチンに一歩及ばず一対ゼロで勝ち点の勝るイナズマジャパンが二位で決勝進出をすることとなった。
「あー! これイイ! むっちゃ可愛い‼」
さて現在、リカと塔子はライオコット島でショッピングを楽しんでいた。彼女たちは決勝進出したイナズマジャパンを応援に来たのだが、その前にとライオコット島の観光を主にリカが楽しんでいたのである。
既にたくさんの買い物をして重い荷物を担いで二人は店を巡る。今リカが目を付けたのはライオコット島の民芸品が並ぶ出店だった。
「おお、よく来たね」
「この島は初めてかい?」
独特の民芸品に夢中になるリカ。そんな彼女に店番らしき二人の老人が声を掛ける。リカは老人に対して威勢よく返事をした。
「初めてや! せやからまけたってや!」
ええ、まだ買うのかよ、と塔子は半ば呆れてリカに苦言を呈した。リカはそんな塔子に無理やりアクセサリーを見るように押し付ける。
「なあ、おっちゃん。これみんなライオコット島の民芸品なんか?」
「そんなところじゃ」
「天と地の交わる場所、あのマグニード山で作られた由緒正しき品じゃ」
そういって老人の一人がライオコット島の中央にそびえる火山を指さした。活火山であり、いまも黒煙を噴き上げるその山。塔子は顔を顰めてなんか怪しい、と呟いた。
「ところでお前さんたち、サッカーが好きなようじゃのう?」
「好き好き大好きや! 三度の飯よりサッカー愛に溢れとるで」
リカがぴょんぴょん飛び跳ねてそのサッカー愛をアピールする。それには塔子も同調してグッと拳を握ってリカに続いた。
「あたしたち、イナズマジャパンの応援に来たんだ」
「そっ、うちら勝利の女神や‼」
塔子とリカ、二人で手を合わせてポーズを決める。その二人の女神、という言葉に老人は何か思うものがあるようだった。
「おお、女神とはな……。素晴らしい」
「女神を名乗るならばとっておきの品を見せるとしようか」
そういって二人の老人は塔子とリカの前に二つの腕輪を差し出した。一つは白に青のラインが入り、翼の紋章が描かれたもの。もう一つは紫に、グレーのラインが入り蝙蝠の紋章が描かれたデザインのものだった。リカがきらきらと目を輝かせて腕輪に見入る。
「これはライオコット島に古くから伝わるものじゃ」
「サッカーを司る天と地の王よりの贈り物なのじゃ」
腕輪は陽光を浴びてきらきらと淡く光を放っている。他の民芸品とはどこか違う、神秘的な雰囲気。
「すっごおい……。光ってるやん」
リカは完全にその腕輪に魅せられていた。一方塔子は趣味悪い、と一蹴してしまう。老人はさらに語り続けた。
「その名を伝承の鍵という」
「天と地の王の元へ導いてくれるぞ」
天と地の王、妙なことを言う老人たちだ。だがそんなことも気にしない様子でリカは腕輪を見つめる。そしてリカは白い腕輪と紫色の腕輪どちらを取るか見定め、白い腕輪を手に取った。
「おっちゃん、これいくら?」
「えっ! 買うの?」
「アンタはこっち‼」
戸惑う塔子にリカは紫色の腕輪を押し付ける。老人はそんなふたりを見てお代はいらないと言った。それにテンションが上がるリカであったが、塔子は逆にそれを訝しんだ。
「綺麗やなあ……」
魅せられるがまま、リカは腕輪を自らの腕に嵌めようとする。だが指先まで腕輪を通してぴたりとその手が止まった。ふっと脳裏に一人の少女の姿が過ったのだ。間違いなく自分のために選んだはずの腕輪なのにこの腕輪を、どうしてもその子に送りたいと思った。
「おや、着けないのかね?」
老人が少し眉間の皺を深めて言う。リカはじいっと腕輪を眺めていたが、さっと自分の指先から外して荷物の中へと大事に仕舞い込んだ。
きっとあの子のことだ。あれ以来、お洒落もしていないだろう。たまにはアクセサリーの一つぐらいプレゼントしてあげないと。
「ああ、ちょっとな。この腕輪、ウチやなくてトモダチにあげようと思うんや」
思い浮かぶ黒髪の親友。こんなキラキラして可愛いものをプレゼントしたら、どんなに喜んでくれることだろう。